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やっぱり全て等価交換という話

それは紅い雫と光る鱗の練成物。
立ち塞がる困難に突破口を穿ち、
正解のない問題に糸口を見出す。

6月初頭、大型案件*1の受注が決まった。
現在の会社に入社してから1年3ヶ月……初めて自身の営業の成果によって勝ち取った、文字通りの快挙であった。

内容としては北部のとある製造業の工場増築工事に当たるのだが、最初に話をもらったのは昨年の12月頃。当時は通常の営業周り(特に新規開拓)を省略し、既に訪問した事のある会社を中心に翌年のカレンダー配りに精を出していた。
そこの工場長とは歳も近く、また知り合ったきっかけも開拓営業ではなく共通の知人を介した飲み会だったので、ラフに世間話でもするつもりでお邪魔した。

「気がつけば、今年ももう12月ですね、最近どんな塩梅ですか?」
―案山子、客先応接室にて

だが、そこで私を待ち受けていたのは、全く予想外の反応で。

「いや~それがね、最近本社から連絡があって。
 工場増築することが決まったんですわ」
―彦根さん(仮名)、応接室にて

思わず、目が点になってしまった。
その後1拍置いてから、荒々しい高波のようなものが私の脳内画面にイメージ映像として映し出され、徐々に画面の手前側へと迫り来る。……いや、そもそも画面などというバリア自体最初から存在しないぞ?すなわち、私の方めがけて容赦なくザッパーンッ!と来てしまう、否応なしに対峙を迫られるやつだぞ。

そこからは、思い返せばあっと言う間だった。
年明け早々に概算見積及び基礎図面を提出し、そこから完成後の実際の業務や人・物の導線を考えつつ仕様を固めていった。OHC*2は26m幅1基から13m幅2基の並列設置というフレキシブルな運用になるなど、変更・修正を重ねること数回。先方のスケジュール感的には4月締切、5月選定のつもりであることを伝えられた。かくいう私達も提案書類がまとまったのは4月下旬、ちょうど連休を目前に控えた頃の出来事だ。

正直な所、5月前半には決まると思っていた。
日中は勿論のこと、夜間や週末も社用のスマホは片時も離さなかったし、絶対にワンコール以内に出ようとか思っていた。しかし代わりに来たのは1通のメールだった。
曰く、安全面に係る仕様(というか設計思想)がうちと競合他社の間とで微妙に違うためにややこしい事になっているという。別途説明のためのWebミーティングを設け、客先には本社側からも参加してもらった。その結果分かったのは、今回は各社自由に設計して提案したためにごく基本的な設計の違い・仕様の有無が生まれ、そこから法解釈の相違にまで発展したようだった。

今回の競合は2社、しかも片方はヤ○ザ紛いな会社として巷で有名な某日系建設管理企業だ。いくら第一工場での施工実績があったとはいえ、そう簡単に負ける訳には、いかない。VE/CD*3をはじめ、『打てる手は全て打つ』くらいのつもりで突き進んだ。
しかし一方で、客先は客先で判断を躊躇っていた。
仮に他社を選択した場合、既存工場のメンテナンスを金輪際保証しないなどの掌返しにでる可能性があったからだ。事情を鑑みた結果、損傷の著しかった事務所の床タイルを皮切りに、今後発生するであろう様々な補修要件は精一杯協力していくことを約束する。

かくして受注が決まった。
最初に話をもらってから、気がつけばもう半年が経過していた。
大型案件を受注したことの達成感は当然計り知れないものがあったが、それ以上に自分自身がこれまでに経験したことが自分の中で限りなく鮮明になっていった。これまでの全てのことが、言語などを介することなく抽象的なまま、しかしはっきりと理解に至る。
その中でもひとつだけ、単純だが単純であるゆえにとても重要なことに気が付いたので、精一杯ここに言語化したいと思う。

『仕事』というものには、どうやら、100万円稼ぐには100万円相当の、1億円稼ぐには1億円相当の、苦労やら困難やらリスクやらがあるらしい。
……いや、もちろんこれだけ書くと「うん、それは当たり前のことでは?」みたいに言われかねない気がする、気がするので、(せっかくだし)この記事を読みながら一緒に考えてみて欲しい。

例えば、自分が今までに、かつ直接的に経験した仕事で、一体どれほどの規模の案件に携わってきただろうか?
もちろん、業界や職種によって千差万別かもしれない。商流の上中下どこに位置するか、あとは薄利多売から一本釣り漁の様な形態だとか、ブレ幅は相当なものになるだろう。ちなみにうちは典型的な上流にして後者、何なら私自身の釣果だって、小アジから本マグロまでとネタの種類は非常に豊富だよ。

まっさらな土地に大掛かりな箱を一から作って、そこで人が暮らしたり働いたりする。それも20年30年ないしはそれ以上、おまけに外国人が海外の土地で外国企業相手に外国語と外貨で取引を行うという。
ゼネコンに限らず、大手・総合商社だとか、医歯薬学関係だったり、他にも司法や金融の分野なんかも、仕事の規模や専門性であるとか、そこに携わるハードルやリスクなど、色々な面を踏まえた上で、高給取りは高給取りなのだろうと、今回、身を持って経験した気がする。
ただその一方で、不労所得なんかは”不労”の文字こそ付いていてもその仕組みや基盤を構築するための手間や資本があって実現するもので。そして何より『社会や経済がとりあえず何事もなく安定している』という大前提の上で初めて成り立っているはずなのだ。その前提が何らかの理由で変わるとあっという間に崩壊しかねない訳で……。

さて余談だが、今度は5.0M USD超えのさらなる大型案件が控えている。何事も無ければこいつも今夏中には決着する……はずだ。

見事勝ち取った暁には……どうしようか。
お世話になった人や大事な人達へと還元したり、同期会で高級寿司か何か振る舞ったり、ついでに自分への投資としてフルオーダーメイドでスリーピーススーツ仕立てたりしますかね。

*1 弊社では概ね1.0M USD(=約1.1億円)以上の案件がこれにあたる。
*2 オーバーヘッドクレーンの略。建屋の梁に沿って水平移動する機械で重量物の運搬に……いや、適当な画像などを参照してもらった方が早いか。
*3 VE/CD Value Engineering / Cost Downの略。前者は主に設備などで仕様や性能を維持したまま価格を調整すること。例えばエアコンをダイキン製からLG製に変更するのも立派なVEである。一方で後者は純粋な費用削減、度が過ぎると「安かろう悪かろう」になったりする。

#雑記 #独り言 #海外生活 #ベトナム #ハノイ

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