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【短編】ぼくはチチチ星人じゃない

「おまえ、チチチ星人なんだろ。だからそんなに耳がとんがってるんだ」

さくら組のゆうせいくんがいった。ぼくは口をぎゅっとさせて「ちがうよ」といったけど、ゆうせいくんは聞いてくれない。

「チチチ星人はにんげんをおそって食べちゃうんだ。だからきゅうたと仲良くしたら、食べられちゃうんだぞ」

ゆうせいくんが大きなこえでみんなにいった。

チチチ星人は、よるにだけしゅつげんするナゾの異星人だ。おひさまの光がにがてで、ぼくたちがお外であそんでいるときにはねむっていて、夕方になるとにんげんを食べるためにおきてくる。

いつも「チ、チ、チ、チ、」といいながらよるをさまよっているんだって、このあいだの日曜日にはかせがいってた。らいしゅうはついにレンジャーたちがチチチ星人とたたかうらしい、ぼくもたのしみにしていた。

いじわるなまさとくんは「チチチ星人だ!」とぼくを指差す。「ちがうよ!」といいかえしてもだれも聞いてくれないから、ぼくは泣くのをがまんできなくなった。

「やめなよ、ふたりとも」

うしろからきららちゃんがきた。いつもぼくをかばってくれて、あそんでくれるやさしい女の子。

「だってきゅうたはトマトジュースがすきなんだぞ。チチチ星人とおなじだ。きららも、きゅうたとあそんだら食べられちゃうぞ」

「わたしだってトマトジュース好きよ。それに食べられないよ。だって、わたしのほうが大きいもの」

たしかにきららちゃんは、さくら組のだれよりも背がたかくて、年長さんみたいだった。チビ助のぼくよりも大きいし、ゆうせいくんやまさとくんよりも大きい。

ふたりはぶすっとしたかおをして「食べられたってしらないからな!」といって、外へあそびにいってしまった。

「泣いちゃだめだよ、男の子でしょ!」

ふりかえったきららちゃんが、ぼくの目をぐしぐしふいてくれる。ぼくはきららちゃんが大好きだ。

「ぼくがきららちゃんよりも大きくなったら、けっこんしてくれる?」

「いいよ。わたしより大きくなったらね」

きららちゃんとゆびきりげんまんする。パパみたいにたくさん食べて、はやく大きくならなくちゃ。



「ただいま、パパ!」

かえってくると、パパがおきていた。コップにはクレヨンみたいにまっかなのがはいってる。

「ぼくにもちょうだい」

「きゅうたにはまだ早いな」

「ぼく、もうトマトジュースのめるようになったよ!」

「パパが飲んでるのはトマトジュースじゃないんだ。きゅうたももう少し大きくなったら、飲めるようになるからね」

パパはお口のまわりを真っ赤にしていった。

「でも、おおきくなったら朝はねむらなくちゃいけないんでしょ。きららちゃんとあそべなくなっちゃうよ」

ぼくが口をとんがらせると、パパは大きな手でとんがった耳をなでてくれる。パパとおんなじ、トンガリ耳。

「大丈夫だよ。きゅうたが大きくなったら、きららちゃんもママみたいに”同じ”になってもらえばいいんだから」

「あ、そっか!」

ママも、パパとあうまではまあるい耳だったっていってた。きららちゃんもまあるい耳だけど、きっとトンガリ耳だってかわいいよ。

早くパパみたいに大きくなりたいな。そうしたらチチチ星人なんて言われなくなるぞ。だってパパはチチチ星人なんかよりもずっとかっこいいし、にんげんを食べたりはしない。ちょっともらうだけなんだ。

たまに「血、血、血、血、」っていってるときは、ちょっとにてるけどね。

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