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村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』書評 「死」を求めながら、全力でそれに抗うということ

村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』書評 「死」を求めながら、全力でそれに抗うということ

「喪失」と「受容」 この短編集には7つの作品が収録されている。各短編の登場人物はみな、過去に負ったある種の傷を背負いながら生きている。
 その傷は、1995年に発生した阪神大震災に端を発している。中には、同年に起こったオウム真理教による地下鉄サリン事件を想起させる作品もある。
 
 この短編集は、これらの傷ーその傷とはすなわち「喪失」ーを受け入れることをテーマとしている。いかにその「喪失」と向き合

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『女のいない男たち』書評 ジェンダーを超越する珠玉の恋愛小説を描く作家・村上春樹

映画版の記事はこちら
繊細な脚本と演技で、原作を補完した作品 映画『ドライブ・マイ・カー』評

村上春樹と宇多田ヒカル

 村上春樹というと、毎年ノーベル賞候補に挙げられるほどの地位を築いた作家であると同時に、アンチも多い。言われがちなのは、「男に都合がいい」「気取った文体」「性描写がつらい」などの意見だろうか。
 今回、映画『ドライブ・マイ・カー』がアカデミー脚本賞を取ったことを機に、原作の『女

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『ティファニーで朝食を』批評 女性性と消費社会を描いた哀しく儚い物語

『ティファニーで朝食を』批評 女性性と消費社会を描いた哀しく儚い物語

 

 トルーマン・カポーティ著、『ティファニーで朝食を』を読みました。儚くて哀しい物語のこの本が、いかなる物語であるかを分析していきたいと思います。
 
 この本は、「女性性」と「消費社会」について描いた本です。なぜそう言えるのか。まず、そのことについて解説していきます。

「消費社会」が「女性性」に解放をもたらした

 唐突な説明かもしれませんが、産業化にともなって、まず解放されたのは「男性性

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繊細な脚本と演技で、原作を補完した作品 映画『ドライブ・マイ・カー』評

*映画『ドライブ・マイ・カー』評。ネタバレあり。約2400文字。5分割ごとに印をつけています。

(1/5)
 私は、原作『女のいない男たち』を読んでから、映画を鑑賞した。この批評文はそれを踏まえて書かれたものだ。

 原作『女のいない男たち』は短編の連作集である。基本はどれも恋愛小説だ。そして、そこにおける一番のテーマは『喪失』である。
 しかし、映画は原作とは、その軸足を変えている。
 映画版

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