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中露イランがアメリカ大統領選に対するデジタル影響工作に注力というMSのレポートはちょっとよくわからない

マイクロソフト社は2024年4月17日、「Nation-states engage in US-focused influence operations ahead of US presidential election」https://blogs.microsoft.com/wp-content/uploads/prod/sites/5/2024/04/MTAC-Report-Elections-Report-Nation-states-engage-in-US-focused-influence-operations-ahead-of-US-presidential-election-04172024.pdf )を公開した。紹介しようと思うのだが、どうもよくわからないことがあったので末尾に書いておく。最近、45日間でロシアからの工作が増加したと言ってるのだけど、他の機関の数値からはそのような傾向がなかった。

●レポートの概要

本レポートによると、2016年、2020年に比べると遅れて始まった。ロシアの工作は45日前から本格的になった。だから3月初旬から始まったということになる。

・ロシアの動き

ロシアはウクライナ戦に関するアメリカの政策に影響を与え、NATOの支援を交代させ、アメリカのウクライナよりも国内に目を向けさせようとしている。
マイクロソフト社が Storm‐1516と呼んでいるアクターは内部告発者または市民ジャーナリストと称する人物が、専用の動画チャンネルに偽情報を投稿し、ウェブサイトのネットワークに拡散される。中東やアフリカに拠点を置くウェブサイト、DC Weekly、Miami Chronical、The Intel Drop などの英語のニュースサイトなどがある。数日または数週間にわたって拡散し、そのサイトを見た一部のアメリカの利用者はロシアの偽情報とは知らずに、拡散するようになる。
ドッペルゲンガーとも呼ばれるStorm‐1099は、偽メディアのネットワークで反ウクライナを広めている。
Storm‐1099の一部の偽ニュース機関には、「Election Watch」や「50 States of Lie」のように、アメリカの政治や2024年の選挙に焦点をあてているものがある。これらはアメリカ国内の分断を広げる社会問題に関するコンテンツを広めている。
また、ロシアがハッキングアンドリークにつながると思われるFSB系のスターブリザードの活発になっている。

・中国の動き

中国もロシアと同様、アメリカ国内の分断を広げ、社会を不安定化させようとしている。アメリカの国内の報道機関や党派的な動きをうまく利用している。
中国はロシアに比べて、AIの利用が進んでおり、スパモフラージュとも呼ばれるStorm‐1376はよくAIを利用している。

・イランの動き

イランは相手国を混乱させ、選挙や政治家への信頼を失わせ、弱体化させることを目的としている。
これまでのパターンでは投票日の数週間から数か月前からサイバーを活用した影響力作戦を開始する可能性が高い。

●よくわからない

今回のレポートはこれまでのレポートに比べると、全くグラフ、つまりデータがなかった。過去のレポートにはあったので、当然ながら気になる。とりあえず手軽に確認できるHamilton 2.0 Dashboardhttps://securingdemocracy.gmfus.org/hamilton-dashboard/ )を使ってみた。2023年1月1日から2024年4月18日までの反応や投稿数などを確認できた。フェイスブックとインスタグラムは2023年3月からしかデータが取れなかった。
Xの新方針でXのデータは見られないが、フェイスブック、インスタグラム、Telegram、中露イランの国営ニュースサイトを確認できる。とりあえず数だけみると最近(ロシアに関しては45日間)動きが活発化した様子はない。
もっともHamilton 2.0 Dashboardで確認したのは総数であって、マイクロソフトのレポートは選挙に限定したものだったのかもしれない。いや、でもレポートでは反ウクライナとか、アメリカの国内問題を狙ったとか書いてあるので選挙に限定されているわけではないはず。
Xだけに限定した話しなのかもしれないが、それならそう書くべきだし、これまではそうした根拠を明示してきたと思う。どうもいろいろ腑に落ちない。
それともHamilton 2.0 Dashboardバグってるのかな?
カナダのSocial Media Labにもこの手のものがあったので、そちらで確認できるかな。使ったことないんですよね。

アメリカ国家情報会議(National Intelligence Council)の資料「Foreign Threats to the 2022 US Elections」https://www.odni.gov/files/ODNI/documents/assessments/NIC-Declassified-ICA-Foreign-Threats-to-the-2022-US-Elections-Dec2023.pdf )の内容とも一致しない。

米国インテリジェンス・コミュニティの評価の変化からわかる新しい認知戦のトレンド
https://note.com/ichi_twnovel/n/n30ab8574915c

ちなみにアメリカのインテリジェンス・コミュニティは、上記報告書で中露イランはサイバー攻撃よりもデジタル影響工作の方が低リスクで効果をあげやすいのでサイバー攻撃よりもデジタル影響工作を優先していると書いてある。それにもかかわらず、選挙のセキュリティではデジタル影響工作対策はほとんどない。下記にはその記述があるけど、各担当部局のリンク先にはない。

ELECTION SECURITY - WHO WE ARE
https://www.dni.gov/index.php/who-we-are/organizations/mission-integration/es/election-security-who-we-are

Overview of the Process for the Executive Branch to Notify the Public and Others Regarding Foreign Malign Influence and Interference Operations Targeting U.S. Elections
https://www.dni.gov/files/ODNI/documents/Process_Overview_Executive_Branch_Public_Notification.pdf

マイクロソフトに限らず、最近、いろいろ気になる。

【追記】

2024年4月8日のThe Washington Postの記事「Russian trolls target U.S. support for Ukraine, Kremlin documents show」https://www.washingtonpost.com/world/2024/04/08/russia-propaganda-us-ukraine/ )はロシアから漏洩した文書によって、アメリカのウクライナ支援を妨害する試みが暴露されている。この記事に書かれている内容は今回のマイクロソフト社のレポートと重複する。そもそもマイクロソフト社のこのレポートを書いた部門の人間が取材に応じている。
しかし、問題なのは漏洩した文書に書かれていたことは2022年5月から2023年8月までのことであり、今回のマイクロソフト社のレポートの3月初旬からというのと食い違っている。もちろん、このレポートは過去から続く活動についても解説しているので、The Washington Postの記事と重複していてもおかしくない。問題は本格化した3月以降に起きたことがはっきりとは書かれていないことだ。従来と同じことをやっているなら、ことさら「本格化」とは書かないだろうし、同じことをやっていても量がふえたのなら数値での説明が必要になる。そのどちらもない。

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