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小説『蜜蜂と遠雷』|感想

最近時間と心に余裕ができたためか、本をよく読むようになりました。
電車に揺られながら本を開くと、いつもより早く目的地に着く気がします。
読書っていいね!


何の話か全く知らないまま、帯の「文句なしの最高傑作!」を信用して購入したのが『蜜蜂と遠雷』でした。
直木賞と本屋大賞をダブル受賞した、恩田陸さんの作品。
世界中から精鋭が集うピアノコンクールを舞台に、音楽に悩み、音楽に救われ、音楽を愛する少年少女たちの群像劇を描いています。

初めは耳で聴くしかない音楽をどう文章で表現するのだろうかという興味半分、クラッシックに造詣が深いわけではないから理解できないかもしれないという不安半分だったのですが、個人的に読みづらさを感じたのは冒頭のパリでのオーディションまでで、その直後の亜夜の登場からはどんどん引き込まれました。

曲を知っていればより楽しめるのかもしれませんが、知識ゼロでも全く問題なかったです。
音が大地や宇宙などのあらゆる風景になぞらえて描写されるので、映像的に捉えることができて新感覚でした。(私のような凡人は音楽を聴いても特に何も映像的なイメージが湧かないので......)

音の表現が素晴らしいのは然ることながら、私が特に心を揺さぶられたのは登場人物たちの心情描写でした。
音楽の「天才」たちの頭の中が、マサルの言葉を借りるなら「ダダ漏れ」していて、まるで夜中に思いのままに書き殴った日記かのような荒削りな勢いがあり、とめどないようでいて物事の核心を突く鋭さがあり、とにかくすごかったです。。
特に、亜夜の感情の変化にはウルウルきました。
※以下ネタバレ含むのでご注意ください!


読んでいて一番感じたのは、亜夜に報われてほしいということでした。
塵は音楽と共に生きる天才天然少年なので心配ないし、マサルは世間が放っておかないので大丈夫。明石さんも「生活者」として音楽を続けるだろうから問題なし。
だけど亜夜だけが、音楽に向き合うべくして生まれたという運命を受け入れられないで燻っている。亜夜を救うのは音楽だけだろうに。
ピアノに執着がなく最初は諦念すら抱いていた亜夜が、コンクールを通して、塵やマサルや明石との出会いを通して、自分にとって音楽とは何かを考え直し、まっすぐな情熱と愛と、信仰めいたものを取り戻していく。。
この過程を見てウルウルこないわけがなかろう!!
優勝はしなかったけれども、亜夜は音楽への信念を取り戻したわけで、それは彼女にとって何よりも価値のあることだったと思う。
亜夜は報われた。というより自分でその境地に辿り着いた。
そこに至るまでの心情描写の巧みさ!!すごいよ〜恩田さん😭

ところで私はてっきり風間塵が優勝して新たな時代の幕開けを示唆して終わるのかなと思っていたのですが、マサルが優勝でしたね。なんとも現実味があって唸ってしまいました。
でも本当に思うのですが、順位はあくまで便宜上仕方なく付けられたもので、彼らの音楽に優劣はないのです。
しかもコンペティター同士が紛れもなく「友」であり、お互いに影響を与え合ってコンクールを彩ったわけで。
群像劇として美しすぎる!!
こんな素敵な本に出会えて良かったです😭


本って、ドラマや映画とは違う魅力がありますね。特にやはり心情描写の精緻さは文章に勝るものはないな感じました。
来年もたくさん本を読む予感がして今からワクワクしています。

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