映画レポ|『幸せなひとりぼっち』厄介な頑固おやじにも青春はあった
私たちは、毎日どれほどの人とすれ違うだろう。
街行く人全員にそれぞれの人生があるなんて、膨大すぎて想像もできない。
今作の主人公は、あるひとりの孤独な老人だ。ルールに厳格で、少しでも破ろうものなら怒鳴り散らす街の厄介者。まるで思いやりなんて持っていないような彼にも、人を愛した経験はあったのだろうか。
■あらすじ
■北欧の国、スウェーデンの大ヒット映画
スウェーデンの人気小説家、フレドリック・バックマンによるデビュー作を映画化した今作。2015年の公開時点で160万人を越える動員を記録し、スウェーデン映画史上歴代3位となる興行成績を収めた。
スウェーデンといえば北欧の国。映画を通じて実際の暮らしを体感することができるのも楽しみのひとつだ。冒頭は少し暗く感じるかもしれないが、観進めていけばとてもハートフルな物語。ぜひ、興味がある方はこの記事を読む前に観てみてほしい。
■衝撃を受けるほどロマンチックなストーリー
妻に先立たれ、孤独に暮らすオーヴェは追い打ちをかけるように失業。冒頭8分で、なんと自殺を図ろうとする。たまたま起こったトラブルによって断念するも、その後も度々自殺未遂を繰り返す。
自殺に失敗するたびに少しずつ見える走馬灯は、先立った妻、ソーニャのことでいっぱいだった。
…話は若かりし頃に遡る。たまたま電車で出会い、親切にしてもらったソーニャに一目で恋に落ちたオーヴェ。また会いたいがために、毎朝同じ時刻の電車に乗り再会を待つ。いざ再会が叶ったとき、貧しい彼は咄嗟に自分は軍人だと嘘をついてしまった。親切にしてもらったお礼がしたいと話すと、彼女は食事へ行きたいと彼を誘うのだった。
しかし貧しい彼に、2人分の食事代など払えるわけもない。「食べないの?」と聞く彼女に「食べてきた」と無理のある嘘を重ねるオーヴェ。不思議な顔をするソーニャを見て、本当は軍人ではなく、列車の清掃員である真実を打ち明ける。そして、最後に呟くのだ。「食べないのは、君が…好きなものを、食べられるように。」その言葉には、彼女への想いの全てが詰まっている。立ち去ろうとするオーヴェに、ソーニャは立ち上がりキスをするのだった。
■ソーニャへの愛は次世代へと繋がっていく
厄介な中年は、蓋を開けてみれば愛を失い哀しむひとりの人間だった。そんな彼を厄介者扱いしない唯一の人物が、最近家族と越してきたパルヴァネ。彼女だけはオーヴェの悪態の先にある、深い優しさに気づいていた。関わり合ううちにオーヴェも彼女へ心を開き、愛する妻ソーニャとの結婚生活について語りはじめる。一度閉ざした心をパルヴァネの存在によって開いたオーヴェは、街の住人たちとも次第に関わりを持つようになっていった。
一方のパルヴァネも、家族を持つひとりの母。彼に出会ったことで、何かあたたかいものを得られたのではないだろうか。
■まとめ
ほとんどストーリーを追っていくような感想文になってしまったが、本当に1シーンごとに語りたくなるほど、どこを切り取ってもあたたかいストーリーだった。
この世界を生きるのに、ひとりぼっちでは寂しすぎる。私は、誰しもが心の奥深くに愛を持っていると信じている。もちろん、愛の形は必ずしも恋愛に限るものではないだろう。閉ざした心を開いてくれる存在は、案外近くにいるのかもしれない。
必要なのは、あと一歩の勇気なのだ。