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小説『君たちはどう生きるか』|感想

夏休みということでデスク周りを掃除しました。もう使わない教科書がごっそり出てきたのですが、積み上げたまま放置してます。。
紙のものってなんだか捨て難い。
最近はめっきり本を読まなくなりましたが、やっぱり紙をめくる感覚や紙の匂いは大好きです。オンラインも便利ではあるけど、紙は無くなってほしくない。

ということで、書籍の売り上げに貢献しよう!と思い、まずジブリ最新作のタイトルの由来となった『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著/1937年)を買いました(『失われたものたちの本』も!感想はこちら)。
ここから先、ジブリの内容も絡めながら感想を書くので、まだ観ていない方はご注意ください!

これはジブリの感想↓



ジブリ版で、主人公・眞人(まひと)が『君たちはどう生きるか』を読んで涙する場面がありました。ここを境にして眞人の心境に変化があったのは明らかだったので、私も絶対読まなきゃと思っていました。

いやぁ、これ良い本ですね。
中学・高校時代の、思春期の頃の自分に読ませてあげたかったなぁ、としんみりしてしまいました。主人公・コペル君は思春期の私そのものだったし(なんなら今もそう)、叔父さんは私が知りたかった考え方を教えてくれたからです。

窓から外を眺め、ここから見える車ひとつひとつに人が乗っていて、窓ひとつひとつの中に暮らしがあって、みんな私がここから見ていることを知らずに動いているのだと気が付いた時の奇妙な気持ち。(一章「へんな経験-ものの見方について」)
立派な人であろうと思い、けれど立派になるにはどうすればよいのかと悩んだあの日。(二章「勇ましき友-真実の経験について」)
あれこれ考えた結果、大きな発見をした!と意気揚々としていたのに、実は学問上では常識だったこと。(三章「ニュートンの林檎と粉ミルク-人間の結びつきについて」)
恵まれた環境で育った自分は何をすればいいのか、と悩んだこと。(四章「貧しき友-人間であるからには」)
絶対的だと思っていた物事に、多面的な捉え方があると知った時の戸惑い。(五章「ナポレオンと四人の少年-偉大な人間とはどんな人か」)
悪いことをしてしまったと後悔し、謝りたいのに謝る勇気が出なかったあの日。(七章「石段の思い出-人間の悩みと、過ちと、偉大さについて」)

あの頃感じたり悩んだりしたこと。誰かに打ち明けるほどのものではなくて、でも自分ひとりでは持て余して、うやむやになってきた感情たち。いつの間にか心の底に沈んでしまったものたち。
それをひとつひとつ掬い上げられて、労わられたような気持ちになりました。


特に響いたのは七章「石段の思い出-人間の悩みと、過ちと、偉大さについて」です。
私自身、立派な人間であろうと思い努力してきましたが、それは孤独で難しいことでした。

例えば、中学・高校時代の掃除の時間。真面目に雑巾掛けをしているのは私くらいでした。だいたいのクラスメイトは足でちゃちゃっと済ませてしまうか、あるいはそもそも雑巾掛けをしようとしなかった。
私はというと、どうしてもザツにはできなくて、せめて私だけはしっかりやらなきゃ、と頑張っていました。
誰にやらされるでもなく自分の良心に従っていただけなので文句を言うなという感じですが、でも、おしゃべりしながら掃除をサボっているクラスメイトを見るとなんだか悲しかった。
雑巾掛けをすると、雑巾はずず黒くなるだけじゃなくて、落ちていた髪の毛がたくさん絡まってきます。これを取り除くのが大変だった。それにいくら石鹸で洗っても、ツンとした臭いが消えない。洗い場でひとり格闘しながら、悶々とすることがよくありました。
サボれたら楽なのにな。でもサボったら罪悪感に苛まれそうで、サボれないな。清く正しく美しい、立派な人でありたいな。でもひとりきりで正しくあろうとするのは辛いな。
どうしたらいいんだろうか。

そんなことを頻繁に考える人間でした。

あっけらかんとしたクラスメイトを見ると、他の人はこんなことで悩まないんだろうなぁと気持ちが沈みました。私は生真面目すぎるのかなぁと気に病んで、MBTI診断でINFJだったことに妙に納得したりして。

でも『君たちはどう生きるか』を読んで、救われたし、勇気をもらった気がします。
コペル君のお母さんだって、正しくて立派な人であろうとして、でもそれが難しいことであることを身をもって知っていた。時には立派ではないことをしてしまって、後悔をして、悩んでいた。それでも、そんな経験が糧になるのだと語りかけます。
コペル君と一緒になってお母さんの話を聞いているようで、じーんときました。

眞人が涙した部分も、ここなんじゃないかな。

母の死を受け入れられないこと、継母とそのお腹に宿る子を好ましく思えないこと、頭を自傷することで歪んだ承認欲求を発露させたこと。。
眞人は『君たちはどう生きるか』を読むことで、そんな自分の後ろ暗い部分に気が付かされ、そして自分が立派な人間に成長することが母の望みだったと感じ取ったのだと思います。
だからあれほどまで凛々しく真っ直ぐに、異世界へと突き進んだのでしょう。

いやぁ、ジブリ版への理解度が深まりました。


眞人に生きる希望を与えた『君たちはどう生きるか』。
私にとっても同じくらい大切で、読み継ぎたいものになりました。いつか子供が生まれたら贈りたい本です。

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