16才とまの話3。精神神経科

三日目

 エントランスに入って左に中庭があんだけど、そのど真ん中にシマトネリコがそびえてるんだ。シマトネリコって、お見舞いに来てくれたお祖母さんが教えてくれた木の名前。その周りにテーブルやベンチがぽつぽつ並んで、僕はその一つに腰掛けてた。鳩が人間に慣れていて、かなり接近してきたんで、手をそっと差しだしてみると、くちばしでつつくように噛んで来た。その全く痛くないのなんのって。鳩って、哀れな存在だよ。子供一人ですらまともに攻撃できないのに、ほとんど人工化した人間の住処に生きなきゃなんないんだぜ。
 声が明るいって?まあ今日は比較的体調が優れていたしね。新しい薬が合ってたらしい。どっちにしろ早く家に帰りたいけど、もしそれが叶わないのであればせめて穏やかに過ごした方がいい。そうだろう?
 それにしても、学歴があるからって威張りくさってる医者なんて、実際は何の役にもたってないじゃんか。何が「チームで考えていこう」だ。社交不安障害と鬱で死にたくなるほど参ってる人に大人数で押しかけて、本人はそれでますます参っちゃって、自己嫌悪に陥ってまた死にたくなるのがおちだっちゅうの。でも僕はそんな俗悪な死に方はしたくないね。陽光の中、自然の一部であることを自覚しながら、安らかに幸せに物質と化したいんだ。
 だから早く家に帰りたい。うちの猫ふくちゃんに会って、とても自然豊かとは言えないが、穏やかな家で窓辺に座って初春の風の匂いを嗅ぎながら本を読みたい。

                              とま

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