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映画レポ|『オールド・ジョイ』日曜の夜に観たいヒーリングロードムービー

仲の良い友人たちと、いつまでもあの頃のように遊んでいたい。そう願い合った友人たちは、結婚し、子どもが生まれ、徐々に別の人生を歩みはじめる。

今作は美しいロードムービーを通じて、いつの間にか歯車が噛み合わなくなってしまった友情を、静かに理解していく切ない物語だ。

■あらすじ

もうすぐ父親になるマークは、ヒッピー的な生活を続ける旧友カートから久しぶりに電話を受ける。キャンプの誘い。 “戦時大統領”G・W・ブッシュは再選し、カーラジオからはリベラルの自己満足と無力を憂う声が聞こえる……。ゴーストタウンのような町を出て、二人は、ポートランドの外れ、どこかに温泉があるという山へ向かう。

【映画ログプラス】
https://tokushu.eiga-log.com/movie/84686.html/amp

■これぞスーパーヒーリングムービー

はじめて『オールド・ジョイ』を鑑賞したのは、日曜の夜だった。明日からまた5日間も労働をするのか…と憂鬱な気分になりながらも、最後のあがきとして映画を選ぶ。ロードムービーでも観て現実から遠ざかろう。結論から言えば、これ以上ないほど憂鬱な気分にぴったりの映画だった。

なんと表現していいかわからないが、田舎すぎない田舎の、自然の音がする。鳥の鳴き声と、ときおり走る車の音が遠くに聞こえる静かな住宅街。2人の旅がはじまると、車を切って風が流れる音と、話し声がごく自然に混ざり合う。
会話が止まるとやわらかなアコースティックギターが鳴りはじめ、車窓から街の景色が流れていく。私は安らかな気持ちで、自然と深く深呼吸をしていた。

■2人の間にあるわずかなズレには目を瞑ろう

再会した瞬間に、2人はきっとわかっている。お互いの持つ価値観が、とっくにズレてしまっていることに…家庭を持ったマークに対し、あの頃のままで、寂しい想いをしているのはきっとカートの方だ。でも彼は怒ることなく、まるで見て見ぬふりをするように、マークに語りかけるのだった。

宇宙は涙のようなしずくの形をしていること。
不思議な夢のなかで出会った優しい女性のこと。

対してマークが話すのは、ゴミ捨て場をコミュニティ・ガーデンにしようと計画していることだった。

どちらが豊かで、どちらが豊かでないかのような議論をしたいわけではない。ただ、価値観が違うのだ。

■悲しみは使い古した喜び

この映画の見どころは、なんといっても目的地である温泉のシーンだ。マークとカートはそれぞれビールを片手に、この上なく開放的で至福な時間を堪能する。相変わらずカートの話に対しては聞いているのかいないのか、よくわからない態度のマーク。カートは話を終えた後、突然マークにマッサージをはじめる。はじめは驚くマークも、だんだんと気持ち良さそうに彼のマッサージを受け入れる。個人的な見解だが、この瞬間だけはもとの2人の関係に戻れたのではないかと感じた。言葉はない。ただ、同じ方向を向いているような気がしたのだ。

辺り一面自然だった景色は一転し、帰りの車からは街の明かりが流れていく。旅が終わりに近づいてくる。じゃあまた明日ね、くらいの感覚で別れの挨拶をするカート。おそらく、もう彼に会うことはないだろうと思いながら。

年月が経って古びた友情は、もうカケラしか残っていない。しかし、2人の間には確かに友情で結ばれていた時期があった。切ないけれど、過去にあった友情の事実が消えることは、永久にない。

■まとめ

こんなに複雑で機微な関係性を、心地よく描き切ってしまう監督の凄さには驚いた。絶対に行ったことのない場所なのに、記憶のどこかの景色と重なってどうにもノスタルジックな気持ちになってしまうのだ。

目を閉じれば木々の揺れる音が聞こえる。
過去に関係を持った友人たちは、今、何をしているのだろう。
今日はきっと、いい夢が見られる。

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