フェイスブックはエセ科学に騙されやすい人を狙い撃ちして広告を表示し、グーグルはフェイクへ誘導する広告を配信し、ツイッターはフェイク認定で分断を煽っていた

フェイスブックはファクトチェックの最大級のパトロンだが、その一方で提携しているファクトチェック組織の報告を無視したり、勝手に独断していたことはこれまでの記事でお伝えした。

ファクトチェックのパトロン、フェイスブックの危うい「真実の裁定者」ぶり
https://note.com/ichi_twnovel/n/n83cf094d2041
フェイスブックやツイッターが進む「真実の裁定者」の道
https://note.com/ichi_twnovel/n/n5fd5e64e11ea

さらにファクトチェックが目指すもの=デマやフェイクの駆逐とは真逆のビジネスに手を染めていたことも明らかになっている。フェイスブック、ツイッター、グーグルの典型的な事例をご紹介する。

●フェイスブックはエセ科学に騙されやすい人を狙い撃ちしていた
「Want to Find a Misinformed Public? Facebook’s Already Done It」(The Markup、2020年4月23日、https://themarkup.org/coronavirus/2020/04/23/want-to-find-a-misinformed-public-facebooks-already-done-it)によればフェイスブックはエセ科学に興味を示している7,800万人以上を広告ターゲットとしてカテゴリー化していた。平たく言うとエセ科学に引っかかりやすい人を狙いすまして広告出せる。陰謀論(New World Order (conspiracy theory))、ケムトレイル陰謀論(Chemtrail conspiracy theory)、ワクチン疑惑(Vaccine controversies)、ユダヤ人差別者(Jewhater)、ユダヤ人陰謀論(History of 'why jews ruin the world.)などもカテゴリーとして存在していた。
この記事の例では広告主自身(携帯電話の電磁波から頭を守る帽子)も知らない間に勝手にそのカテゴリーに広告が配信されていたという。フェイスブックが広告の効率を考えた結果だ。広告の「Why You're Seeing This Ad」タブを見ると、"LambsはFacebookがエセ科学に興味があると考える人々にリーチしようとしている "という理由が表示された。真面目に健康のための製品を販売しようとしている広告主(The Markupは広告主に取材している)にとってもエセ科学よばわりされるのは心外だろう。もちろん、広告主が意図して選ぶこともできる。実際に、The Markupはこのカテゴリーに広告を出稿し、数分で承認されている。
これらのカテゴリーはフェイスブックに確認した後に消去されたが、どれだけの期間、どれほどの利用者にリーチしていたのかは不明だ。そしてまだ確認されていないこうしたデマやフェイクの格好のターゲットになるカテゴリーがどれだけあるかもわからない。

記事の内容はそこまでだが、ここで根本的な疑念が浮かんで来る。

「本気でファクトチェックの効果を出したいなら、ファクトチェックの結果を該当する内容に騙されやすい人に優先的に表示すればいいのではないか?」

もちろん、フェイスブックはそんなことはしない。なぜなら、それは利用者が望んでいることはないからだ。むしろ、もっと騙されてくれた方がアクセスは増え、広告収入も増える。つまりフェイスブックはファクトチェックにまともに取り組むつもりはないのだ。


●グーグルはファクトチェックサイトにデマや陰謀論サイトへ誘導する広告を配信
「Google Serves Fake News Ads in an Unlikely Place: Fact-Checking Sites」(The New York Times、2017年10月17日、https://www.nytimes.com/2017/10/17/technology/google-fake-ads-fact-check.htmlによると、グーグルはPolitifactやSnopesといったファクトチェックのサイトに、デマや陰謀論サイトへ誘導する広告を配信していた。

PolitiFactのトップに、トランプ夫人がワシントンとホワイトハウスを離れることを決めたという広告が表示された。その内容のフェイクニュースの記事にリンクされていた。別のページでは、ヒューストンにあるレイクウッド教会の指導者が離婚したというフェイクニュースの広告が掲載されていた。
Snopesにはすでにファクトチェックで誤りであることが証明されていたフェイクニュースの広告が掲載された。

金を稼ぐという意味ではグーグルの広告配信は間違っていないのかもしれない。大手サイトだからといって信用せず、複数のサイトで事実確認し、クリティカルシンキングを行う人、つまりファクトチェックサイトをよく利用する人には引きが強い広告になりうる。リテラシーのバックファイアという現象だ。以前、「フェイクニュース対策としてのメディア・リテラシーの危険性 データ&ソサイエティ研究所創始者&代表のdanah boyd氏のスピーチ「You Think You Want Media Literacy… Do You?」の紹介」(https://note.com/ichi_twnovel/n/n91c01ed094ae)で紹介した。

だが、明らかにフェイクニュースを煽り、リテラシーのバックファイアを引き起こす危険をはらんでいる


●ツイッターのフェイク認定が分断を広げた
「Twitter Has Labeled 38% of Trump’s Tweets Since Tuesday」(The New York Times、2020年11月5日、https://www.nytimes.com/2020/11/05/technology/donald-trump-twitter.html)によれば、2020年9月にツイッター社は投票に関わるツイートで誤解を与えたり、デマを流布するツイートの取り締まりを強化するとした。その結果、当時のトランプ大統領のツイートの38%に警告のラベルをつけた。権力に屈しないという見方もできるが、この対応は新しい問題を生んだ。

The Wshington Postは、同年11月25日の記事「When Twitter fact-checks Trump’s tweets, it polarizes Americans even more, our research finds」(The Wshington Post、2020年11月25日、https://www.washingtonpost.com/politics/2020/11/25/when-twitter-fact-checks-trumps-tweets-it-polarizes-americans-even-more-our-research-finds/)で、ツイッター社がトランプに強硬な姿勢で臨んだのは広報としては成功だったが、調査の結果民主党支持者と共和党支持者の間の分断を深めた可能性があると指摘している。ただし、世論を動かすというよりは偏っているものをより偏らせる効果があるだろうとしている。少なくとも、すでにトランプを信じていた者の考えを変える効果よりは、より頑なに信じさせる方向の効果があるということだ。
ツイッター社は当然自社サービスの利用者の分析を行っている。この結果が予想できなかったはずはないと思う。

●デマとフェイクはおいしいビジネス
「コロナ禍によって拡大した、デマ・陰謀論コンテンツ市場」(ニューズウィーク、2021年06月25日、https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2021/06/post-25.php)書いたように、コロナ禍でデマやフェイクの市場は拡大した。そのための広告やシステムを提供してきたのはグーグルを始めとするSNS企業などなのだ。特に世界のデジタル広告の半分以上を占めるフェイスブックとグーグルの責任は重い。

ファクトチェックを取り巻く課題についてシリーズにまとめています。こちらのマガジンをご覧ください。


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