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なでしこジャパン、チリに勝ってグループリーグ3位通過。ところで、ゲームの設計は正しかったか。

なでしこジャパンのオリンピック競技大会グループリーグ第3節が2021年07月27日の20時から宮城スタジアムで行われた。

勝ちたいという日本

試合に臨む前の状況を整理すると、日本は自力でグループリーグを突破するためには勝つことが必要だった。引き分けの場合、他グループ3位の中国、オーストラリアとの兼ね合いにより突破するかどうか、また、負けるとチリに勝ち点を上回られるという状況。逆に、チリにしてみると日本に勝つしかなかった。

要な試合の前の静けさ

チリ戦のラインナップは前回のイギリス戦から5人を変更。全2試合には出場していない宝田をセンターバックに起用した。特に、自分が気になったところは南を外したところ。塩越、南、宮川のイギリス戦にスタートから出た3選手がベンチ外となった。理由として考えられるのは、まず、疲労だろう。疲労がたまると、パフォーマンスが落ちるだけではなく、怪我のリスクが高まるという要素がある。ノックアウトステージに標準を合わせるという狙いも無くはないと思う。しかし、安藤梢さん(元日本代表・三菱重工浦和レッズレディース所属)が試合後の日刊スポーツの記事で指摘した通り、ゴールキーパー、センターバック、セントラルミッドフィールダー(ボランチ)、センターフォワードの中央のラインを試合ごとに変えるデメリットは確実にある。特に、セントラルミッドフィールダーのキャラクターが変わると関わる選手が多いため、認識のズレが起きる確率が高くなる。1mのズレがカバーリングのミスを起こし、パスを通させ、ボックス(ペナルティエリア)まで運ばれてピンチを招くのだ。視点を変えて、チリのラインナップは前節のカナダ戦と同じ。チリは中2日という状況でターンオーバーをしてこなかった。

前半

試合に入ると、まず岩渕のミドルレンジのシュートがあった。前半、日本はミドルシュートが多くてそれが効果的だった。岩渕が躊躇なく、試合立ち上がりに狙っていったのでもしかしたら相手チームをスカウティング(分析・解析)した成果なのかもしれない。その後、チリは日本の左サイド側から突破を図る。突破を防いで日本のボール支配率が高まると、相手のサイドハーフが上がってくることは無くなった。チリのディフェンスラインの間隔が狭く、サイドバックの外側にスペースが空き、そのケアのためにサイドハーフが下がったからだ。

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上の図(TACTICAListaで作成)のように日本は相手のサイドバックの外を菅澤・岩渕が突くと、高い位置にいたサイドハーフがディフェンスラインに吸収され、チリはほぼ5バックになってしまい前への推進力が削がれる。そして、チリのディフェンスラインは前後の動きにも対応せず、ミドルレンジのシュートに寄せ切れてないという側面もあった。そのため、岩渕のファーストシュートのようなミドルレンジからのシュートは狙いどころとしていた。しかし、日本はミドルシュートを外した。また、ゴール近くに迫ろうとしても、チリのディフェンスの4枚がボックスの幅くらいに固まっているため、どうしても人数で日本の攻撃は弾き返される。チリのディフェンスは中を固め失点をしないという意味で成功したと言える。

嵐のような後半

ハーフタイムでセンターフォワードの菅澤に代わり田中が入る。今大会では、安藤さんが指摘したようにセンターフォワードの先発が菅澤と田中のどちらかに定まらなかった。しかし、裏を返せばセンターフォワードの欠乏には陥らずに済んだとも捉えられる。1試合に限って言えば、交代することによって同じポジションでキャラクターの変更ができ、日本の武器になった。後半に入ると、すぐに日本は前からボールを取りに行く。前半と比べ、代わって入った田中を中心に、粘り強く追うことができた。しかし、林に代わって遠藤を入れたあたりから前に出ていったところのスペースを使われ、危険なシーンが増える。日本はセンターバック2人と北村、セントラルミッドフィールダー1人を残し、他の6人が前へ進んでいった。個人的には自陣に帰ってくるスプリントのところでの辛さを感じ、運動量的にも、空けるスペース的にもリスクの高い戦い方だと感じる時間帯だった。そして、交代した遠藤は帰陣のところで少し物足りなさを感じる場面があった。スプリントでの辛さを感じた長谷川と木下が交代すると、交代後すぐに、日本がこの試合最大のピンチを迎えた。三浦のファールからチリが早いリスタート、山下のクリアミスを拾われ、ゴール前に迫られたシーンだ。最終的にはチリが宝田を背負った状態でクロス、ヘディングがクロスバーに当たったあとギリギリ、ゴールインしなかった。リスタートについていけなかったことと、2本のクリアミスが最終的に防ぐことの難しいピンチを作ってしまう。サッカーにおいて、クリアミスのようなある種、アクシデントで勝敗が決まってしまうことは往々にして起こり得る。そのためにも、ディテールにこだわりアクシデントを未然に防ぐことが大事だと感じたシーンだった。その後、日本が相手陣内で攻める回数が増えると、岩渕のポストプレーから田中がゴールを決める。そして、チリにも疲労が見られ、三浦と中島が交代した効果もあり、高い位置でのパスカットが増えた。また、裏への抜け出しがさらに成功するようになったために決定機を多く作れるようになる。そのまま試合が終了すると、場内は拍手が起こった。

疑問について

自分がチリ戦で問題点に思ったことは前半の前線からのプレッシャーの強度の部分で、前線で交わされた後の2度追い、3度追いの要素も含めて問題だと感じる。ただ、後半は改善されたと言えるだろう。さて、ここで問題提起して議論の対象としたいのが、後半のゲームプランは妥当だったのだろうか、ということである。もちろん、この議論に正解はないし、リスク・リターンの取り方、捉え方は人によってかなり変わるということが普通だ。だからこそ、結果論で語るのは無意味だし、この論点で議論することに意味がある。ちなみに、自分はハイリスク・ハイリターンだと思った。リスクとしては先ほどの戻ってくるスプリントのところで体力的に走れない選手が出てきた点、セントラルミッドフィールダーの2人がほぼ縦関係になってしまった場面があった点、そして前から取りに行ったが剝がされてしまった場面もあったという点などがある。他方で、リターンとしては攻撃に厚みが加わった点、前から取りに行ってボールを取れた場面があった点、前から取りに行って能動的にアクションを起こせた点などがある。自分は上記に挙げたようなリスクを取らなければリターンが得られなかったのか、という疑問を持った。自分が考えた、よりローリスクでそれなりのリターンが得られる方法は4枚のディフェンスラインの横をついた後で、つり出されたサイドバックと隣のセンターバックに横のギャップができる。そこに人数をかけて、後ろから飛び出して行ってマークをつかせにくくする。そのプレーの中でボックスに侵入することができれば、PKを獲れるかもしれない。また、パス、クロスを飛ばす距離が短くなるので一瞬、マークを外せばワンタッチでシュートできる可能性が高くなるのではないだろうか。加えて、ボールサイドと逆のサイドに居る選手を少し中央にポジショニングさせる。クロスに後方(マイナス)で構えるということと、守備のカバーのためだ。今、出した例は1例に過ぎず、リアリスティックではないかもしれないが、こうしたローリスクのプランを試してから前に重心を大きくかけるべきだと自分は感じた。チリに負けていたら、敗退が決まる状況で実際よりも慎重にプランを組み立てるべきだったというのが個人的な、偏りのある意見だ。

トーナメントが起こすもの

次戦は、今回のオリンピックで優勝候補に挙げられるスウェーデン。相手の選手たちは個の能力が全てにおいて高く、故に、組織的なミスも少ないが倒せない相手ではない。内容がどうであろうとも、ゴールの有無で結果が決まる。トーナメント方式において、番狂わせは日常茶飯事だ。自分としては、どれくらい前から取りに行くかに着目してみようと思う。決断に対して、そこに至った理由をいつも通り、考えてみたい。失点しても焦らずに勝ちを目指すことを願っている。

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後半51分の田中と林が挟んで高い位置でボールを取ったシーン
→日本が後半から粘り強く追うことができるようになったことの象徴になった。代わった田中もそうだが、林も相手との良い距離感でドリブルのミスを見逃さなかった。

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・林 穂之香(ハヤシホノカ、1998年生まれ、AIKフットボール/スウェーデン、セントラルミッドフィールダー)
自分が彼女を選んだのはスウェーデンリーグに居るからというだけでなく、4バックにおけるスペースの処理を期待しているという点が大きい。是非、不動の存在になってほしい。

・木下 桃香(キノシタモモカ、2003年生まれ、日テレ・東京ヴェルディベレーザ、サイドハーフ)
取り上げていったらキリがないし、本来は1人で終わらそうと思っていたが、どうしても木下に対するコメントを記したいと思った。160㎝以上あるサイドプレーヤーで、攻守において強さ、速さがあった。他のサイドプレーヤーとはプレーの規格が違い、交代では良いキャラクター変更になった。また、ポジショニングも良い。クロス、パスなどのキックに改善の余地はあるが、歩幅のあるドリブルは相手にとっては止めにくい。日本サッカー界には木下を育て上げる義務がある。

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