【短編小説】溶けない人
炎天下のアスファルトは、タイヤも溶かすらしい。
一心不乱に溶けた自転車を漕ぎながら、信号で止まるたびに水分を補給する。
進むたびにちゃぷちゃぷと水っぽい音を立てながら、彼に家へたどり着いた。
チャイムを鳴らす。誰も出ない。
しかしシャワーを浴びる音がする。
ゆっくりドアノブを回すと、あっさり開いた。
狭い6帖のワンルームの真ん中に、彼が眠っていた。少し蒸した部屋が気持ち悪い。
薄暗い部屋に散乱した服。女物のアクセサリー。私のじゃない。
シャワールームの音は止まない。彼じゃない誰か。
彼は私を呼んだことも忘れてるだろう。涼しい顔しておはようという、彼の顔が浮かんだ。
私は彼の枕元にぺたりと座り込む。今日は出て行かない。だって外は炎天下。自転車のタイヤはジリジリ溶けた。
私ももう溶けてしまいそう。
早く早く、その涼しい笑顔で溶け出す私をいびつに固めて。
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