コロナとネット世論操作に関する欧州対外行動庁(EEAS)StratComsの一連の報告書(1)「DISINFORMATION ON COVID-19 – INFORMATION ENVIRONMENT ASSESSMENT」

EUのEEASのStratCommsはフェイクニュースなどネット世論操作に対処しており、コロナパンデミックが起こってからは関連するネット世論操作を追跡している。EUvsDisinfoには、コロナとネット世論操作についての速報EEAS SPECIAL REPORTS(https://euvsdisinfo.eu/category/blog/eeas-special-reports/)が掲載されている。最新のものは2020年12月から2021年4月までの動きをまとめたレポートである。
他に、2020年4月20日にまとまとめられた「DISINFORMATION ON COVID-19 – INFORMATION ENVIRONMENT ASSESSMENT」やロシアの動きにフォーカスした「Pro-kremlin disinformation: Covid-19 Vaccines」(2020年12月20日)などもある。
日本では国(主としてロシアと中国)が主体となったネット世論操作、フェイクニュース、誤情報が話題になることは少ないが、ヨーロッパやアメリカでは深刻な脅威としてとらえられている。

ここではEUのこれらのレポートからから見えてくるコロナにまつわるネット世論操作の動きを整理してみたい。一連のレポートでは、ロシア、中国、イラン、MENA(Middle East & North Africa)、トルコ、バルカンなどを取りあげているが、特にロシアと中国に注目してみたい。
なお、今回参照するもののうち、「EEAS SPECIAL REPORT」シリーズはいわば速報という扱いのため、必ずしも全体の傾向を包括的にまとめたものではないという但し書きがある。

簡単に終わると思ったら、結構長かったので数回に分けます。今回は、2020年4月20日にまとまとめられた「DISINFORMATION ON COVID-19 – INFORMATION ENVIRONMENT ASSESSMENT」に書かれていることを簡単に紹介したい。続きはこちらでどうぞ(https://note.com/ichi_twnovel/n/n02912a8333eb)。


コロナに関連した問題となる情報は、SNS上で広く拡散し続けており、市民の健康や公共の安全に直接害を及ぼすようになっていると指摘している。ネット上で拡散した誤情報によって、人々の行動が誘導され、本来の安全な行動から逸脱してしまうのだ。
中でもロシア、中国、イランはネット世論操作を国家として進めている。この三カ国は、協調して情報操作を行っており、特にウイルスの起源(「米国で作られた生物兵器である」)や対応(「我々は欧米よりもはるかにうまくやっている」)についての情報を拡散している。
レポートではウクライナで拡散して3,373回エンゲージメントのあった「コロナには牛乳が効く」という投稿や、YouTubeの親ロシアのドイツ語チャンネルの90万回再生された動画「パンデミックは起こっていない」などを紹介している。
こうした情報が拡散した結果、下記のようなことが起きた。
・イランで、工業用の強力なアルコールを飲めばウイルスから身を守ることができるという誤情報に基づいて、実際に飲んで死亡した人が多数出た。
・Pew Research Centerが2020年3月10日から16日にかけて実施した調査によると、アメリカ人の約3分の1(29%)がCOVID-19は実験室で製造された「可能性が高い」と考えていた。
・5G通信がコロナを拡散しているという陰謀論を信じた人々が、オランダ、ベルギー、イギリスの複数の場所で、破壊行為や関係者への暴行が行われた。
・ベルリンでは、「予防接種テロ」に抗議する違法な集会が定期的に開催され、「コロナはただのインフルエンザ」と主張する人々が増えた。
・スロバキアの新聞「Denník N」の世論調査によると、回答者の67%が、中国がスロバキアのコロナ対策に協力していると答えているのに対し、EUについて同じように答えているのは20%にも満たなかった。
・イタリアの世論調査会社SWGは、中国がイタリアに友好的であると考えると答えた回答者の割合が、1月の10%から3月には52%に上昇したのに対し、EUの機関を信頼していると答えた回答者の割合は、9月の42%から3月には27%に低下したと発表した。

●ロシア
ロシアの公式情報源や国営メディア、ソーシャルメディアのチャンネルは、EU加盟国とその近隣地域において、誤った健康情報やEUとその関係国に関する偽情報を広める作戦を協調して行っている。レポートではロシアのプロパガンダメディアであるRTフランス、RTスペイン、RTイタリアなどの例を紹介している。
この作戦ではオープンソースのメディアやソーシャルメディアのチャンネルを多く利用しており、一部は秘密裏に行われている。
ロシアの支援を受けたコロナに関するフェイクニュースは、WHOの公式ガイダンスやソーシャルメディアSNSのコンテンツポリシーに反していているものの、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアサービスで広く拡散し続けている。Googleやその他の広告配信サービスは、フェイクニュースを発信するウェブサイトに有料広告を掲載することで、有害な健康偽装情報を収益化させている。
陰謀論や誤った健康情報は健康行動に悪影響を及ぼすことが証明されているため、潜在的な被害は大きいと評価されている。
ロシアを支持するグループは、欧米のサイトでブログを作成し、英語でフェイクニュースを発信しており、その情報はロシアが管理するニュースポータルにロシア語で転載された。
ロシアのネット世論操作には、ワクチンの安全性に関する議論を増幅させ、反ワクチンのメッセージを促進している。たとえば、社会的統制を確立するために政府が強制的に大量のワクチン接種やナノチップの埋め込みを行うという極端な陰謀論や、ワクチンには効果がない、あるいは有害であるという主張が含まれることが多い。ビル・ゲイツは、このようなストーリーの共通の黒幕と名指しされている。これらの情報はロシアのプロパガンダメディア(RT、スプートニク)やネット世論操作のプロキシを通じて拡散されていた。レポートではプロキシであるNewsFront、New Eastern Outlook、South Frontなどが流した情報の実例があげられていた(これらのプロキシについては、「ロシアがアメリカ大統領選で行なっていたこと......ネット世論操作の実態を解説する」https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/08/post-5_2.phpを参照)。その他、コロナの予防や治療に関するものや、パンデミックを過小に評価するものなどがあった。参考のため、ロシアのプロキシの一覧表を掲載しておく。

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●中国
中国はパンデミックの発生に対する責任を回避し、国際的なイメージを向上させるために、世界的なネット世論操作を行っている。あからさまな戦術と隠密戦術の両方が観察されている。
パンデミック発生の責任を回避しようとする中国の公式情報源による継続的かつ協調的な働きかけが確認された。
しかし、中国のプロパガンダやネット世論操作への取り組みが国際メディアで注目されていることから、潜在的な被害は中程度と評価されている。とはいえ一部の国の世論調査では、パンデミック対策において中国はEUよりも有用であると認識されているので成果は出ている

台湾の司法省調査局は、調査した271件のフェイクニュースのうち70%以上が中国からのものだと主張している
ProPublicaは、中国政府の影響力キャンペーンに関与したTwitterの偽情報ネットワークを発見した。The Telegraphは、中国の国営メディアがSNSの政治広告ルールを回避し、中国のコロナ危機への対応を賞賛し、米国を攻撃する広告を購入していることを発見した。この広告は、フェイスブック、インスタグラム、ツイッター、伝統的なメディアで展開される世界的なプロパガンダの一環であり、中国をコロナとの戦いにおける世界のリーダーとして描き、中国への非難をかき消そうとしている。
フォルミーチェは、イタリアでツイッターのボットが連携して、中国大使館のメッセージを増幅させ、中国を称賛していることを発見した。またEUを攻撃するツイッターボットが組織的に活動していることを発見されている。
デジタル・フォレンジック・センターは、ツイッターで中国の援助やセルビアと中国の友好関係を称賛するセルビアの親政府ボットネットワークを発見した。
GraphikaによるとSNS上で長期にわたって運営されているイランの偽情報ネットワークが、数週間、強い親中路線を推進していた。
オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の分析によるとコロナのネット世論操作を分析した結果、「中国の外交および国営メディアのメッセージは、協調的かつ持続的なロシアの国家支援によるネット世論操作に類似した戦術を使い続けている」としている。
フランスの中国大使館は、ウェブサイト上でフランスのウイルス対応を批判した。その中には、フランスの国会議員が台湾の政府関係者と一緒にWHOのテドロス事務局長に対して人種差別的な言葉を使ったという、でっち上げの疑惑が含まれていた。
中国の世論操作の成果も出ている。ウクライナとスロバキアの世論調査によると、コロナとの戦いにおいて、EUよりも中国の方が助けになると考えられている。 イタリアの世論調査によると、イタリア人は初めて、国際的なパートナーとして米国よりも中国に期待していることがわかった。
中国の国有メディアは、アラビア語での活動を強化しており、米国に対する自国に都合のよい話やフェイクニュースも押し出している。

一方、「ウイルスが中国の生物兵器である」とする陰謀論が世界に広がっている。中国恐怖症を煽るためにこうした話が利用されている。中国恐怖症やコロナに関連したミームが4Chanに出回っており、中国人を蔑視する英語が「ウイルス」という言葉と一緒に使われることが多くなっている。また、TwitterやRedditなどの他のソーシャルメディアでも、嫌中感情とコロナを結びつける陰謀論が浮上している。


●イラン
イラン政府に関連する偽情報ネットワークは、パンデミックを利用して「西洋」に濡れ衣を着せ、国際的な制裁を攻撃している。
イランのネット世論操作部隊であるIUVM(International Union of Virtual Media)は、COVID-19の危機を利用して、米国の対イラン制裁を非難し、イランと中国を称賛するメッセージを流してきた
イランの指導者たちは、ロシアのメディアの協力も得て、米国の対イラン制裁の解除を求め続けており、制裁がイランのコロナに対する人道的・医療的対応を損なっていると主張している。これは、ロシア、イラン、中国が世界的に制裁の解除を求めていることの一環となっている。


●MENA(Middle East & North Africa)
情報戦やスパイウェアの使用は増加しており、中東・北アフリカ地域のアクターはコロナ禍を使用して、ライバル(IR/US、UAE/MO)に対する情報作戦を展開したり、合法あるいは非合法に自国民にスパイウエアを感染させている(EG、SY)。MENA諸国以外では、中国の国有メディアがアラビア語での活動を強化しており、米国に対するフェイクニュースが流されている。
この地域ではジャーナリストや活動家が標的になっている(DZ、KSA、JO、IQ、EG)。アルジェリアでは、当局が「外国からの資金提供」を理由に、ジャーナリストやHirakの活動家が逮捕し、独立系オンラインメディア(RadioM、Maghreb Emergent、Interlignes)へのアクセスが遮断され続けている。イラクでは、国内で確認されたコロナの症例数が公式の数字よりも多いという記事を掲載したロイター通信社のライセンスが停止された。同様の記事を掲載してエジプトから追放されたガーディアン紙の記者のケースと同じだ。

続きはこちらでどうぞ(https://note.com/ichi_twnovel/n/n02912a8333eb)。

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