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出会うのはいつだって、あの場所

会社の独身寮に住んでいたころの話。
独身寮は、会社の独身社員の大半が住んでいて、
約八百名の男たちがひしめいていた。
ほとんど餓えた狼たちである。
それはそれは、男気な空間である。
毎日が男祭りなのである。
ポッキーはメンズポッキーだけで十分なのである。

この独身寮は、全室個室になっていて、
同じ会社とはいえ、隣人との交流もほとんどなく、名前すら知らない住人が何人もいる、
現代社会の縮図といった格好である。
しかし、お風呂やトイレといった水回りは共同という、
微妙な共同生活を送っている。

この水回りが共同というのが、いまいち厄介なものである。
トイレは各フロアに設置されており、
そのフロアの住人はみんなそこを利用するのだが、
このフロアにボクとトイレに行くタイミングが全く同じヤツがいる。
ことごとく同じ。
ひょっとして、隠しカメラでボクの部屋を監視してる?って、
ついついストーカー疑惑をかけてしまいたいほどに、
グッドタイミングなのである。
それだけなら、

「友達になったなら、すごく仲良くなれるタイプなのに・・・。」

って、少女マンガのような気にもなるのだけれど、
そうはならないわけがある。

そいつは、いつも、必ず、ボクより少し先にトイレに行っている。
いつも、ボクを待ち構えてる。
三つしかない小便器の真ん中の便器に前に立っている。
この真ん中の便器を使うのが許せない、どうしても許せない。


人は誰しも、パーソナルスペースというものを持っている。
物理的にこれ以上は近くに来て欲しくないというスペース。
わからない人には、電車のイスを考えてもらいたい。
電車のイスは、まず両端に人が座る。
そして、その中間。そして、またその間と。
極力、人と距離をとって座るでしょ?心理学的にもそうなんですよ。
心理学の授業で習いました。
みんな、パーソナルスペースを確保したいんですよ。
だから、吉野家の席がいまいち落ち着かないのはそのせいなのですよ。
が、そんな人間心理を無視するかのごとく、
やつは真ん中の便器を使うんですよ。
トイレなんて、人間がもっとも無防備になる空間ですよ。
にもかかわらず、次に人が来たら、必ず隣同士になって、
パーソナルスペースもくそもない(トイレ話だけに)、
真ん中から使うとは何事ですか!
まずは端から使いなさい!と声を大にして言いたい。
世界の中心で、叫びたいわけである。
が、どうやら、やつも、隣に人が来ると落ち着かないらしく、
ボクが隣に立つと、
それまでジョンジョロ、ジョンジョロ、大げさな音を
たてていたおしっこが止まるんですよ。しばらく続く静寂。
うんともすんともいわない。
なんなら、ボクの方が先に終わって、三十路過ぎて
切れが悪くなったオー・マイ・リトル・ガールを、
必要以上に、これでもかと振っていたりする、
残尿感を抱きながら。


そんなに、落ち着かないのなら、最初から端の便器を使えよ!
って思うのだが、一向に学習しやがらない。
いつも、真ん中の便器の前に立ち、
いつも、途中で止まるおしっこ。
この学習しなささが一層ムカつく。
思わず、右手の拳がワナワナと震える。
もう、そうなると、いろんなことが次から次へとムカついてくる。
怒りの連鎖反応。

朝はというと、洗面所で顔を洗うとき。
普通なら両手に水を汲み、バシャバシャっと顔を洗うでしょ、
普通、人はみな。
しかし、やつは違う。
両手の人差し指に水をつけ、その濡れた人差し指で
両目をこする。水が怖い小学生か!
その人差し指が耳の裏までいったときは、雨。
なわけはない。ヤツはネコではない。

そして、うがいはというと、
「ゲッァェ※%&¥$#*+!!!」
この世の終わりみたいな苦しそうな声を発する。
忘れた頃に、恐怖の大王登場ですか?
二十一世紀というのに、いまさら一九九九年七の月ですか?
いまさら、ジローですか?
そんなに苦しいなら、うがいなんてしなけりゃよいのに。
こうなると、ますますムカついてくる。怒りに際限なし。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いというやつで、
やつの着ているものまで気に食わない。
やつの白ジャージが気に食わない。
白ってのが気に食わないが、ジャージは許そう、この際。
しかし、しかし、ジャージの上にYシャツを着るのは
どうなんだろうか?
Yシャツをパジャマ代わりにするのはどうなんだろうか?
彼氏の家に初めてのお泊り。でも、急のお泊りだったんでパジャマもなし。
「そうだ、Yシャツ貸して」
少し大きめの彼のYシャツを着て、恥ずかしそうに、
Yシャツの裾を引っ張りながら、
「エヘッ、ちょっと大っきい」
って、言うOLか! 部屋とYシャツと私ですか?

とかなんとか、そんなヤツの一挙手一投足を
いちいちチェックしている自分がここにいる。
ひょっとして、ストーカー五秒前?


そんなやつを休日に街で見かけた。友人と二人で歩いていた。
そのときのやつの笑顔といったら。

「なんだよ、かわいい顔で笑えんじゃん。」

って、ちょっとキュンとした、え?これって恋?恋なのか?
マジで恋する五秒前?
確かに、渋谷はちょっと苦手だけれども。

#熟成下書き

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