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情熱に咲く白き花のロケットペンダント

【旅する飾り屋の話 ―恋する少女―】

昔々ある所に白い花のように穢れを知らぬ無垢な少女がおりました。
とてもお金持ちな彼女の父親は少女を国で一番偉い貴族の所へ嫁がせようとお見合いをすすめます。
しかし少女には小さい頃から傍にいてくれた使用人の青年に恋心を抱いており、貴族の所へは嫁ぎたくないと言いました。
それを聞いた父親は激怒し、使用人の青年を海の向こうの異国へ行く仕事に就かせ少女から青年を引き離してしまったのです。
少女は大変悲しみましたが最後は青年の事を忘れ、貴族の元へと嫁いで幸せになりましたとさ。

めでたし、めでたし――?


「そんなのめでたいわけないじゃないですか!
 そう思いません?飾り屋さん!」
そう言いながら目の前の可憐な少女は頬を膨らませて飾り屋に詰め寄った。
飾り屋は苦笑いをしながら、そうですね…と言うしか出来ないでいた。


とある街に来た飾り屋と相棒のトランクは市場の隅に場所を借り、飾りの販売を行っていた。
すると大きな帽子を被り顔を隠しながらやってきた少女が売っていた飾りを大層気に入ってくれたのだ。そして話をしているうちにいつの間にやら少女の身の上話になり、そして冒頭にいたった。

「お父様はひどすぎます!私は彼のことが好きだってわかっていて彼を遠くに追いやり、その上無理やり結婚話を進めようとするなんて!もうあんな家には帰りません!!」

可憐な姿からは想像もできないような熱と言葉の羅列は止まることなく少女は前のめりになっていき、飾り屋はそれに押されるようにのけぞっていくばかり。
飾り屋が彼女の勢いに負けて後ろに倒れかけたその時トランクが救いの手を差し伸べた。

『でも、お家に帰らないでどこに行くのさ?』
少女と飾り屋の間にいたトランクが少女に聞いた。
「それは勿論、彼のところです。港町まで行ってそこから船に乗り、彼の住む国まで行こうと思っています。そして私の気持ちを彼に伝えたいと思っています。」
『私の気持ちって……え、もしかして彼とは好きあった仲じゃないの?』
トランクの純粋な疑問が少女の動きをぴたりと止めた。
そして先ほどまでの熱はどこに行ったのか、突然萎れた花のようになりながら小さな声でこう言った。
「……実は彼とは十近く歳が離れていて……そのせいで彼は私のことを妹のようにしか思っていないみたいなんです……。」
『あちゃー。それって彼の所に行っても気持ちを告げても振られちゃうんじゃな――痛っ!何するの、飾り屋!!』
トランクが最後まで言い切る前に飾り屋はトランクの言葉を塞ぐかのように肘でトランクを強打した。

しかし強打するのが少し遅かったようで少女はそれ聞いて俯いてしまった。
「わかってます。彼の元に行って私の気持ちを告げたところで、それを受け入れてもらえる可能性は極めて低いことを……。」
俯きながら少女は小さく震え、絞り出すように言葉を続けた。
「でもこのままじゃ嫌なんです。気持ちを告げないまま、答えもあやふやなまま、会ったこともないような人と結婚なんて……。一生後悔したまま生きていくのは嫌なんです!」
そう言いながら少女は目に涙をためながら飾り屋を力強く見つめて言った。
飾り屋はその少女の瞳に一心の曇りのない情熱を感じた。
「ご、ごめんなさい。私ったらつい今日会ったばかりの旅人さんにこんなこと話しちゃって…お店の邪魔ですよね…すぐ去りますので。」
はっと我に返った少女はそう言って目元にハンカチーフを当てその場を去ろうとした。
しかしその瞬間、飾り屋が少女の手をつかんで止めた。
飾り屋は驚く少女を引き留め、少しお時間くださいと言うとその場で飾りの製作を始めた。
そして情熱的な赤色と白い花をあしらったロケットペンダントを作った。
そして良かったらこれをどうぞ、と少女の手にそれを渡した。
「素敵なロケット……ありがとうございます!大事にさせていただきます!」
ロケットをしっかり握った少女はとても嬉しそうに涙目で笑って去っていった。


『飾り屋、なんで彼女にロケット渡したの?』
トランクが不思議そうに飾り屋に聞くと少女が去った方を見ながら

あの熱く澄んだ気持ちを忘れないで欲しかったから、かな?

と優しそうに微笑んだ。


そんな旅する飾り屋とトランクの話。

minne


Creema





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