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世代は違えども。

吉本興業創業110周年伝説の一日千穐楽参回目。


隣の席はおじさんだった。
誰が好きなのかな。あまり笑わないな。


幕間SPが終わっていよいよ来る。彼らが。会場がさっきの雰囲気とは違い、周りの緊張感が伝わってくる。幕が上がる。何もない舞台をキラキラでカラフルな照明が彩り、EPO「DOWN TOWN」が流れる。


さあ彼らはこれから何を魅せてくれるのか。


ダウンタウンが登場し、彼らの真ん中に、下からマイクが出てくる。その瞬間私の全細胞が震え、全身に鳥肌が立ち巡る。


「あぁ、神様は存在していたんだ。今私の瞳に映っている彼らが、紛れもなく全芸人が憧れた伝説の漫才師。」


この時の大歓声に大拍手、私は一生忘れない。先程までじっと漫才を観ていた隣のおじさんが、何度も何度も目を拭った。つられて私の目にも涙が。

「おかえり」と言ったおじさんの言葉は彼らに、そして自分に言ってることを後に気づく。


ダウンタウンの漫才が始まる。浜田さん曰く「打ち合わせさせてくれへんかったやん。なんか2つクイズ考えといてって言っただけで。」と浜田さんが2つクイズを考えただけの漫才。

ワード、強弱、間、表情。その場で繰り広げられてるアドリブのはずなのに、漫才の形になっていく。完璧とはこのことか。1秒たりとも飽きさせない会話劇。松本さんのボケをすべて拾い上げツッコミをいれていく浜田さん。彼らの頭の中どうなってるの?


ただ、圧巻。すごい。すごい。すごい。

これが吉本興業のトップ漫才師・ダウンタウン。


向かい合って楽しそうに笑う2人。浜田さんの照れながらも松本さんの胸をバシッと叩く「もうええわ!」が響き渡り、こちらに振り向くこともせず2人がはけていく。

はぁ、まだ夢見心地だ。私の人生でダウンタウンの漫才を観ることができるなんて。

余韻に浸っていたその時「変わらん……」とおじさんが言う。おじさんが舞台を真っ直ぐ見ていた。思わず「最高でしたね、私も泣いてしまいました。」あ、これは軽はずみな発言かも!?一回り以上下の若造に…

「テレビに釘付けになったあの頃の僕に戻ってしまいました。僕も、彼らも何も変わってなくて…」

とおじさんは涙を拭う。「世代ではないので羨ましいです。初めて観たけど、すごい。と思いました…。」私の本音だ。

「あの頃の僕はテレビ、お笑いが1番の楽しみで、家族で喧嘩してもテレビにダウンタウンが出ればみんなで笑って…アルバイトで貯めたお金を握りしめて何度も観に行きました。僕は友達も少ないし、家庭も持っていないけど僕の唯一の自慢は多分誰にも負けない、一生の自慢だなって」

それから今日は誰を見に来たの?とか誰が好きなの?よく劇場行くの?とか気さくに話してくれたおじさん。

「テレビは録画して何回も観られるけど、生の漫才は同じくだりも、表情もワードもないからね、時間があるなら絶対観にいったほうがいいよ、いつ観れなくなるかわかんないしね。」と言ってもらった。肝に銘じます。


最後に「ダウンタウンの次に好きな芸人さんとか、今ハマってる芸人さんとかいますか?」って聞いたら「いやぁ、僕はずっとダウンタウンです。」と言われて、私はなんて浅はかな質問をしちまったんだろう。最初からおじさんはずっとダウンタウンの話しかしてなかったや。


劇場を出て、「じゃあまた10年後に。」って去っていったおじさん。去り際ダウンタウン並にかっこいいやん。ダウンタウン好きすぎてダウンタウンみたいになってもうてるやん。


伝説の一日のおかげでこんな素敵な出来事がありました。これも芸人さんを好きになっていなかったらこの出来事もこんな温かい気持ちにもならなかった。2日わたりこんなに贅沢な時間をありがとうございました。

改めてお笑いを好きになってよかったと思うし、紛れもなく私の人生は楽しいものになっていて、泣いたり怒ったりするより笑ってる時間のほうが確実に多いです。

これからもたくさん笑わせてくれる漫才師たちに敬意と感謝は込めて、私の笑顔でよければいくらでも差し上げますので、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

そして10年後とは言わず、またダウンタウンがマイクの前に立って漫才をしているところを観れたらいいな。それが最後になろうとも、この目に焼き付けて一生忘れないようにしたい。


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