フェイスブックの影響工作レポートは安全保障関係者およびサイバー関係者必見の力作!

フェイスブックは昨年から影響工作レポートを発行しているが、今年5月に発表されたThreat Report The State of Influence Operations 2017-2020」(https://about.fb.com/wp-content/uploads/2021/05/IO-Threat-Report-May-20-2021.pdf)は関係者必見の充実ぶりである。ボリュームは44頁と決して長くはないが、これまでフェイスブックが経験したきたことが盛り込まれており、なるほどとうなずくことが多い。
影響工作は私がふだん使っているネット世論操作とほぼ同義と思っていただいて結構である。従来の影響工作はより広範だが、フェイスブックのレポートではサイバー空間が中心になっている。

関連記事 フェイクニュースは過去のものとなった ベン・ニモの「THE BREAKOUT SCALE」(https://note.com/ichi_twnovel/n/n3ba289db07dc)

このレポートでは4つについてまとめている。

1.CIB(協調的違反行動、Coordinated Inauthentic Behavior)に関する定義
2.攻撃者の最新の傾向の分析
3.2020年の米国選挙を例にとり、検知や対処の改善に応じた攻撃者の対応の検証
4.影響工作に対して有効と思われる緩和策の提示

影響工作に対処するためには社会全体での包括的な対策が必要となっており、影響工作にもISACやFIRSTのような組織になってきた感がある。

●影響工作とCIB フェイスブックの定義
フェイスブックは2017年から2021年半ばまでに50カ国以上、150件以上のCIB(協調的違反行動、Coordinated Inauthentic Behavior)に対処してきた。そこで得られた知見がまとめられている。なお、CIBとはフェイスブックがよく使っている言葉で定義は以下である。

CIBとは戦略的な目的のために、公共の議論を操作したり腐敗させたりする協調的な行動

ここで注意が必要なのは、問題のあるコンテンツと問題のある行動を区別し、行動にフォーカスすることである。利用者が問題なコンテンツを投稿した場合、フェイスブックなどのプラットフォームは発信者の情報を開示できるので(例:国営メディアラベル、投票情報ラベル、ファクトチェックラベルなど)、人々は自分が見ている投稿を検証することができます。コンテンツそのものが違反している場合(例:健康に関する有害な誤報や投票者抑制の誤報)、削除などの対処を行える。
しかし、利用者が問題ある行動で身元を隠している場合、一般の利用者は彼らが誰なのか、彼らのコンテンツがどれほど信頼できるものなのか、動機が何なのかを判断することができない。フェイスブックは、このような秘密作戦を発見し、排除することができる仕組みを持っている。
CIBを取り締まる際に行動に注目するのには2つの理由がある。あるアカウントやページが影響工作の一環であるかどうかを判断するのに、コンテンツそれ自体は信頼できる基準ではない。問題あるキャンペーンでは、人気のある本物のコンテンツを再利用して視聴者を増やしたり、影響工作を仕掛けるグループが作成したミームを実在の人物が意図せず投稿することがあります。コンテンツ内容に基づいて規制することは、悪意のない人々や悪意のない投稿に過度の影響を与えることになる。
第2に、行動に基づいて判断することで、世界で一貫性を保ち、市民の重要な瞬間にあってもCIBポリシーの適用の中立性を確保できる。フェイスブックがCIBのテイクダウンを公開し、問題となった行動を説明し、独立したオープンソースの研究者と情報を共有することで、彼らが活動について独自の結論を出せるようにしている理由の一つでもある。透明性を確保することで、フェイスブックの判断基準を確認できるようになり、規制に対する信頼を得ることができる。また、行動ベースの判断と処置の記録も公開される。
つまり従来のようにフェイクニュースやデマを排除することだけではSNSの正常化につながらない。行動に注目することで悪意のない利用者や投稿を排除することも予防できることにつながる(これまでの内容を元に判断する場合は、悪のない利用者や投稿も排除の対象となり得たわけだ)。

フェイスブックはこれまで定義の定まらなかった言葉について、このレポートで定義を示した。ネットを介しての世論操作などについては、フェイクニュースやdisinformation campaignなどさまざまな言葉が使われてきたが、影響工作という言葉を使用し、下記のように定義した。

影響工作(IO、influence operations)とは、戦略的目標のために公の議論を操作、毀損する一連の活動。

もともと影響工作という言葉はネット以前から使われていたもので、世論操作などさまざまな方法で相手国に影響を与えることを指す。近年の1999年の中国の超限戦やロシアの軍事ドクトリン、ハイブリッド戦などの一部とも言える。これまでフェイクニュースなどの呼ばれ方をしていたのは、部分的な現象面だけに注目していたためで、本来なら戦争あるいは安全保障の一環として位置づけられるものだった。やっと収まるべきところに収まったと言える。

現在のフェイスブックはすべての影響工作を独立した問題として扱わないように注意している。そのために広義の影響工作の定義に基づいて、CIBなどの違反行為を正確に定義した。重大ではない違反を過剰に取り締まったり、最悪の違反者に対して過小に取り締まったりすることを避けるためだ。投稿そのものだけに注目して対処するやり方はここでも否定されている。
また、影響工作が単一のプラットフォームやメディア上だけで行われることはほとんどなく、複数のプラットフォーム、伝統的なメディア、影響力のある著名人を含む社会全体を対象としている。1つのプラットフォームや機関が単独でこの問題に取り組むことはできないとレポートで語っている。つまり、フェイスブックは、現在進行している攻撃が、1企業だけで防げるものではないこと示した。


●影響工作を仕掛けている相手
フェイスブックが発見したCIBの約半数は国内を対象としたもので、国外のみを対象としたものはやや少なく、それ以外は国内外両方の利用者を対象としたものだった。つまり、国内を対象とした攻撃の方が多かった。
国外を対象にしたものよりも国内対象にしたものの方が多いのは、このフェイスブックのレポートだけでなく、他のレポートでもそうなっている。ロシアや中国の影響工作が有名なため国外を対象にしたものが目立っているが、実際には国内を対象にしているものがほとんどなのだ。
このレポートでもその点に触れており、よく研究されているのは国外からの攻撃に関するものが多いが、実際には非国家および国内のアクターにとって影響工作はますます一般的な手段となってきていると書かれている。
またここ数年の目立った動きとしては、ビジネス目的のグループや政治的利益団体を含む新しいアクターが現れ、国外および国内の影響工作があげられている。
また、影響工作は選挙で注目されることが多いが、それ以外の軍事紛争、スポーツイベントなど、異なる時期に異なるテーマに焦点を当てた長期的な活動が見られる。

このレポートでは、影響工作を仕掛けているアクターのタイプと、その対象の両方を分類している。

・アクターのタイプ
政府:軍、情報機関、内閣レベルの組織など、国家機関が直接行う影響工作。
非政府組織:政府とは関係のないグループが行う影響工作。ハクティビスト、金銭目的の「トロールファーム」、ビジネス組織、政党やキャンペーン、特別利益団体や権利団体などが含まれる。

・対象のタイプ
国内:国内世論を対象にした影響工作。
国外:国外世論を対象にした影響工作。
ミックス:国内外を対象にした影響工作。

フェイスブックによると、複数のアクター、複数の対象を持つ傾向があり、この脅威の境界線がますます曖昧になり、複雑になっていることを示している。


●影響工作の最近の傾向

レポートで明らかにされた最近の傾向は7つ。それぞれの概要は表の通りである。
1.ホールセールからリテールへ
2.本物の議論と世論操作の境界が曖昧になる
3.国内に向けた影響工作
4.パーセプションハッキング
5.サービスのビジネス化
6.作戦の安全性の向上
7.プラットフォームの多様化

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●レポートでは2020年のアメリカ大統領選挙を取りあげ、詳細なケーススタディを行っているが、ここでは割愛する。非常に参考になるので関心ある方はぜひ原典をご覧いただきたい。

●対応策
レポートで明らかにされている対応策は次の4つである。
1.自動検知と専門家による調査を組み合わせる
2.敵対的デザイン
3.社会全体での対応
4.抑止力を高める

それぞれの概要は下表の通りである。

スクリーンショット 2021-07-23 午後5.47.18


●今後の変化
レポートでは今後の変化として、大きく3つをあげている。

1.影響工作のグレーゾーンへの移行
2.アクターの多様化
3.不確実性の兵器化

スクリーンショット 2021-07-23 午後5.47.32

これらに対抗するためには、下記の4つをあげている。

1.広く敵対的なデザインを採用する
2.影響力のある利用者を含む、影響力のある活動やデマに対する社会的・規制的な規範を構築する。
3.洗練された影響力工作と、クリックベイト、金銭的な動機による問題行動、あからさまな問題行動とを区別し、適切に対応し、対抗戦略を構築する。
4.影響工作に包括的に取り組むためのパートナーシップを構築・強化すること。

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『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。


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Metaの四半期脅威レポート、プリンストン大学の情報戦統計は他ではあまりないかも。Metaは四半期毎なので数も多いです。 どちらも元は無償公開されているのでそちらを読んだ方がよいのは確かです。

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