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ダイバーシティとクリエイティビティ

1. はじめに

チーム内にいろいろな人がいる(チームのダイバーシティが高い)と、異なった価値観が刺激され、クリエイティブなものが生み出される可能性が高いと言われている。

これは、情報・意思決定理論に基づいた考え方である。

ただし、実証研究のレベルだとこの主張が正しいかどうかは十分な証拠が出そろっていない。つまり、ある時にはチームのダイバーシティが高いとよりクリエイティビティが発揮され、ある時にはチームのダイバーシティがクリエイティビティを阻害してしまう。

このようなとき、どのような条件ならダイバーシティがクリエイティビティにプラスに機能し、どのような条件ならマイナスに機能するのかを明らかにする必要がある。

今回の論文はこうした条件を明らかにしようと試みたものである。

2.チームの認知ダイバーシティ

ポートランド州立大のShin准教授らは、ダイバーシティの中でもチームの認知ダイバーシティに着目し、それがどのようにチームメンバーの創造性に寄与するのかを分析している。

チームの認知ダイバーシティとは、「個々のチームメンバー間の考え方、知識、スキル、価値観、信念が異なっていると認知される程度 (Dahlin, Weingart & Hinds, 2005) 」である。

ダイバーシティの研究では人種や性別など目に見える違いに注目するものが多い一方、こうした目に見えないダイバーシティにも注目が集まっている。認知ダイバーシティは人々が違うと思っている程度を示すという点で極めて主観的なものである。

Shin らはチームの認知ダイバーシティが高まれば、チームメンバーの創造性が高まると仮定し分析を行った。これは、チームメンバーがより一層多様な考え方や価値観を組み合わせることができ、よりクリエイティビティが発揮できると考えたからである。

3.チームの認知ダイバーシティとクリエイティビティ

分析結果は予想に反するものだった。チームの認知ダイバーシティはチームメンバーのクリエイティビティと有意な関係性を示していなかったのである。

このことは、認知ダイバーシティが直接メンバーのクリエイティビティと関係しているわけではないことを意味している。ではどのような条件の時に認知ダイバーシティはメンバーのクリエイティビティに寄与するのか?

Shinらは二つの条件を提示している。

一つはメンバーのクリエイティビティに関する自尊心 (self-efficacy) である。これは、自分たちがクリエイティブになれると信じる程度 (Tierney & Farmer, 2002) を意味する。つまり、チームのメンバーが自分たちはクリエイティブ集団だ、と思っているほど、クリエイティビティに関する自尊心は高いといえる。

もう一つは変革型リーダーシップ (transformational leadership) である。このタイプのリーダーはビジョンを語り、メンバーのロールモデルとなり、メンバーの想像力、知的好奇心、新しいアプローチを促す (Bass, 1985)。このようなリーダーがいると、認知ダイバーシティによる多様な価値観や考え方がチーム内でより活かされるようになり、結果チームのクリエイティビティにプラスに寄与するといえるのである。

4.おわりに

Shin らの結果は上記の説明の通りになった。すなわち、チームメンバーのクリエイティビティに関する自尊心が低い、もしくは変革型リーダーシップの程度が低いチームの場合、チームの認知ダイバーシティと個々のクリエイティビティには有意な関係は見られなかった。

一方、チームメンバーのクリエイティビティに関する自尊心が高い、もしくは変革型リーダーシップの程度が高いチームの場合、チームメンバーの個々のクリエイティビティは高くなる傾向にあった。

このことから言えることは、クリエイティブなチームを作るためには以下のことが求められるといえる。

1. メンバーの違いを理解すること。それぞれがどのような考え方、スキル、知識を持っているのかを理解することで、お互いの違いを組み合わせる可能性が広がる。
2.自分たちはクリエイティビティの高い集団だと思うこと。こうした自尊心は、多様な情報を集める動機となり、チームメンバーの多様な知識を活かすきっかけとなる。
3.慣習にとらわれないやり方を促すリーダーを任命すること。変化を促してくれるチームリーダーがクリエイティビティの高いチームを作るうえでは必要である。

References

Bass, B. M. (1985) Leadership and performance beyond expectation. New York: Free Press.

Shin, S. J., Kim, T. Y., Lee, J. Y., Bian, L. (2012) Cognitive team diversity and individual team member creativity: A cross-level interaction, Academy of Management Journal, 55(1), 197-212.

Tierney, P., & Farmer, S. M. (2002) Creative self-efficacy: Potential antecedents and relationship to creative performance in two organizational setting, Academy of Management Journal, 45, 1137-1148.

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