ロシア30年の誤算 影響力低下には中国とトルコの影

前回(https://note.com/ichi_twnovel/n/neb68fb703f35)に引き続き、フィンランド国際問題研究所(The Finnish Institute of International Affairs)のレポートをご紹介したい。「THREE DECADES OF RUSSIAN POLICY IN THE EUROPEAN PART OF THE POST-SOVIET SPACE」(https://www.fiia.fi/en/publication/three-decades-of-russian-policy-in-the-european-part-of-the-post-soviet-space)だ。

このレポートによればソ連邦崩壊30年の間、ロシアは旧ソ連地域への社会およびおよび安全保障の影響力を弱めている。その要因にはEUやアメリカの影響力増大もあるが、他に中国とトルコの影響も大きかった。中国とトルコから経済と安全保障が提供されるようになり、それを利用することで旧ソ連の国々はロシアの影響力を弱めることに成功した。旧ソ連の国々の多くは戦略的にそれを実行し、手を貸した形となった中国とトルコはそこまで考えていなかった節がある。ロシア主導のユーラシア経済連合や集団安全保障条約(Collective Security Treaty Organization、CSTO) の存在感は大幅に薄れた。結果として、旧ソ連各国では、ロシアとの関係が国内政治においても重視されなくなった。
この傾向は特にプーチンが政権を握ってから強くなった。プーチンは中南米への影響力を増大させることには成功したものの、旧ソ連圏の影響力は低下し続けた。
また、ロシアは文化を通じてソフトパワーも強くしようと試みたが、その一方でなにもあればエネルギー供給をストップするなどの厳しい措置を行った。

●旧ソ連圏の変化
ソ連崩壊後、下記の変化が起こることはわかっていたが、構造的かつ敵対関係ではない中国とトルコが大きな役割を果たしているこもあって止めることはできなかった。逆に、旧ソ連各国は、EU、アメリカ、中国、トルコ、ロシアとバランスを取ることで経済および安全保障を図ることができるようになった。

・欧米との接近
 安全保障だけでなく、経済的な面からも不可欠となる。また、いくつかの国はエネルギー供給を多様化するようになった。
・国民の民主化要求の高まり
 そもそもソ連邦崩壊もそこに端を発している。
・民主化に伴う人権重視と透明化
 これはロシアの戦略と真逆だ。ロシアは現地のエリート層を賄賂などで取り込むことに長けていた。2010年から2014年にかけて「ロシアのコインランドリー」と呼ばれるモルドバを舞台とした巨大詐欺事件があった。これは同国のGDPの三分の一が不正に送金されるという大規模なものだった。特にエネルギー関連がひどく、ウクライナのエリートを取り込むために作られた、ロスクレネルゴという企業には、ロシアから1兆円以上が渡った。

・中国とトルコが経済および安全保障上の便益を提供
 中国とトルコの影響力が大きかったことは数値を見ればわかりやすい。ロシアへの依存度が急激に下がっていることがわかる。ベラルーシ以外の国ではEUは重要な貿易相手になっている。モルドバとグルジアの最大の貿易相手国は中国とトルコだ。今後も経済的な影響は拡大すると見込まれている。また、安全保障上でも非欧米、非民主主義的立場の中国とトルコの存在は大きい。

出典 Three decades of Russian policy in the European part of the post-Soviet space: Swimming against the current PUBLISHED 11/11/2021 · FIIA BRIEFING PAPER 321

結論として、ロシアが進めようとしてきた方策は、国家基盤や制度基盤が脆弱な国には有効だが、そうではない国あるいはそこから脱しようとしている国には有効ではなかった。したがって、どのような国を相手にしても、その国が発展する限り、ロシアの影響力は低下することになる。ロシアは流れに逆らって泳ぎ続けようとしているのだ、とレポートは結んでいる。


本noteではサポートを受け付けております。よろしくお願いいたします。