見出し画像

今の自分への肯定の歌集―『あかるい花束/岡本真帆』感想—

岡本真帆さんの第二歌集『あかるい花束』、とても素敵な歌集でした!第一歌集の『水上バス浅草行き』もそうだったけど岡本さんの短歌ってなんでこんなにまぶしいんだろう。ぐっときて泣いちゃいそうになる歌もあれば思わず微笑んでしまう歌もあってとても良かったです。連作「ちぐはぐな布」とか「天皇賞(秋)」とかの日常感もすごく好きだなぁ。岡本さんの生活を感じられる歌好き。Xを見ても岡本さんの生き方はエネルギッシュで憧れます。もちろん、私が知ってる岡本さんは岡本さんの一部でしかないのでしょうけども。

『あかるい花束』は今のありのままの自分を肯定するような優しさ、そして明るさがあると思います。たとえばちょっと元気がない友人がいたりしたらこの歌集を渡したいなって思うような、そんな歌集でした。私自身も読んでて救われました。


好きな短歌を引用して簡単な感想を書いていこうと思います。


開かない花だとしてもまっすぐな茎で私の元にきたこと

岡本真帆『あかるい花束』P27

泣きそうになってしまうのは主体から開かない花への愛情をとても感じるから。主体は花が開くのを待ち望んでいた時間があると思うけど開かないと悟ってそれでもその花の持つまっすぐな茎を愛す。人間関係にも置き換えられるなと思った。たとえば主体が親で花が子とか。個人的な話だけど私は何者にもなれなかったなぁという思いがつよくてこの歌を読んだとき、自分こそが「開かない花」だと思った。でも少なくとも大きな過ちは起こさず生きてきて「まっすぐな茎」ではあると思う。……ウン、自分で言うのもなんだけど……。で、親はこんな私のことを愛してくれていて、それがうれしく、ときどき後ろめたい。だからこの歌を読んで、自分と親のことを考えて泣きたくなってしまう。開かない花でごめん、それでも愛してくれてありがとう、と。
そのまま主体と花のこととして読んでも素敵だし人間関係に置き換えても素敵。いい歌だなぁ。


ただしくよりたのしく歩く 光ってる水が見たくて すこし小走り

岡本真帆『あかるい花束』P29

「ただしいよりたのしく」、本当にこうありたい。私は正しく生きないといけないと思うことが多くて自分で自分の首を絞めていることが多い。でも楽しく生きてもいいんだ、正しくなくても楽しければそれで、とこの歌は思わせてくれてそこに救われます。


晴れの日は風と暮らして雨の日は涼しいなって気持ちと暮らす

岡本真帆『あかるい花束』P37

軽やかに世界を受け入れていて素敵だなと思いました。自分ではどうにもならないこと(ここでは天気のこと)を受け入れて、できるだけ楽しく暮らす。それは現代的であり、むずかしいことでもあり。でもこうありたいな。


夏が好き すべてのものが永遠のような顔してそうじゃないから

岡本真帆『あかるい花束』P46

分かる……。なんでこんなに的確に夏が持つ魅力を言葉にできるんだ……。ふるえる……。本当にすごい……。
この先、夏が来るたびに私はこの歌を思い出すと思う。


どの道を選んでいても不安という悪魔にあうの?なんだ、よかった

岡本真帆『あかるい花束』P50

この歌には本当に感謝したい。迷ってばかりで不安ばかりな自分が救われました。ありがとうございます。
結句の「なんだ、よかった」がすさまじい。どの道を選んでいても不安になるなら絶望を感じてもおかしくないけどこの歌はちがう。どの道を選んでいても不安になる、それならば今不安があるのも当然のこと。まちがってるわけじゃない。今の自分を肯定していると思う。
「なんだ、よかった」がつよがりとかじゃなく本心でさらっと出た言葉のようでいいな。主体はこういう肯定の思考回路ができてる感じで。 「選んでいても」というところもいい。現在進行形で選んでいる。過去の選択じゃなくて今の選択を、本当に今の自分を肯定している。救われるなぁ。素敵な短歌。


最強のバディがほしい ホログラムシールのたったひとつをあげる

岡本真帆『あかるい花束』P86

「最強のバディがほしい」←分かる
友達とか恋人とかじゃなくてバディ。ホログラムシールは子どものときにシール帳が流行ってていろんなシールをあげたりもらってたりしたの思い出してなつかしい気持ちになった。大切なたったひとつのホログラムシールを躊躇なくあげられる相手、そんな相手が欲しかったし今でも欲しいなぁと思う。ホログラムシールのきらきらがこの歌をきらきらさせていて、「最強のバディがほしい」という憧れへのまぶしさを感じる歌。素敵です。


『あかるい花束』、他にも本当に素敵な短歌がたくさんある歌集です。あとあと、読んでいると定型ってやっぱりいいなって思いました。読んでいて気持ちいい。歌集をあまり読まない方にもおすすめしたいなと思いました。歌集をよく読む方にももちろんおすすめしたい。未読の方はぜひ読んでみてください~!



2022年11月29日に手に入れた#読む三ツ矢サイダー

おまけ。岡本さんの短歌とコラボした三ツ矢サイダー、手に入れてました。この歌も好きです。『あかるい花束』にも収録されています(P166)。愛と会い、素敵だなぁ。

この記事が参加している募集

#読書感想文

190,514件

最後まで読んでいただきありがとうございました!皆さんの「スキ」や「サポート」が励みになります!よろしければ…!