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映画レポ|『幻滅』芸術の価値をマスコミが掌握する恐怖

「モナリザ」が価値ある絵だと、実物を見たことがない者まで何の疑いもなく語る。ではその価値とは、一体誰が決めたものなのだろうか。

今作の舞台は19世紀前半のパリ。マスコミとサクラが共謀し、芸術の価値を思うがままに支配していた。さて、田舎から上京してきた文学を夢見る青年の運命は。

■あらすじ

舞台は19世紀前半。恐怖政治の時代が終わり、フランスは宮廷貴族が復活し、自由と享楽的な生活を謳歌していた。文学を愛し、詩人として成功を夢見る田舎の純朴な青年リュシアンは、憧れのパリに、彼を熱烈に愛する貴族の人妻、ルイーズと駆け落ち同然に上京する。だが、世間知らずで無作法な彼は、社交界で笑い者にされる。生活のためになんとか手にした新聞記者の仕事において、恥も外聞もなく金のために魂を売る同僚たちに感化され、当初の目的を忘れ欲と虚飾と快楽にまみれた世界に身を投じていく。

【映画『減滅』公式サイト】
https://www.hark3.com/genmetsu/#modal

■新進気鋭の俳優たちによる名演が堪らない

翻弄される主人公を演じるのは、2020年『Summer of 85』でダヴィド役を演じ、一躍注目を浴びたバンジャマン・ヴォワザン。『幻滅』ではなんとセザール賞を最多7冠獲得し、さらに地位を確立している。
他にも、セザール賞助演男優賞を受賞した新聞社の編集長を演じるヴァンサン・ラコストや、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞したこともあるグザヴィエ・ドランなど注目の俳優が勢揃い。各々が身につける19世紀フランスの衣装は目眩がするほど美しいものばかりで、華やかな作品が好みの人にはおすすめの一本だ。

■かつてのパリは夢見る若者を食い物にした

主人公のリュシアンは、夢見て上京したパリで呆気なくコケにされる。やっとのことで手にした新聞記者の仕事だったが、内情は“金を出せば良い評判の記事を書く”という悪質なものだった。マスコミが絶大な力を持つ当時のパリでは、新聞の内容次第で世間の評価も思うがまま。社会的に権力を持ったリュシアンは、だんだんと欲に塗れた生活に溺れていく…。

同じ文字を扱う仕事でも、文学と新聞ではまるで性質が違う。登場人物のなかでも特に印象的なのが、貴族であり小説家のナタンという男だ。彼は芸術を真に愛し、マスコミの力に押されながらも賢く生きていた。自分の信念を貫き、利用できる力は使い、信頼できる言葉、人を己で見極める力を持っていた。この能力は、いつの時代でも生き残るための重要なカギとなる。…今風に言うと、「生殺与奪の件を他人に握らせるな」って話だ。

もしナタンが「モナリザ」を見たならば、世間の評価に関わらず、自分の意見を言うことができるのだろう。

■絶望したあとも容赦なく人生は続く

欲望の赴くままに行動したリュシアンは想像通り破滅の道へと突き進んでいく。私がこの映画を観て凄いなと思った点は、ラストのワンフレーズだ。

“絶望した後も彼の人生は続く”

一時期は華やかな世界に身を投じ、恋人と愛し合い、仲間と笑い合っていたリュシアン。全てを失い絶望する彼を映し、そこで余韻を残して暗転…というのが一般的な映画の切り取り方だ。しかしこの一文を最後に入れ込むことにより、リュシアンの過酷な運命はここからまだ続くことが確定される。人生の一部分を切り取って描く“映画”ではなく、これは彼の人生の物語なのだ。彼の人生の幕は、映画のようにドラマチックには閉じなかった。目を瞑れば、きっと明日が来るのだろう。

■まとめ

個人的に“グザヴィエ・ドランがめちゃくちゃ好き”という理由で映画館まで足を運んだ『幻滅』。正直胸糞の悪い後味は残るが、芸術とマスコミの関係性に対するテーマはとても興味深かった。

自分もつい、物事の良し悪しを他人に問い、意見に流される。しかし、自分の頭でよく考えないと、きっと思わぬところでつまづくことになるのだろう。


★どうでもいい話
…そして私はドランくん大好きオタクなので、映画パンフも無事購入できニッコニコである。

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