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Activism/M&A Weekly Roundup (2023年9月25日週)


アクティビズム

東洋建設、YFOによる完全子会社化の再提案に関し、特別委員会の設置を公表(9月27日)

9月26日、3月に公表された東洋建設の新中計等を踏まえ、YFOが22年の提案で1株あたり1,000円としていた価格を1,255円に引き上げ、TOBを通じた完全子会社化の再提案を実施した。東洋建設の株価が今年6月以降1,000円を超えて推移していることへの対応とみられる。

この再提案の検討にあたり、会社側は特別委員会を設置したことを公表した。所謂「企業買収指針」に沿った対応といえる。

特別委員会は社外取7名で構成されるが、うち5名は今年6月の総会でYFOが推薦した人物だ。
独立性には問題ないとの整理だろうが、その点は少し議論を呼びそうな気もする。

東洋建設「特別委員会設置に関するお知らせ」


M&A

蚊帳の外だった西武労組、M&Aの労働者保護に制度の穴(日経)(9月30日)

そごう・西武の売却に関し、 『もし今回の売却が、株式譲渡以外の形で進んでいたなら、組合がここまで追い込まれなかった可能性がある』 と主張する記事。
株式譲渡と会社法上の組織再編の本質的な差を踏まえない、完全に的外れな記事だ。

記事で株式譲渡と比較されている会社法上の(広義の)組織再編は合併、会社分割、事業譲渡だ。
そもそも労働契約は民法625条で『労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない』とされている。
権利義務を個別に譲渡する事業譲渡には当然この規定が適用される。

一方、合併や会社分割では、権利義務は一括で別の会社に引き継がれる(包括承継)。
元々の会社と結んでいた労働契約は、法人格の消滅や分割に伴い、自動的に別の会社に移転される。
実質的に労働契約は第三者に譲り渡されているが、包括承継のため民法625条は適用されない。
この実質的な譲渡に伴い、労働者が不利益を蒙る可能性があるため、法や指針で手当が要請されているのだ。
とりわけ会社分割については、解雇が容易でない日本の労働法を潜脱するために使用者側が悪用するのではないかとの懸念が当時の社会党から示され、労働契約承継法の制定に繋がった。

かたや株式譲渡の場合、株主が入れ替わるというだけで、労働契約そのものに何の影響もない。
仮に新たな株主が経営陣を入れ替え、労働契約の内容を変更したり第三者に譲渡するにしても、労働者は民法や労働法で十分な保護を与えられる。
にもかかわらず、株式の買手に労働者保護に係る負担を負わせるのはおかしな話だ。

「ステークホルダー重視の新しい株式譲渡法制を」と簡単に言うが、資本市場の発展やM&Aによる経済成長を阻害しない形でどう実現するのか。
示せるものなら具体案を示してみろ、と申し上げたい。


「親」にモノ言う子会社 買収価格で強気の交渉相次ぐ(日経)(9月29日)

価格決定申立に発展した伊藤忠によるファミマの完全子会社化を踏まえ、その後の伊藤忠の完子化 (CTC、大建工業)では子会社側が強気の交渉をしていることに着目した記事だ。

ただ、実務家から見れば、子会社側の姿勢はわざわざ「強気」と書き立てるようなものではなく、『公正なM&Aの在り方に関する指針』にも記載されたスタンダードな交渉のあり方を履践しているに過ぎない。
一方、実務の現場では、ファミマ案件の東京地裁決定が、価格引上げを渋る親会社に対しての新たな交渉カードになっている印象だ。

子会社の特別委員会やFA/LAのみならず、親会社のFA/LAが案件に際して親会社経営陣に適切なガイダンスを出すことが案件の安定性を担保する上で重要だ。
(とはいえ、依然聞く耳を持たない人もいそうだが。。。)


論文、インサイト

株主優待廃止が株主構成・株主数に与える影響(証券経済研究)

  • 株主優待廃止企業の個人株主比率は、廃止前年から当年にかけ、統計的に有意に低下。個人株主数も有意に減少

  • 優待が自社製品でない企業の方が、個人株主数の減少規模は大きい

個人株主施策としての優待見直しに頭を悩ませる発行体は多い。
優待の廃止で個人株主が大きく減少し、代わりに良からぬ株主が入って来るのではないかと懸念しているのだ。

本研究によると、優待の廃止で個人株主数は平均2割減るが、個人持株比率では1.5%の減少に過ぎない。
優待狙いで必要最低限の株数を保有する小口の株主が離脱するということのようだ。

優待が非自社製品の企業は、自社製品企業に比べ個人株主数の減少幅が約3倍というのも興味深い。
自社製品を優待に使える企業は大体BtoCでファン株主が相応に存在するのだろう。
非自社製品の優待といえば、QUOカードやカタログギフトが代表格だろうが、純粋な優待利回りで保有する個人株主が相対的に多く、経済合理性で保有の是非を判断しているということだろう。

数字で見ると、優待廃止の影響は株主構成の点では然程大きくなく、むしろ小口個人株主の離脱を促すので株式事務負担の軽減に繋がるとも言えそうだ。


株主還元比率を明示した配当政策が広まる(大和総研)(9月25日)

TOPIX500企業を対象とした調査。

  • 有報の「配当政策」に株主還元比率(配当性向、総還元性向、DOE等)を記載する企業は約58%で13年の約38%から増加

  • 比率を記載する企業の割合は業種間で差が大きい

  • 総還元性向の最頻値は30-40%

  • 総還元性向の中央値は43%と13年の29%から上昇

  • 株主還元比率の採用が進んだ背景として①CGコードの等の浸透、②アクティビスト等による株主提案の増加、③同業他社への対抗意識を指摘

株主還元に対する企業の意識がこの10年で向上したことを裏付ける分析と言えるだろう。

業種別で記載状況に差があるのは興味深い。
PBRが低い業種やディフェンシブな業種ほど配当を意識しそうな印象だが表を見ると必ずしもそうでもなさそうだ。

企業が配当に意識を向けるのは株主からすれば喜ばしいが、企業価値向上の観点からは、「安定配当ありき」は正しくはない。
キャピタルアロケーションや最適資本構成、資本コストを検討した上で、最終的に株主還元の水準が定まってくるのが本来的なアプローチだ。
株主還元比率を記載する企業の全てがこうした検討を行えている訳ではないだろう。
記載の増加を喜ぶだけでは本質を見失ってしまう。


その他(新聞記事等)

上場企業オーナー「禁じ手」節税(日経)(10月1日)

制度改正前に駆け込み 株対価M&Aの活性化を目的とした株式交付への課税繰延を、上場企業オーナーが節税目的に利用したと疑われる例が相次ぎ、10月からの改正で手当がなされるに至った。

株対価や混合対価のTOBへの課税繰延は、M&A関係者や経産省の長年の悲願だったが、なかなか財務省が首を縦に振らなかったという歴史がある。
会社法における株式交付制度の創設と恒久的な税制措置の導入により、ようやく21年から活用への道が開かれた。
その矢先、こうした事態が生じたのは実務家として極めて残念だ。

存在する制度を使い倒してこそのタックスプランニングだということは理解はする。スキームを思いついた税理士はさぞ意気揚々と提案をしたのだろう。
だが、それ以前に制度趣旨への理解と相応の倫理観を持って仕事をするのがプロフェッショナルというものではなかろうか。
アドバイスを実行に移し、説明にならないような説明で逃れようとする上場企業やそのオーナーも同罪だ。

自らの行動が世の中にどう影響するかという大局観と想像力がない。
倫理観なき者が永続しないことは、歴史が証明するところでもある。


ジャニーズ、被害者補償と経営分離 新会社社名は公募へ(日経)(10月1日)

新会社を立ち上げ、所属タレントのマネジメントなどの業務を移管する。現在のジャニーズ事務所は故ジャニー喜多川元社長による性加害の被害者への補償に専念する。

以前東スポの憶測報道があったが、本当に踏み切るようだ。

「Good Co/Bad Co」「第二会社方式」などと呼ばれる、企業再生でよく用いられる方式。
優良事業と負債/不採算事業を別々の会社に分けることで、優良事業の存続を狙うスキームだ。
性加害の加害者は既に鬼籍に入っているが、そうした行為を許容していた法人としてのジャニーズ事務所自体が人権侵害の主体と見做される以上、企業や放送局は取引に慎重にならざるを得ない。
とりわけ人権を重視する海外の投資家や取引先からの視線は厳しく、海外売上の大きい企業の取引中止に繋がっていた。

今回のスキームは、人権侵害の歴史と切り離された「新しい箱」に事業を移管し、広告主企業や放送局が再びタレントたちを起用できるようにすることが狙いといえる。
新会社に創業一族は出資せず、業務にも携わらないという。そうでなければ人権侵害の歴史との分離は不可能なので必要条件と言えるだろう。

とはいえ、本当に創業一族から分離されているかという点は、慎重に見極める必要がある。
即ち、ジャニーズ事務所が新会社から何らかの利益を得る仕組みになっていないかどうか。例えば、本社事務所の賃料や経営指導料などの名目で金員が支払われるような取り決めになっていないかは外部の目で厳しくチェックする必要があろう。

人権侵害に間接的に加担してきたと言われても仕方のない日本のマスメディアは、新会社のチェックを通じて今度こそその責任を果たさねばならない。


八十二銀行の松下頭取、投資家の政策株縮減要求に異論(日経)(9月28日)

地銀とはいえ、上場金融機関トップの発言として目を疑う内容だ。

(政策保有株の)時価は4000億円超まで膨らんでいるが、簿価は800億円ほどで、総資産や有価証券の運用規模からすればわずかなものだ。(含み益の)数字だけみて判断するのはおかしい。

運用という観点で見ても、配当益の利回りは高い。一度に売ってしまったら(さらなる)値上がり益をとるチャンスを逸する。思い切った施策を打つには自己資本の厚みがあることが大事だ。(手放す際に出資先などへ)説明が必要だとしても、すぐに換金できる政策保有株を持つことは武器となる

運用益や換金性を強調するなら、何故純投資目的の保有株式に区分しないのか?
有報で保有目的を「取引関係の維持・強化」としているのは何故なのか?

政策保有株の縮減を何故投資家が求めているのか含め、全く理解していないのではないか。
見識を疑わざるを得ない。




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