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湖の潮汐と心の水面という話

それは抗いようのない引力、
されど抗う必要のない引力。

職場の引っ越しが決まった。
ハノイ西側、住宅(過剰)密集地のCauGiayと開発途上地域のMyDinhのちょうど境になる大通り沿いにあるビルで、予定は4月中旬だ。

一応(?)総合建設業の会社である。最初から最後まで全部自分達の手で納得いく事務所を造り上げるべく、その意気込みはちょうど年度末に引き渡し予定の大型案件に勝るとも劣らなかった。
事実、うちの社長(日本人)と副社長(ベトナム人)はテト明けからほぼ毎日何らかの打ち合わせをしていた。相当細かい部分まで詰めているのが見て取れた。

しかしいい事ばかりかといえば、実はそうでもなく。
問題は現在私が住んでいる部屋からより遠くなってしまうことだ。
GoogleMapによる計算上は約2km。しかしこの2km差を、特に朝夕のラッシュ時における2km差を侮ってはいけないのだ。√や時間帯、天候にもよるが5~10分は確実に伸びるだろう。

「うむ、これは……やむを得ん、W引越だ!」
―2021年2月某日、案山子、旧事務所の片隅にて

そう。職場の引越に伴って私自身も部屋を引っ越すことを考えた。
とりあえず通勤時間をどうするか。どうせ引っ越すのなら近い方がいいに決まっているので、だいたい目安で15分以内なら大分楽になるだろうと思って調べ始めた。具体的にはCauGiayの北側(StarLake南)、MyDinh界隈。場合によっては徒歩でもいいかも知れない。不動産屋のWebサイトを眺めながらいくつかの部屋をピックアップしてみた。
……しかし、どうも今ひとつピンとくる物件がなかった。
その代わり、何となく調べたTayHo近辺には手頃でいい感じの物件がいくつかあり、本当に気になったところは下見も行った。

一方で、それまで住んでいたホステルもリニューアル込みで移転することになった。移転先はTayHoの主要な通り沿いで、通勤距離を計算すると自宅・職場引越前の距離と変わらない。というか、職場が遠くなる分だけ自宅も近づいたみたいなイメージだ。
ちょっと滑稽な気もするけれど、タイミングはちょうどいいし、本来の部屋探しの方は家賃交渉の回答もなく難航していたし、その間にも退居期限が刻一刻と迫っている事も考えて……まぁ、ひとまずは自動的に移転先に引越して、どこかいい所があれば再引越すればいいかと思う事にした。

あれこれ考えたり調べたりした割には、結局大した変化にはならなかった。
引っ越してから気付いたのは、「住みたいところに住むのが一番」という、とてもシンプルなロジックだ。その他の様々な要素が介在することは結局なかった。
ついでに、以前の家に住み始めて間もない頃の気持ちを段々と取り戻していた。元はと言えば、形ばかりの応援でなく家賃収益という確かな支援でもって運営に携わる友人の夢に応えようとしていたのだった。今度こそ、大切なこの気持ちを忘れることのないようにしたい。

話変わって、私の好きな本に「3月のライオン」というタイトルがある。
主人公が一人暮らしをしている場所のモデルが東京都中央区の佃・月島付近で、古き良き時代の下町の名残を残した隅田川のほとりの地域というのが、作品世界の優しさや温もりを丁寧に表現しており、(もし日本へ帰国することがあれば、)自分もこんな場所に住みたいなんて思わせられる。

そういう意味では、TayHo周辺に住んでいるのも、これからも住み続けたいのも、同じような理由なのかもしれない。"水辺"という穏やかな魅力に、確かに引かれている。

感情は揺らいでも、信念は水鏡のままに。

#雑記 #独り言 #海外生活 #ベトナム #ハノイ #引越

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