これまでの誤・偽情報、認知戦、デジタル影響工作に関する見直しのまとめ

目についたところから誤・偽情報、認知戦、デジタル影響工作に関する見直しを取り上げてきたが、人に説明する機会が増えてきたのでここまでのところをまとめてアップしておきます。
過去記事を全て網羅しておらず、重要なもののみになっているので、全部知りたい人はすみませんが、過去記事を麻ってください。


●要約

中露イランが行ってきた誤・偽情報作戦、認知戦、デジタル影響工作の効果は検証されていないため、その脅威の程度や優先度は明らかではない。対策についても同様でほとんどのものの効果は検証されておらず、調査研究はその効果に関係なく偏っている。
攻撃の脅威の程度や、対策の効果もわからない状態で対症療法的対策が行われており、対策が逆効果になっている可能性も高い。結果として、欧米の社会の分断は進み、不安定化し、民主主義的価値感は後退している
攻撃と対策の効果検証、総体としての成果をあげるための見直しを進める必要がある。

●内容

1.現在の欧米の対策は中露イランからの干渉を想定した対症療法的であり、国内の情報空間の問題に対応していない。

そのためテイクダウンなど見かけ上の成果はあげられるものの、国内の情報空間の問題は悪化するばかりとなっている。
中露イランの攻撃が相手国の国内に存在する問題を標的とし、それを煽り、分断や混乱を拡大することが多いことは知られているものの、欧米の対策は国内問題にまで手を付けようとしていない。そのため本質的にはなんの解決にもなっていない。誤・偽情報や認知戦が社会の全領域にわたる戦いであることを考えると、総体としての成果は社会の価値の維持、安定性によって図られるべきだが、民主主義の指標、SNS由来の暴力などは悪化する一方である。

最近、注目されているのは下記。
Don’t Hype the Disinformation Threat
https://www.foreignaffairs.com/russian-federation/dont-hype-disinformation-threat
DAN WILLIAMSの一連の記事
The misinformation wars - a reading list

https://www.conspicuouscognition.com/p/the-misinformation-wars-a-reading
Debunking Disinformation Myths, Part 1: This is not the "disinformation age"
https://www.conspicuouscognition.com/p/debunking-disinformation-myths-part
Debunking Disinformation Myths, Part 2: The Politics of Big Disinfo
https://www.conspicuouscognition.com/p/debunking-disinformation-myths-part-e14

フレームワークについて
誤・偽情報対策の決め手? 公衆衛生フレームワークは汎用的な情報エコシステム管理方法だった

https://note.com/ichi_twnovel/n/n51fa79a327ab

デジタル影響工作対策の基本方針についての論考
(「From Panic to Policy: The Limits of Foreign Propaganda and the Foundations of an Effective Response」の紹介)
https://note.com/ichi_twnovel/n/n8f97847a69b4

2.中露イランが行ってきた誤・偽情報、認知戦の効果は検証されておらす、優先度を高めて対処すべきものかは不明。

これまで行われてきた調査研究の多くは事例研究であり、中露イランが行ったことに焦点をあてている。その効果について検証した論文は少なく、効果がなかったことを検証した論文も存在する。

ロシア影響工作には効果があるのか? 論文からわかる答え
https://note.com/ichi_twnovel/n/n677cceb09f56
関係者全てにとって都合のよい誤・偽情報の脅威というナラティブ
https://note.com/ichi_twnovel/n/n55d166483331

3.これまで行われてきた対策の効果は検証されておらず、調査研究の分野はきわめて偏っている。

「2.」と同様、その効果は検証されていない。また、調査研究の分野は非常に偏っている。

最近の論文や資料から見えてくるデジタル影響工作対策の問題点 偏りがあるうえ有効の検証が不十分
https://note.com/ichi_twnovel/n/nc658fc12d401
誤・偽情報についての研究がきわめて偏っていたことを検証した論文
(「What do we study when we study misinformation? A scoping review of experimental research (2016-2022)」の紹介)

https://note.com/ichi_twnovel/n/n3f673e3d2b3e

4.おまけ

・これまで行われてきた対策が逆効果だったことを示す精度の高い論文が存在する。

ニュースの信憑性を調べるために検索すると偽情報を信じる可能性が高まる Nature論文(「Online searches to evaluate misinformation can increase its perceived veracity」の紹介)
https://note.com/ichi_twnovel/n/n1a495ff32969
偽情報への注意喚起や報道が民主主義を衰退させる=警戒主義者のリスク
(「Negative Downstream Effects of Alarmist Disinformation Discourse: Evidence from the United States」の紹介)
https://note.com/ichi_twnovel/n/n02d7e7230e8b

・効果が確認されているパーセプション・ハッキングやデータボイド脆弱性については、ほとんど調査研究が行われておらず、対策も進んでいない。

パーセプション・ハッキングについて言及されているMetaのレポートの例
Threat Report TheState of Influence Operations 2017-2020

https://about.fb.com/wp-content/uploads/2021/05/IO-Threat-Report-May-20-2021.pdf
THIRD QUARTER Adversarial Threat Report
https://scontent-nrt1-1.xx.fbcdn.net/v/t39.8562-6/406961197_3573768156197610_1503341237955279091_n.pdf?_nc_cat=105&ccb=1-7&_nc_sid=b8d81d&_nc_ohc=NTae9ieAnEgQ7kNvgG8aGao&_nc_ht=scontent-nrt1-1.xx&oh=00_AYA97hGEpCoLaXRzaAGIoY5Bxp92Cx0H9Hyx5Kj1_SRNFA&oe=664B9952

データボイド脆弱性
5年間ほとんど放置されていた情報戦兵器データ・ボイド脆弱性とはなにか? その1

https://note.com/ichi_twnovel/n/nf5e0789e96e1
実態編 データ・ボイド脆弱性とはなにか? その2
https://note.com/ichi_twnovel/n/n3523739724f1


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