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えみりあ/emilia
2024年6月11日 16:39
見覚えのある配色のマンションが通り沿いに見えてきた。マンションは13階建だが、それよりも高く見えるのは、周りが3階建程度の小ぶりなテナントビルばかりだからだろう。「わっ」マンションの敷地に入ろうとした真が突然声を上げた。歩道とマンションのスロープの継ぎ目のわずかな段差にベビーカーが引っかかって、前に進めずにいた。「昔から何度も来てるのに、こんなところに段差があるなんて初めて知ったよ」「
2024年6月9日 23:06
お墓参りをしてから1週間以上経った。真のお盆休みも世間のお盆休みもとっくに終わり、新しい1週間が始まった。山手の家の売買について、義人からの連絡を待っていたが一向に来ない。「西内さんもお盆休みとってるだろうから、気長に待とう」真にそう言われたものの、瑠璃は妙に気になって、落ち着きなく過ごしていた。瑠璃は近所にある産地直送の野菜や肉が売られている店で食材を調達して冷しゃぶを作り、真珠にはお
2024年6月5日 15:38
青い空の下、山肌の緑が輝いていた。交差点の角にあるカフェは冷房が効いていて、真夏の暑さから逃れるように客がひっきりなしに押し寄せていた。真が選んだ席は店の入り口に近い、窓から交差点が眺められる場所だった。瑠璃が真珠を抱っこして外の景色を見せていると、隣に座っていた真が入り口のドアに向かって片手を上げた。正面を向くと、紅をさした信子が「まこちゃん、今日はお仕事だったんじゃないの?」と、言いな
2024年6月4日 13:12
(信子さんが山手の家に戻らないのはなんでだろう?)この疑問に対する答えは『お金がないから』が正解だろうと思われた。金銭的な面で立ち行かなくなって、信子の名義になっていたマンションを義人が1000万円で買い取ったのは一昨年の話だ。名義が義人になっても信子が住み続け、マンションの管理費と修繕積立金の合計3万5千円は信子が払っていたと義人から聞いている。「姉さんが金銭的に厳しいらしい。母さんも最