Rの軌跡 第五話「いざ、審判の時」
ついにこの日がやってきた。
生徒会役員の投票日。晴天。体調ばっちり。いつもは廃人よろしくグダグダな朝も今日は違う。シャキッと目を覚まし顔を洗い、歯を磨き(歯はいつも磨くけど)あっけにとられる母を横目に行ってきますと威勢よく玄関を出る。
目的のために行動を起こす。なんて気持ちがいいのだ。自分は生きているという気がする。教室に入る。皆が僕を見ている(はい、自意識過剰)いよいよ決戦の舞台がやってくる。
朝礼が始まろうかという頃、さっきまで改正だった空はどんよりとねずみ色に変わり始めた。一抹の不安がよぎる。おいおい、大丈夫かよ。
校長先生のありがたいお話が終わり、現生徒会長の司会による新生徒会役員選挙が始まった。天気は何とか持ちそうだ。
事前のネゴシエーションのおかげで、立候補は僕だけ。ライバルはいない。既存の生徒会役員共も副会長や書記、会計などへ異動し体制を整えててくれた。
僕は朝礼台に立って、
「この学校を良くしたい」(ライブがしたい)
「地域に貢献したい」(スタジオをいくつか作ってほしい)
「笑顔のあふれる学生生活を」(ライブでみんな楽しもうぜ)
といったようなことを言ったのではないかと思うが興奮していたので我を忘れあまり記憶に残っていない。ただ本音ではなく建て前の発言に留めたところは褒められるべきところだろうと思った。
メンバー:よくもまあ口から出まかせを
僕:間接的に同じことやろ?みんなで幸せになりましょうよ。
投票の結果は昼休みの放送で発表された。
放送:朝の集会で行いました本年度生徒会役員投票の結果を発表します。生徒会長立候補Fさん。対立候補がいないため信任是非の投票となります。
いきなりキターーーーーー。
放送:信任321票、不信任36票、無効票123票、よって信任されました。次に副会長の・・・
お!やった!とおった!って不信任36って多くね?12クラスやから一クラスに3人不信任おるってことやん!教室の隅っこでメンバーの一人がにやにやしているのが目に入った。
メンバー:おめでとうさん。色々大変やけど頼むで。
僕:任せなさーい。政治は得意なのだよ。
メンバー:欲望に素直なやっちゃなあ
こうして僕は文化祭でライブをするという目標に1歩近づいたのであった。
投票日から数週間後、クラスメイト(女子)からこんな話があった。
クラスメイト(女子):あの、F君てバンドやってるんやんな?
僕:おぉ。やってるで。
クラスメイト(女子):実は私の従妹なんやけど、同い年で。歌がすごくうまいんやって。F君のこと話したらぜひ一緒にやりたいって言ってて、そのどうかな?
僕:そうなん?ええやん!でもうちボーカルおるからなぁ。
クラスメイト(女子):そうやんな。私もたぶん歌う人おると思うよって言うたんやけど。
僕:んーでも音楽仲間が増えるのは嬉しいな。ほんなら今度二人でスタジオに遊びにおいでよ。
自分の名前が他人の会話の中に登場することは不思議な気持ちだった。なんだか恥ずかしいような嬉しいような。何か行動をするといろんなところで影響があるのだなと思った。知らない人とつながったりするなんて、バンドを始める前までは考えられなかったことだ。ただ一つ気になることがある。うちのボーカルは何というだろう、、
ボーカル:ええやん
僕:ええんかい。そしてプライドないんかい!
ボーカル:これから高校受験で忙しなるからちょうどええわ
おっと他人事ではないぞ。
そして数日後、スタジオにクラスメイト(女子)と自称歌うま君がやってきた。
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