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完璧な日々

役所広司さん主演の映画『Perfect Days』を観に行った。役所さん演じる主人公・平山の代わり映えのしない、淡々とした日常を映した作品だ。監督はヴィム・ヴェンダース。彼の作品が好きで、そのほとんどを観ている。

平山は毎日同じ時間に起き、洗顔し、髭を剃って着替え、家を出る。仕事は都内のトイレ掃除。無口な彼は、職場の人ともほとんど言葉を交わさない。仕事が終わると日課の銭湯に行き、行きつけの店で一杯。寝る前に布団の中で文庫本を読み、眠くなったら寝る。それの繰り返し。

休日には1週間分の洗濯物をコインランドリーに持っていき、これまた日課のカメラ店と古本屋へ足を運び、スナックで気に入りの店主と少しだけ話して家へ戻る。

映画を観終わったとき、正直、安堵感に包まれた。「今のままの自分でいいんだよ」と、言ってもらえた気がした。SNSでは誰もがつながり、華やかな日常が映し出される。一方、私の日常はとても地味で、家で仕事をして日課の温泉に行き、最近は晩酌がささやかな楽しみだ。休日にも友人と会うことは稀で、映画を観たり、本を読んだり、自然の中を歩いたりして過ごしている。

時折、そんな自分が間違っているかのような気になったりもした。もっと、人と会ったほうがいいんじゃないか、もっと、SNSを更新したほうがいいんじゃないか。だけど実のところ、私はそんな淡々とした日常に心から満足していて、天気が良かった、ごはんがおいしくつくれた、といったささやかなことで満ち足りた気持ちになれている。

それをつい、他者と比較することで、あたかも自分が世間からずれているような気になってしまうのが残念だ。結局、自分軸を大切にできていないのだろう。

彼は、日常のふとした瞬間に出会う光や自然の美しさに感動し、ニンマリする。彼の生活は同じことの繰り返しのようで、一日たりとも同じ日はない。それは、誰にだって言えることだ。平山の生活を覗き見て、「そのままのあなたでいいんだよ」と、全肯定してもらえた気がした。

人と頻繁に会わなくたって、友人が少なくたって、一人の時間が好きなことだって、すべてOKなのだ。もちろん、時にはさみしくてたまらなくなることもあるけれど、そんな時には会いたい人に声をかけ、会いに行くことだってできる。まずは、私が私を丸ごと肯定してあげたいと思った。



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