デジタル影響工作対策の基本方針についての論考
学際的なジャーナルであるTexas National Security Reviewに寄稿されたカーネギー国際平和財団のシニアフェローGavin Wildeの論考。
From Panic to Policy: The Limits of Foreign Propaganda and the Foundations of an Effective Response
https://tnsr.org/2024/03/from-panic-to-policy-the-limits-of-foreign-propaganda-and-the-foundations-of-an-effective-response/
偽情報、情報戦、認知戦、デジタル影響工作についての関心が高まり、脅威の認識が共有されるようになったが、そのデジタル影響工作の効果は検証されておらず、いまだ議論されている。むしろ、過大評価して対策を講じることの方が問題と指摘している。
海外からの干渉は国内の不満を狙うことが多い。OECDの調査によると、制度に対する不信は3つの要因で決定される。社会的弱者やマイノリティへの平等な政策決定への参加、市民に対する政治家の対応、汚職や縁故主義の度合いである。したがってまず行うべきはこうした国内要因を改善し、信頼関係を固くしておくことである。
高度かつ複雑化した情報環境かつ、ほとんどの国で経済環境が悪化している中で一般市民にファクトチェックやリテラシーなどさらなる負荷をかけることは無理で、その結果エリートや権威者にまかせるしか選択肢がないと思わせるようになり、テクノクラートの台頭や寡頭政治を招く。
デジタル影響工作は自国の社会政治問題の都合のいいスケープゴートにされている可能性がある。そもそもその効果についての結論が出ないのは国内のさまざまなアクターの思惑がからんでいるからではないのか?
この論考は歴史的経緯をおさらいし、多数の資料を参照しているので参考になった。
特にいいのは、私が繰り返し主張していたこととほとんど同じことを言ってる点。最近、さまざまな角度から既存の対策の不毛さを指摘し、俯瞰的に問題をとらえて必要性を説いているレポートが増えているのは喜ばしい。
そもそも全領域の戦いとか、ハイブリッド戦というのだから、デジタル影響工作の効果は、相手国の社会的な安定度合いで計測すべきで、それはもう結論が出ている。この点は論考の著者とは意見が異なる。国内で対症療法のデジタル影響工作対策が話題になっている時点でもう負けているのだ。話題になり、政治の議論になっていることで充分効果はでていると考えてよいだろう。
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https://note.com/ichi_twnovel/n/n4605b841d507
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