【短編】ぼくはチチチ星人じゃない
「おまえ、チチチ星人なんだろ。だからそんなに耳がとんがってるんだ」
さくら組のゆうせいくんがいった。ぼくは口をぎゅっとさせて「ちがうよ」といったけど、ゆうせいくんは聞いてくれない。
「チチチ星人はにんげんをおそって食べちゃうんだ。だからきゅうたと仲良くしたら、食べられちゃうんだぞ」
ゆうせいくんが大きなこえでみんなにいった。
チチチ星人は、よるにだけしゅつげんするナゾの異星人だ。おひさまの光がにがてで、ぼくたちがお外であそんでいるときにはねむっていて、夕方になるとにんげんを食べるためにおきてくる。
いつも「チ、チ、チ、チ、」といいながらよるをさまよっているんだって、このあいだの日曜日にはかせがいってた。らいしゅうはついにレンジャーたちがチチチ星人とたたかうらしい、ぼくもたのしみにしていた。
いじわるなまさとくんは「チチチ星人だ!」とぼくを指差す。「ちがうよ!」といいかえしてもだれも聞いてくれないから、ぼくは泣くのをがまんできなくなった。
「やめなよ、ふたりとも」
うしろからきららちゃんがきた。いつもぼくをかばってくれて、あそんでくれるやさしい女の子。
「だってきゅうたはトマトジュースがすきなんだぞ。チチチ星人とおなじだ。きららも、きゅうたとあそんだら食べられちゃうぞ」
「わたしだってトマトジュース好きよ。それに食べられないよ。だって、わたしのほうが大きいもの」
たしかにきららちゃんは、さくら組のだれよりも背がたかくて、年長さんみたいだった。チビ助のぼくよりも大きいし、ゆうせいくんやまさとくんよりも大きい。
ふたりはぶすっとしたかおをして「食べられたってしらないからな!」といって、外へあそびにいってしまった。
「泣いちゃだめだよ、男の子でしょ!」
ふりかえったきららちゃんが、ぼくの目をぐしぐしふいてくれる。ぼくはきららちゃんが大好きだ。
「ぼくがきららちゃんよりも大きくなったら、けっこんしてくれる?」
「いいよ。わたしより大きくなったらね」
きららちゃんとゆびきりげんまんする。パパみたいにたくさん食べて、はやく大きくならなくちゃ。
*
「ただいま、パパ!」
かえってくると、パパがおきていた。コップにはクレヨンみたいにまっかなのがはいってる。
「ぼくにもちょうだい」
「きゅうたにはまだ早いな」
「ぼく、もうトマトジュースのめるようになったよ!」
「パパが飲んでるのはトマトジュースじゃないんだ。きゅうたももう少し大きくなったら、飲めるようになるからね」
パパはお口のまわりを真っ赤にしていった。
「でも、おおきくなったら朝はねむらなくちゃいけないんでしょ。きららちゃんとあそべなくなっちゃうよ」
ぼくが口をとんがらせると、パパは大きな手でとんがった耳をなでてくれる。パパとおんなじ、トンガリ耳。
「大丈夫だよ。きゅうたが大きくなったら、きららちゃんもママみたいに”同じ”になってもらえばいいんだから」
「あ、そっか!」
ママも、パパとあうまではまあるい耳だったっていってた。きららちゃんもまあるい耳だけど、きっとトンガリ耳だってかわいいよ。
早くパパみたいに大きくなりたいな。そうしたらチチチ星人なんて言われなくなるぞ。だってパパはチチチ星人なんかよりもずっとかっこいいし、にんげんを食べたりはしない。ちょっともらうだけなんだ。
たまに「血、血、血、血、」っていってるときは、ちょっとにてるけどね。
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