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認知戦についての危険な勘違い 交戦と核兵器保有

前回前々回の記事で中国とアメリカの資料と過去のnote記事をもとに、中国の認知戦について整理してみた。その結果、私自身の勘違いや理解不足がわかってきた。他の方にも共通することかもしれないので、いくつか紹介してみたい。さらにくわしいことを知りたい場合は、元記事を参照すると出典もわかって便利。
なお、「勘違い5.」は私の「危険な勘違い」である可能性も高いので、遠慮なくご指摘ください。また、憲法改正に賛成とか、核兵器保有に賛成と言っているわけではなく、どちらかというと日本独自のアプローチが必要と考えています。

勘違い1.認知戦は世論を誘導して思うような結果を得るための方法

中国の資料の多くには、「人間の意志、信念、思考、心理などに働きかけ、相手の認知を変化 させ、その判断や行動に影響を与える」といった定義があるので間違っているわけではないが、認知戦は「軍事的優位を政治的勝利」にするために必要という本質を見落とす危険がある。プロパガンダの延長線上にあるだけの話ではなかった。
過去、アメリカがベトナムやアフガニスタンで失敗したのは軍事的優位があっても相手の意志をくじくことができなかったためであり、そのため政治的勝利を得ることができなかったという教訓がそこにはある。つまり、認知戦なしには政治的勝利を得られない可能性が高くなるということ、軍事的優位を保っていても認知戦をやらないと勝てないことも少なくない。
そして認知戦の効果は即座に現れるわけではないので、平時から継続し途切れることなく行うことが重要となる。

勘違い2.認知戦はAI(智能化)で自律型ボットの利用などの世論操作などを行う

こちらも間違ってはいないけど、本質を見誤る可能性が高い。中国の研究者は戦争が情報化から智能化へ移行していると考えており、その大きな理由は情報化がすでに限界に達していることがある。限界に達しているのは伝達速度などさまざまなものがあるが、データ量もそのひとつ。もはやAIの力を借りなければ処理できない莫大なデータがリアルタイムであふれだしている。
認知戦の主戦場とされているSNSプラットフォームからの情報もそのひとつだし、スマホそのものやアプリ(中国製家電や健康機器用のものなど)、ゲームなどからも莫大なデータが入ってくる。認知戦において、智能化は必然なのだ。既存の手法、たとえばボットを智能化するというよりも、認知戦のための基本的なデータが変わり、それにともなって可能な手法も豊富かつ効果的になる。
SNSプラットフォームを騙しトレンドを操作することもやりやすくなるし、SNSでの発言の動向からより効果的なタイミングで効果的な発言を拡散できるようになる。アメリカ連邦議事堂襲撃事件、ドイツのクーデター未遂事件、ブラジルの暴動といった事件を引き起こすことができるようになる。

勘違い3.SNSを始めとするの多くプラットフォーム(ゲームやサーチエンジンなど)はアメリカにあるのでアメリカは優位である

これは全く逆に作用することもある。くわしいことは別記事をご覧いただくとして、認知戦に関して中国が優位に立っているのは下記である。中国は、出資や買収、中国国内市場へのアクセスと引き換えといった方法でこれらのプラットフォームに影響を与えている。

・中国にデータを提供している。
・中国に便宜を図ったり、サービスを提供したりしている。ZOOMが中国当局に利用者の会議の検閲させたり、グーグルが中国向けの検閲機能と個人情報収集機能を持ったサーチエンジンを提供しようとしたのがよい例。
・中国の広告出稿先として機能している。
・意図的ではないにしてもアメリカ社会分断の原因となっており、それを加速するための中国の活動を許している。コロナ禍における陰謀論や反ワクチンなどの反主流派グループの発言を中国が拡散して支援していたのがよい例。

勘違い4.『知能化戦争』には今後の知能化戦争と認知戦について書かれている

私が読んだのは日本語版『中国軍人が観る「人に優しい」新たな戦争 知能化戦争』(龐宏亮、2021年4月1日、五月書房新社)だが、認知戦に関する記述は2箇所、わずか数行登場するだけである。もしかすると、他にも同じ著者、同じタイトルの本があるのかもしれない。実は同じ著者で同じタイトルの本はあるが、そちらは古いので、新しい方を優先すべきだろう。
数行でも書いてあるので、書いてあると言って紹介しても間違いではないが、本の主たるテーマではないし、認知戦の重要性については書かれていない。知能化と認知戦の関係でこの本を引き合いに出すのはいろいろな面で適切ではない。
『知能化戦争』を引き合いに出して、知能化戦争において認知戦は重要であると紹介する識者が多いのでほんとうは私が間違っているのかもしれない。でも、2箇所、数行しか見つからないのである。

勘違い5.認知戦は今の日本でも行える

行うことは可能だが、効果は薄い。なぜなら中国とアメリカの認知戦は軍事行動(軍事的優位)があって成り立つものであり、日本が同じことをやろうとすれば憲法を改正し防衛目的以外の交戦を可能とする必要がある。そうしなければ同盟国以外に対して認知戦を仕掛けることができない。また、中国、ロシア、インド、アメリカなどを相手にした場合には核兵器の保有が必須になる。正直、交戦可能にして核兵器まで持つと、日本だけ対象になっている国連の敵国条項が重くのしかかってくるような気もしなくもない。
認知戦は戦時も平時も行われるものだが、それはつまり平時においても軍事的脅威を世界に与えられる国家ということを意味する。それなしにはナラティブに説得力がない。中国やアメリカの定義では認知戦は「軍事的優位を政治的勝利」にするためのものなのだ。
そのため中国やアメリカが行っている認知戦をそのまま日本が行っても効果はほとんどない可能性が高い。世界のほとんどの国に対して軍事的優位を誇示できるようにするか、日本独自の新しいやり方を考える必要がある。
*あくまで私が中国やアメリカの資料を読んで理解した範囲のことなので間違っている可能性もあります。

総じて認知戦を狭い範囲でとらえることが多いような印象がある。「勘違い1.」に書いたように認知戦は政治的勝利のためになくてはならない要素と考えられている。また、智能化が戦争そのもののあり方を大きく変化させるということは認知戦も大きく変化することを意味している。
最後につけくわえると、デジタル影響工作は「軍事的優位を政治的勝利」にするためのものとは限らない。

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