10. 歯医者への誘い〜過去の失敗〜

これはまだ、夫が歯医者に行かなかった頃のお話。

ある日、ふと夫の口臭が気になることがあった。
直接言うと傷つくかもしれない、
でも、もし他の人に指摘されるくらいなら、妻に言われる方が100億倍マシだろうし、そもそもそれが妻の務めだと思い指摘することにした。

多少、荒医療でも、これがきっかけで歯医者に通ってくれればいいなと思いながら。

「ちょっとお酒残ってる?それか疲れが出てるのかな?」
「え...臭う?」
「うん、ちょっとね。はぁ〜ってしてみて」
私は、口の前に両手を出して、息を吐いて見せた。

「(はぁ〜)...分かんない。」
なんと。自分の口臭は気づかないのか!

手で自分の吐いた息を吸う以外に、コップに息を吐きその匂いを嗅ぐ、という方法も試してみたが、夫は分からないと言う。
「なんで?!こんなに臭うのに?」と出そうになる言葉をギリギリ呑み込んだ。

夫は自分の臭いは分からないようだが、私に指摘されたことで多少落ち込んでいるように見えた。

「胃腸が弱ってるか、もしくは、口内環境が良くないだろうから
一回病院に行ってみた方がいいかもね。」
そう提案すると、夫は素直に病院の予約を取り始めた。


数週間後、胃と大腸の内視鏡検査を無事に終えた夫。
医師からは「問題ない」と健康体の太鼓判をもらったようで
「俺、胃腸が丈夫みたい」と喜んで帰ってきた。

よし、機嫌が良さそうだしこの流れで歯医者だ、と意気込む私は
「胃腸が問題ないなら、歯かなぁ?」と軽くジャブを打ってみる。
と、夫は急に「いや大丈夫だって」と言い
「○○(私)の鼻がおかしいんじゃないの」と言い出した。

このままじゃ駄目だと思った私は、強めに指摘したのだが
「気をつけるから」「あんまり言わないでよ」の返答に終始し、話が進むことはなかった。

結果、口臭を指摘して歯医者に行かせる作戦は失敗に終わった。

何が夫をここまで頑なにさせているのか、私には分からなかった。
だけど、今思えば、今のままじゃダメだ、もう悪い状態だ、ほら早く歯医者に行かなきゃ!と追い詰めるような方法を取ってしまった。

歯医者に行きたくない理由があるのか、もしかしたら何か悩んでいることがあるのか、もう少し寄り添って話を聞いてあげればよかったのかもしれない。

正直、大の大人が歯医者にも行けないなんて、と呆れていた私は、そんなことに気付かぬまま、単純に、夫を傷付けただけだったのだ。

そうして、実際歯医者に通うまで、
ここから5年もかかることになるのだった。

(続く)

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