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メイカーの創作物を守る知的財産権の話

趣味のものづくりの作り手、そこからビジネスをする(かもしれない)人に、知財のお話。

1 はじめに
 作ったものが他人に評価され、気に入られるのは嬉しい。でも模倣は喜べない、又は、他人が同じ物を作る・改良するのはよくても「それで商売されるとモヤっとする」ということはよくある。模倣品が出ると事業に直接的なダメージを受け得るし、そうでなくとも他人が自分の創作物を利用して勝手に利益を得るのは嫌な気分になりやすかろう。

 創作物を模倣から守るものに、「知的財産権」(縮めて「知財」)というものがありまして。ここではメイカーやそのサポートをする方向けに、メイカーの創作物を守る「知財」をカンタンに紹介します。

2 著作権と特許権等
 クリエイタの知財といえば大抵真っ先に挙げられる著作権と、訴訟のニュースがちらほら聞こえる特許権(技術系の方は技術調査や出願でなじみがあるかもしれない)。名前は知っていてもイマイチどう違うかわからないとよく聞くので、以下にざっくりまとめてみました。
 これらよりちょっとマイナな実用新案権、意匠権も。実用新案権は、特許権の簡易版のようなものである。意匠権は、外観上の特徴についての創作を保護するもので、「技術の特許、見た目の意匠」といったところである。

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※実用新案権は手続きに「審査」がなく取得が容易。一方で権利行使には制約があるので注意が必要。

 こう見るとまあ本当にいろいろ違うのだが、とても雑にいうと
 ①まず分野。著作権は文化系、特許権と実用新案権は技術、意匠権は工業品の外観に関する。
 ②次に権利の取りやすさと使いやすさ。「取れる場合は自動的に取れるが権利範囲が曖昧な著作権、ちゃんと取るのは容易でないが権利範囲が(比較的)明確な特許権等
といったところである。

①分野
 例えばディスプレイを作ったとする。ディスプレイそのものは工業品なので著作権の対象にはなりにくい。でもディスプレイに映すコンテンツの表現は著作権で保護される可能性がある。さらに例えばその表示や設置に関して技術的な工夫があれば特許権で保護される可能性がある。ディスプレイそのものの外観の特徴は意匠権で保護される可能性がある。(表示画像については意匠権を取れる場合もある。)

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②権利の取りやすさと使いやすさ
 著作権は手続きなしで得られる。しかしAさんの創作物αに類似したような物が現れた場合に、著作権侵害にあたるような類似かどうかはAさんの創作物αそのものに基づき判断される。海賊版のような明らかなコピーを除けばこの判断が非常に難しい。著作権が保護するのは創作物の具体的な表現であり、そこに至るまでの抽象的なアイデアは保護しない。著作権が問題になる範囲は、「似過ぎ」「パクリ」と騒ぎになる範囲より狭いことが多い。またAさんの創作物αから影響を受けずに作られた物がαに似ていても、著作権侵害にはならない。

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 特許権等の取得には特許庁への手続きが必要である。特許権等はアイデアを保護するが、ここでアイデアは創作した物そのものではなく、その手続きで特許庁に提出する出願書類の内容に基づいて把握される。書類の内容次第で権利は広くも狭くもなるため、書類の用意や修正等の手続きは疎かにできない(知財部のような専門部署や弁理士のような専門家が必要とされるのはそのためである)。手続きでは審査があり「そのアイデアが新しいこと」等の要件を満たさなければ権利はもらえない。さらにお金もかかる。しかし上述のように権利範囲は書類に書かれているので比較的明確である。注意点としては、他人が事業としてそのアイデアを利用しない場合は侵害にならない。

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 特許権は創作物ができていなくてもアイデアがしっかりあれば取得できるので、「思いついたけど作るのが追いつかないぜ」なアイデアマンはぜひ検討してほしい。

 著作権は自動的に持てるが特許権等はそうはいかず、手間もお金もかかる。しかし特許権や意匠権でこそ守られる面もあるので、気に留めていただいて、ここぞというときには適切に専門家にご相談いただけたらと思う。

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3 商標権を少々
 あまり創作の話題では出てこないが有名な商標権にも触れておきます。創作の話題で出てこないのは当然で、創作物を保護する権利ではありません。
 商標はトレードマークで、商品やサービスの目印である。
 創作物について商標登録を受けたからといって創作物が保護されるわけではない。他人に、商品やサービスの目印として登録商標が使われた場合にのみ問題となる(さらにそのなかでも侵害にならないケースがたくさんある)。
 ……というわけで、基本的には「創作物」を守るという目的には適していないのです。

4 結論
 創作物を模倣から守る知財といっても性格はそれぞれ。実用品を作る場合、試作品や製品の技術的なアイデアや外観に関するアイデアが盛り込まれていないか? 特許権、意匠権を思い出していただきたい。

5 おまけ
 逆に他人の権利侵害には気をつけましょう。著作権は趣味で作ったものを公表する場合にもかかわってきます。特許権等は趣味の工作には関係しない。ただそれでビジネスをするとなるとその特許や特許権者の製品を知らなくても問題になってくる。もし警告書が届いたなど問題が発生した場合は専門家、詳しい人に相談しましょう。

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