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誤・偽情報対策の決め手? 公衆衛生フレームワークは汎用的な情報エコシステム管理方法だった

2024年4月19日に公開された論文「Beyond misinformation: developing a public health prevention framework for managing information ecosystems」https://doi.org/10.1016/S2468-2667(24)00031-8 )はコロナ禍でのインフォデミックを反省材料にして、インフォデミック予防するためのアプローチを整理したものである。ここで提示されたアプローチはインフォデミックに限らず、広範な誤・偽情報対策としても有効と考えられる。また、既存のさまざまな対策、ファクトチェック、リテラシー向上などを予防段階ごとに整理することもできる。


●インフォデミックから汎用的な誤・偽情報対策へ

この論文では過去の公衆衛生フレームワークおよび類する研究を参照し、予防レベルを基礎、1次、2次、3次の4つの段階に整理している。

・基礎的予防

健康な人向けの予防。つまり、多くの人々に対する予防措置である。この段階は特定の疾病に特化したものではなく、基本的なリスクの低減を行うことになる。

・1次予防

健康リスクの高い人向けの予防措置。発症の予防や危険なものへの曝露を防ぐことなどが含まれる。特定の疾病に特化したものではなく、リスクの高い人に特化して基本的なリスクの低減を行うことになる。

・2次予防

日常生活での対策、早期発見、治療。初期段階で疾病を特定し、対処する。

・3次予防

すでに発症してしまった時に進行を予防し、感染拡大を抑える。迅速な対応で感染拡大を抑える。

このフレームワークは疾病をインフォデミックに置き換えれば、そのまま使えるものとなっており、論文でもそのように整理している。ぞれぞれの段階での介入例も紹介されている。
下記は論文をもとに汎用的な誤・偽情報対策にフレームワークを拡張した表になる。

ご覧いただくとわかるように、ほとんどの対策は3次と2次、特に3次に集中しており、繰り返しいってきた対症療法ばかりなのがわかる。その一方で政府、専門家、メディアへの不信感は増大している。能登半島地震で露呈したように、民間のSNSの情報でさまざまな情報が錯綜しており、緊急時に利用できる信頼できる情報源や連絡手段がない。
この論文でも3次と2次にリソースを集中させることは、社会的、文化的、歴史的要因と齟齬が生まれ、対処できない可能性があると指摘している。基礎的および1次を向上させておかなければ3次と2次をいくらやっても効果が出ないばかりか、逆効果になることは以前紹介した通りだ。

なお、こうした整理をこの論文だけでなく、アメリカの疾病予防管理センター(CDC)も使用しており、公衆衛生フレームワークではよく用いられているもののようだ。論文でも複数の例が参照されていた、。

VIOLENCE PREVENTION FUNDAMENTALS
https://vetoviolence.cdc.gov/apps/main/prevention-information/47

また、攻撃側からすると、3次と2次の対策に相手を集中させれば相手は自滅することになる。中露イランの影響工作を調査研究し、規制を強化してきた一方で極右や陰謀論者の台頭で国内が混乱している今のアメリカとヨーロッパの状況を彷彿させる。日本は追いつき、追い越せでその後を追っているのが怖い。

一時期の台湾はこのフレームワークに即した対応ができていたような気もすする。

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