コロナ禍を悪用するデマサイトのインフラを提供するグーグルやフェイスブックなど大手IT企業

オクスフォード大学のComputational Propaganda Projectのコロナシリーズのデータメモのひとつ、「Profiting from the Pandemic Moderating COVID-19 Lockdown Protest, Scam, and Health Disinformation Websites」(2020年11月)をご紹介したい。
このデータメモではコロナに関する問題となる情報を発信しているサイトのインフラ部分を支えている事業者について調べている。サイトは大きく3種類ある。この3種類それぞれ40ずつのサイトを選び、調査を行った。いずれも違法なものというわけではなく、バックエンドを提供している大手IT企業のモデレーション対象になっている。
1.ロックダウンなどの措置に抗議する
2.コロナに関する詐欺や不正行為、利益供与を促進する
3.公衆衛生に関するデマを発信する

これらのサイトのインフラ、バックエンドを支えてたのは、グーグル、GoDaddy、Cloudflare、フェイスブックなどの大手IT企業だった。グーグルやフェイスブックは問題となる情報発信に対してモデレーションを行い、排除するようにしているが、不十分かつ効果に乏しい
なお、これは別の話であるが、大手IT企業がファクトチェックやモデレーションに投資し、NPOなどを支援しているのはアリバイ作りに過ぎないという話はよく目にする。彼らはいわばフロントエンドのコンテンツを排除することに効果がなく、自分たちのビジネスを脅かすことにはなり得ないとわかっているから、あえてそこに人々の注目が集まるように仕向けているという主張である。
本当の問題から目を背けさせ、自分たちのビジネスを守りつつ、社会的評価も維持するためには決して解決にならないフロントエンド(モデレーションなど)に注目させ、そこに注力しているように見せるというのはありそうな話である。

●3種類の問題あるコロナサイトを支える事業者たち
概要は下表の通りである。このように大手企業を中心にさまざまな企業がバックエンドを担っており、対策は功を奏していないのが現状となっている。事業者が多様にいるおかげで、利用中のサービスを停止されてもすぐに他の事業者に移ることができる。

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●ネットワークサービスとデータマイニングサービス
現在、サイトの機能を支援するプラグイン、電子商取引ツール、インタラクティブな要素など、数多くのサービスが提供されており、こうしたネットワークサービスやデータマイニングサービスはすべて、反ロックダウンサイト、コロナ詐欺サイト、コロナデマサイトでも利用されている。
反ロックダウンのサイトでは321個、詐欺サイトでは355、デマサイトでは858個のサードパーティーのコンポーネントが見つかった。
グーグル、フェイスブック、Cloudflare、アップル、アマゾンなどが多く、他にはサイトのオンラインショップ構築を支援するサービスShopifyなどもあった。Shopifyは、極右サイトのブライトバートの商品を販売することで利益を得ていると批判されたことがある。
中でもグーグルとフェイスブックは特によく使われていた。グーグルのサービスには、reCAPTCHA、Google Pay、Google Reseller、Google Remarketing、Google Interactive Media Ads、Google Apps for Business、Google Translate Widget、Google Cloud、そして多種多様なトラッカーがある。フェイスブックのサービスに何らかの形でリンクしているサービスには、Facebook Like Box、Facebook CDN、Facebook Comments、Facebook Custom Audience、Facebook Embedded Video、Facebook Pixel、WhatsAppのClick to Chat、WhatsApp Me、Instagram Feed、各種ウィジェットなどがある。
これらのサードパーティーの技術は、様々な方法で問題となっているサイトにグーグルやフェイスブックを通じて利用者を誘導できる。たとえば、Google Ads RemarketingやFacebook Pixelにより、ウェブサイトは自分のウェブサイトを訪れたことのある人を対象に広告を出すことができる。情報弱者向けのウェブサイトを訪れたユーザーが、後日YouTubeやInstagramを閲覧した際にリターゲティングされる。
収集できるデータが増えるごとに優位性を発揮できるようになる。

トラッカーも広く使われており、反ロックダウンサイトとコロナ詐欺サイトの約3分の1は広告用、3分の1は分析用、3分の1はトラッカーとウィジェットが混在している。一方、デマサイトのトラッカーのほぼ3分の2は広告用トラッカーであり、収入源としていかに広告に依存しているかわかる。
特にグーグルとフェイスブックのトラッカーは、特によく使われている。グーグルは、広告(Google DoubleClick、Floodlight、および関連するトラッカー)、分析(Google Analytics)、およびトラッカー(Google Tag Manager)において圧倒的な存在感を示していることがわかった。
フェイスブックは、ウィジェット(Facebook Connect、Facebook Social Graph、Facebook Social Plugins)や広告トラッカー(Facebook Custom Audience)で圧倒的な強さを盛っている。デマサイトのトラッカー生態系には、多くのトラッカーモジュールが密集しているようです。
グーグルやフェイスブックは、パンデミックを悪用していると見られる広告を削除しているが、どのプラットフォームで、どの程度の広告が削除されたのかは明らかになっていない。たとえば、YouTubeやインスタグラムから広告が削除されたとしても、グーグルやフェイスブックの一般的な広告や分析サービスからも削除されているかどうかは不明だ。
トラッカー経済は、データマイニング業界の大部分を占めており、ここでの優位性が特定の企業のデータ蓄積にとって重要となる。。
フェイスブックは、外部からのデータへのアクセスを慎重に規制しているが、外部のデータ、メタデータ、コンテンツをオープンウェブから取り込むための広いファンネルを多数作成している。たとえばフェイスブックの「いいね!」ボタンのようなウィジェットは、ユーザーが明示的にインタラクトしていなくても、ユーザーの習慣を追跡することができる。

結論として、グーグルやフェイスブックといった一握りの大手IT企業が問題のあるコロナ関連サイトのバックエンドをサポートしていることがわかった。対策は行っているが、フロントエンドのモデレーションなどが中心で、本来問題のあるサイトを支えている基本的なインフラを提供し、経済的に存続させるための収入源を支えている。
大手IT企業が問題のあるコロナ関連サイトを使って、どれだけの収益を上げているのか、ウェブマスター、詐欺サイト、デマ提供者がどれだけの利益を上げているのかは企業自身しか知り得ない。もちろん、グーグルやフェイスブックはそうした情報を公開していない。
こうした大手IT企業は、もっとも目につきやすい有害なコンテンツを削除しても、そのコンテンツを他のサービスで利用して利益を得ることを許している。たとえば、グーグルはYouTubeから有害コンテンツを削除するが、問題あるサイトの運営者は広告トラッカー、決済サービス、クラウドサービスなどの目立たないバックエンドサービスから、資金やデータの流れの面で引き続き利益を得ることができる。同様に、フェイスブックは傘下のSNSから有害なコンテンツを削除することができるが、様々なウィジェット、広告、分析トラッカーを通じて、問題のあるコンテンツに利益を与えている。グーグルやフェイスブックなどのプラットフォームはインフラのような存在に成長し、そのインフラで悪徳事業者が利益を上げている。グーグルやフェイスブックが利益のほとんどを広告とデータ分析から得ている企業であることからも重要だ。2018年には、Alphabet(グーグルの親会社)の利益の85%、フェイスブックの利益の99%を広告収入が占めていた。 両社は、当初の単一プラットフォームのサービスを超えて成長し、インターネットビジネスに不可欠なものとなっている。両社が提供するサービス、アドオン、組み込みソフトウェアの延長線上には、多くのインフラ活動が含まれており、公衆衛生対策への抵抗を組織化したり、詐欺を推進したり、健康に関するデマを流布したりするコロナサイトを支えるデータや資金の流れを作っている。

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