インターネット封建主義の領主グーグル、フェイスブック、アマゾンたち

*今回はまとまりのないメモになっています。悪しからず。

グーグル、フェイスブック、アマゾンなどの企業が他の企業とは大きく違っていることに誰でもなんとなく気がついている。そもそも現在のテック企業の多くは上場しても経営権を確実に守れる術を持っている。グーグルが先鞭をつけた手法でその後、広く採用されることになった。
グーグルとフェイスブックは世界およびアメリカのデジタル広告市場を寡占しているが、いまだに独占禁止法の適用を受けていない
時代的な背景として、グーグルが基盤を作った時は911の騒乱の時期であり、諜報機関など政府機関が急速にグーグルに接近し、グーグルは法規制を考えずに好き勝手できた。その後、オバマと緊密になり、政権内部に深く食い込んだ。グーグルのCEOシュミットはオバマ当選後、移行経済諮問委員会のメンバーになり、「監視資本主義」(ショシャナ・ズボフ、東洋経済新報社、2021年6月25日)では、4つの要塞を築いたと表現している(以下引用)。

(1)グーグルは選挙で候補者に優位性をもたらす自らの能力を証明した。
(2)グーグルが重要な成長を遂げた2009年から2016年までの間に、選択的親和性で結ばれたグーグルとオバマ政権との間では、多くの人材が行き来した。
(3)グーグルはコネと積極的なロビー活動を通じて官民の関心を意図的にぼかした。
(4)政策立案と世論と政治認識の形成に欠かせない学術的活動、および、より大きな文化的会話に影響を及ぼすために、グーグルは強力なキャンペーンを打った

グーグルは2009年以降、大学や市民団体に多額の支援を行い、2018年にはロビイスト活動に1,800万ドル(約18億円)も費やした。社会のいたるところへの影響力を金で買いまくった。
その後、グーグルは少し金額を減らしたが、それ以上にフェイスブックやアマゾンが資金を投入した。「Amazon, Facebook, other tech giants spent roughly $65 million to lobby Washington last year」(The Wshington Post、2021年1月22日、https://www.washingtonpost.com/technology/2021/01/22/amazon-facebook-google-lobbying-2020/)によれば、2020年に費やしたロビー活動費用は、アマゾン約18億円、フェイスブック20億円を筆頭にして、アップル、マイクロソフト、ツイッター、Uberなど7社の合計で約64.9億円だったという。
TikTokで有名なByteDance社の2019年のロビー活動費用はおよそ3千万円だったが、2020年には約2億5千8百万円に激増させた。その他のネット企業もロビー活動費用を増加させている(Facebook spent more on lobbying than any other Big Tech company in 2020、CNBC、2021年1月22日、https://www.cnbc.com/2021/01/22/facebook-spent-more-on-lobbying-than-any-other-big-tech-company-in-2020.html)。バイデン政権は規制強化を進める見込みであり、ロビー活動費用の増加傾向はさらに加速しそうだ。
前掲「監視資本主義」の「第4章 城を囲む壕」にはグーグルが政権、市民団体、極右団体、研究者を取り込んで来た方法論が紹介されている。


●ファクトチェックやジャーナリズムへの支援の欺瞞
これまでの記事でフェイスブックのファクトチェック団体への支援を取り上げてきたが、グーグルも誤情報対策を行っている。グーグルは、2018年にジャーナリズムへの支援で3年間でおよそ300億円を投じると発表した。ハーバード大学と共同でDisinfo Labを設立し、Poynter、スタンフォード大学、ローカルメディア協会と提携し、米国の若者のデジタル情報リテラシー教育を行う予定としている(Google announces plan to combat spread of misinformation、The Wshington Post、2018年3月20日、https://www.washingtonpost.com/news/the-switch/wp/2018/03/20/google-announces-plan-to-combat-spread-of-misinformation/
誤情報対策に関してはもっとも効果的な方法をあえて隠蔽しているのは確かである。フェイスブックがさまざまな種類の誤情報や偏見にはまりやすい利用者を特定できるように、グーグルもできるはずなのだ。それを使ってターゲットを絞った対策を講じるのがもっとも効果的なはずだが、それはやらない。リテラシー教育、コンテンツ・モデレーションやファクトチェックはそのよい隠れ蓑となっている。このへんについては、下記を参照。

フェイスブックはエセ科学に騙されやすい人を狙い撃ちして広告を表示し、グーグルはフェイクへ誘導する広告を配信し、ツイッターはフェイク認定で分断を煽っていた
https://note.com/ichi_twnovel/n/nbd582392b864

フェイスブックは経営難に直面している地方紙を支援するプログラムを開始した。「Why Facebook is giving $300 million for local journalism」(The Wshington Post、2019年1月19日、https://www.washingtonpost.com/technology/2019/01/15/facebook-pledges-million-local-journalism-projects/によればフェイスブックは約300億円を地方紙の経営改善のために支援すると発表した。

こうして潤沢な資金はメディアやジャーナリスト、ファクトチェックにも注がれている。グーグルやフェイスブックの助けによって、資金、アクセス、課金決済を強化できる。そしていったん依存したら、そこから抜けることは難しくなる。


●安全保障上の脅威
こうした企業の最近のお気に入りの文句は、「我々を排除すれば中国がのさばる」だ。独占禁止法を適用して企業力を弱めれば国家に支援された中国企業が市場を席巻すると脅し、安全保障上の脅威につながると言っている。しかし、それが詭弁であることは歴史が証明している。
「Too Big to Prevail The National Security Case for Breaking Up Big Tech」(Foreign Affairs、2020年3月/4月号、https://www.foreignaffairs.com/articles/2020-02-10/too-big-prevail)は、1980年代に日本政府に支援を受けた日本企業が力をつけてきた時、アメリカは自国産業に対して同じことはしなかった。IBMなど当時の有力企業にも規制の手を緩めなかった。結果としてマイクロソフトやアップルなどの新しい企業が生まれた。過剰な保護は競争力を弱め、新しい産業の成長を妨げるのだ。
安全保障上の脅威も眉唾ものだ。なぜなら、すでにグーグルなどの企業は中国に進出し、中国企業と共同で事業や研究を行っている。グーグルは2017年に北京にAI研究センターを設置する計画を発表し、中国のネット企業テンセントとの提携を予定している。マイクロソフトは中国でデータセンターを拡大しており、最近では中国政府向けの「Windows 10 China Government Edition」を発表している。アマゾンの中国におけるクラウドサービスは、アリババに次ぐ人気だ。アップルがiPhoneを中国で製造していることは有名だ。そこからすでに技術や製品の情報は中国側に流れている可能性が高い。
相互の経済依存を利用した手法は、“geoeconomics”、“reverse entanglement”、“weaponized interdependence”などと呼ばれており、すでにグーグルなどの企業はその中に取り込まれている。

むしろ安全保障上の脅威になるのは、グーグルなどの企業への政府依存度が高まることである。なぜなら、この寡占状況や中国への進出を許せば、これらの企業の技術革新や競争力は衰え、情報は漏洩することが目に見えているからだ。アマゾンやマイクロソフトなどの企業は、米国の防衛・情報機関にクラウドサービスを提供する契約を結んでいます。これらの企業はAIの軍事利用を含め、防衛産業基盤の一部になっているのだ。


●インターネット封建時代
これらの問題は単なる私企業の影響力増大に留まらない。経営権の過剰防御や独占禁止法など多くの規制から逃れていることが示しているように、もはやこれらの企業が行っているのはビジネスではなく人権を蹂躙する犯罪行為に近い

不平等、不公正が蔓延している現代において、実力主義とは封建主義に他ならない。社会階層が上位の者が人間の権利や尊厳を穢すことを言うのは当たり前で、彼らの人間観には使役する相手の人間は含まれていないのだ。使役する側だけが権利や尊厳を持つべきだというのが生まれた時からすり込まれた感覚だ。インターネットではそれがさらに顕著で、力のある家に生まれた者が「領主」として、それ以外のユーザーという名称の農民を使役できるようになる。直接顔が見えない分、奴隷の使役になんの呵責も感じないで済む。

哲学者のマルクス・ガブリエルは、グーグルやフェイスブックは利用者のおかげで利益を得ているのだから、利用者に報酬を支払うべきであると語っている。利用者の利用内容はデータとして解析され、広告という商品にされて販売される。利用者は自分で自分に関するデータをグーグルのためにせっせと入力してあげている。そのデータによって利益が得られるなら報酬をもらって当たり前だ。ろくな報酬を払わないグーグルやフェイスブックは、土地を与えて農民に耕させた封建時代の領主と同じだ。
好きで利用しているからそれくらいは当然という指摘は当たらない。マンガが好きでマンガを描いて投稿サイトに投稿し、それが書籍になれば報酬がもらえる。タダで投稿サイトを利用したのだから、無報酬というのは許されない。それが許されるのは民主主義ではなく、封建主義だ。
さらに現在フェイスブックの利用者はアジア、アフリカ、ラテンアメリカといったグローバル・サウスが多数を占めており(おそらく他のサービスでも似た傾向)、広告費を支払っているのはグローバル・ノース(主として欧米)というグローバル・ノースがグローバル・サウスを搾取する構造になっている。インターネットによって国境を越えたインターネット封建主義が可能になり、グローバル・サウスから無償でいくらでもデータを入手することができるようになった。


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