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#36 ファンタジースプリングス雑感


ファンタジースプリングスに行ってきたぞ!!

 去る6月24日、遂にファンタジースプリングス(以下FS)に行くことができた。これを読んでいる人に一々説明する意味はないかもしれないが、2024年6月6日、東京ディズニーシー(以下TDS)にオープンした新エリアである。当初は行く予定がまったくなかったのだが、周りの人間が続々とFSに侵入する中行かずにはいられなかったのだ。というわけで無事FSに行くことができ、4つのアトラクションすべてに乗ることができたというわけで感想を述べたい。(以下ややネタバレ注意)

総評

 FSの存在意義はこれまでTDSに足りなかった要素を補うという点にあるのだろう。ある意味で所謂「シーのランド化」の極地である。TDSが開園してから約20年が過ぎ、その間にTDSは少しずつそれを進めていたように思えるが、FS開業をもってそれが完遂されたのではないだろうか。少々雑な言い方ではあるが、大人向けのパークとしてキャラクター要素を抑え、リアル志向であるというのが開園当初から5周年あたりまでの「TDSらしさ」であるとすれば、ファンタジーという語そのものがTDSと不調和な概念であると言える(ただし開園当初から特にマーメイドラグーンはキャラクターが強く押し出されるようなエリアであったため要検討)。しかし東京ディズニーリゾート(以下TDR)に対してゲストが求めるものと「TDSらしさ」の間には乖離があったようで、ダッフィーの成功やトイ・ストーリー・マニア!のオープンなど、徐々にキャラクターにフォーカスが当たる場面が増えていった。「TDSらしさ」とゲストがTDRに望むものとの間のギャップを埋めるための真打であり、「冒険とイマジネーションの海」にファンタジーの水を流し込む泉としてFSは開業したのだ。
 経営的な面を見ればそういった判断は極めて正しいものだと思う。開園から20年以上が経過したテーマパークのテコ入れとしてこれまでは少なかった要素を追加し、より多くの人が求めるものを提供するというのは理にかなったものであるからだ。また新エリア開業をもってOLCとWDCの間でのライセンス契約が延長されるという合意がなされていたということも考えると、これからのTDRの生命線となるようなプロジェクトであったのだろう。
 では、FSは単にTDSのテコ入れ、WDCとの契約のための策、「TDSらしさ」をかき消すような存在であるかと言われると必ずしもそれだけだとは言い難い。まず第一に考えるべきは、FSの開業によって既存のエリアがほぼ削られなかったということだ(削られたのはレイジングスピリッツの水車くらいである)。以前におこなわれたTDLの再開発ではスクラップ・アンド・ビルドが発生し、それまで親しまれてきたアトラクションや風景が様変わりしたが、FSではそのようなことはまったく起こらなかった。これは「TDSらしさ」をなるべく損なわずに、それでもなおゲストに期待されるものは提供するという二兎を追い、二兎を捕まえたような形だ。既存エリアからは隔絶された空間としてFSを造り、ファンタジーをエリア内に収めたことは「TDSらしさ」を期待するゲストにとっても嬉しいことであるし、ある意味でそのようなゲストもTDSの“外”としてFSを楽しむことができるようになっているのではないか。私個人としても、その点はとても高く評価している。スクラップ・アンド・ビルドは、限られた敷地の中でのことなので仕方がないとは言え、思い入れのある場所が消えるというのは悲しいものであるが、それなしに全く新しいものがTDSに付け加えられるというのは驚異的なことである。

アトラクションの評価

①アナとエルサのフローズンジャーニー

画像出典:https://www.tokyodisneyresort.jp/tds/attraction/detail/255/

 私がFSの新規アトラクションの中で最も高く評価しているのがこれだ。TDRにおけるボート系ライドの革命児であり、“枯れた技術”と思われがちなボート系ライドの新たな可能性を提示している。先行する「フローズン・エバーアフター(EPCOT、香港ディズニーランド)」や「パイレーツ・オブ・ザ・カリビアン(上海ディズニーランド、通称“上海カリブ”)」といったアトラクションで使われたボートの方向転換やプロジェクションマッピング等の技術が使われ、水流に任せて動くボートを能動的にコントロールし、ボートの動きとシーンの演出を同期させることで、回転の良さが売りのボート系ライドに演出面での挑戦を盛り込んだ意欲作である。また当然のように、美しい音楽や愛すべきキャラクターたちも魅力的で、超人気映画である「アナと雪の女王」にふさわしい、素晴らしいアトラクションが完成したのではないだろうか。

②ピーターパンのネバーランドアドベンチャー

画像出典:https://www.tokyodisneyresort.jp/tds/attraction/detail/257/

 3D映像を用いたある種のダークライドである。新規性という意味では、「フローズンジャーニー」に一段劣るが、十分に良作である。各国のユニバーサル・テーマパークにある「ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー」や、「ラタトゥイユ:ジ・アドベンチャー(EPCOT、ディズニーランド・パリ)」など数々の映像系没入型アトラクションが既に存在する中で、それらに比べて何かが秀でて新しいというわけではないが、その技術をどう使うかという意味では、ピーターパンならではの「空を飛ぶ」という行為とライドシステムがよくマッチしていると感じた。ストーリーの面では、元の映画が現代とは価値観の違う時代に作られたものであることからか、かなりの改変が見られ、あまり満足のいくものとは言えなかったが、仕方のないことであるようには思う。

③ラプンツェルのランタンフェスティバル

画像出典:https://www.tokyodisneyresort.jp/tds/attraction/detail/256/

 「フローズンジャーニー」と同じくボート系ライドではあるが、これまでTDRに存在した各ボート系ライドとあまり変わりのない出来栄えである(それでも十分に素晴らしいということは言うまでもないが)。「フローズンジャーニー」で見られたようなボートの動きと演出の同期などはなく、「カリブの海賊」や「イッツ・ア・スモールワールド」「シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジ」等の古くからのボート系ライドとやっていることとしては同じである。かなりテンポの早い展開で、なおかつ映画からはカットされた部分が非常に多く、映画を見ずにこのアトラクションを理解するのは難しいかもしれないが、映画のアイコニックな場面を再現し、夢見心地な美しい空間を作り上げている点は評価すべきものであると感じた。美しい楽曲を聞きながら可愛らしいキャラクターたちと出会うという構成はTDRのゲストの需要に寄り添ったものであるだろう。

④フェアリー・ティンカーベルのビジーバギー

画像出典:https://www.tokyodisneyresort.jp/tds/attraction/detail/258/

 FSの中では最も子ども向けのアトラクションであろう。個人的には、3DCGアニメーション映画シリーズの「ティンカーベル」を題材にしたアトラクションがこの時代に出るということにまず驚いている。「ティンカーベル」シリーズは、主にTV用作品やOVAなどでウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ作品の続編やスピンオフ等を多く制作していたディズニートゥーン・スタジオによるもので、はっきり言うとディズニー社からは割と軽視されているであろう作品である。しかし「ティンカーベル」シリーズは日本ではかなりの人気を得ており、2009年と2010年にはTDSの春のイベント「スプリングカーニバル」にておこなわれたショー「フェアリーズ・プリマヴェーラ」や、同時期のグリーティングにもシリーズのキャラクターが登場していた。FS以前にも何かとTDSと縁があった「ティンカーベル」シリーズのアトラクションがFSにできるというのは少し感慨深いものがある。余談が長くなったが、子ども向けアトラクションとしてのクオリティは非常に高く、ライドの楽しげな動き、興味を惹くプロップス等々、「子どもたちが楽しく乗れるアトラクションはこうでなくっちゃ」というツボを押さえた良い出来栄えであった。

おわりに

 朝3時に起きて始発に乗り、5時11分に舞浜駅に着くというスケジュールでパークへ行くという荒業でファンタジースプリングスを満喫したわけだが、そうした甲斐は間違いなくあったと言える。特に「アナと雪の女王」、「塔の上のラプンツェル」の2作品が好きな人にとっては素晴らしい場所がTDSに完成してしまった。FSが開業したことで正真正銘、ウォルト・ディズニー・ワールド、アナハイムのディズニーランド・リゾートに負けないパークとしてTDRはテーマパーク界に君臨することができるだろう。


ヘッダー画像出典:https://www.tokyodisneyresort.jp/tds/


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