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タイミング悪いし、いろいろ忘れすぎな僕『めぐり合わせのお弁当』

やあ、僕だよ。飽き性ちゃんだよ。
今日は妊婦検診があったんだ。僕の腹の子はエコーが通る度に空条承太郎(『ジョジョの奇妙な冒険』三部主人公)ばりのパンチを繰り出していて、反骨精神というかハングリーさを自分の子から学んだ気がしたよ。
あと帰宅する道すがら、なんと、妹が先んじて子どもを出産した!実に喜ばしく、感動的な午前中だった。
こんな幸せムードの中、選んだ映画がこちら。サムネイルとインドに釣られて選んだのだけれど、僕、間違えちゃったかも。
さて、今日も楽しんでくれると嬉しいな。

映画あらすじと感想

『めぐり合わせのお弁当』 リテーシュ・バトラ
来月定年を迎える、中年男サージャンのもとにダッバーワーラー(弁当配達人。詳細はリンク先wiki参照)は今日も弁当を届ける。三五年勤め上げた彼は引き継ぎ担当の新人に冷たい視線を送りながら、いつもの時間にいつもの弁当を食べる。おや、今日の弁当はやけに美味しい。
一方夫婦仲が上手くいっていない人妻のイラ。上階のおばさんに助言をもらいつつ、素晴らしい弁当をこさえてダッバーワーラーに託す。昼休みが終わると空の弁当箱が返ってきた。いつもより綺麗に完食している。
思わず夫に感想を求めるが、夫は目すら合わせずにいつもの気のない感想を言うだけ。しつこく感想を求めると苦し紛れにカリフラワーが美味しかったと夫は告げる。カリフラワー?そんなもの私入れてないんだけど…。
ダッバーワーラーが弁当の誤配をするのは六〇〇万個に一つ。加えて二つの弁当はよく似た見た目。この二つの偶然が重なって、出会わないはずの二人を引き合わせていく。
この設定とインドというフレーズが、コミカルな展開と独特なダンスと歌を期待させるがまったくの間違いである。そう、僕は間違えた。
終始静かなセリフ運びと現代インド人の様々な心の機微が、繊細で微妙な空気感を生む。インドなのにおしゃれ。おしゃれなのにインド。
このおしゃれ感にずっと浸っていたくなる映画と言えよう。「カンヌで大絶賛!」だそうなのでつまりそういう映画だったのだ。
僕は今日ありったけ幸せ満載の、脳死で観られる「ごちうさ」や「ゆるゆり」や「のんのんびより」のような作品を求めていた。決してそれは「渡辺淳一」や「よしもとばなな」、「川上弘美」では成しえない感覚のものである。
サムネイルがイラの遠くを見る横顔、原題をそのまま訳した『弁当箱』というタイトルにレタリングは細め明朝体に黒。これなら僕だって今日はクリックせずにお気に入りに入れただけだったのに。
とても素晴らしい映画には違いないが、選んだタイミングが最悪だった。美容院帰りにお気に入りのカフェでテイクアウトした美味しいコーヒー、それとお高いお菓子を有名インスタグラマー気分で食す時にもう一度観ようと思っている。

病院って苦手

仕事を辞めてから、僕の人生でかつてないほど病院に行っている。
ずっと治療を放置していた前歯がようようみっともない様相になってきたことと妊娠が重なった。先々月に至ってはほぼ週二のペースで通院していた。
何度も通っていたのだけれど、結局歯医者に妊娠していることを告げられずに治療を終えた。Google検索と育児書で何度も確認し、僕が受けている治療は妊娠に影響がないと自分に言い聞かせて通った。
何が苦手かってまず予約制度が苦手だ。予約した日付を忘れるし、予約する時も病院や治療によっては一か月以上先になることもある。
そんな先の日程がどうなるかなんて僕には分からない。一週間後だって分からないのに、一か月後の約束なんて持て余してしまう。
予約を取る時の、受付の人のはっきりとした物言いが僕をさらに追い立てる。僕は必死に涼しい大人の顔をして、その場をやり過ごす。やり過ごせそうになかったら「後日ご連絡します」と無理やり帰ることもある。
あと病院って暗黙のルールが多いように思う。月変わりで行ったら保険証を出して、その病院の定められたタイミングでスリッパに履き替えて、それぞれの病院で呼び名の違う診察室(番号なのかアルファベットなのかはたまた主治医の名札がかかった部屋か)に行き、診察を受ける。
診察を受けた後も会計の仕方が規模や場所柄によって違う。会計にかかる時間も薬の出され方も違う。
もちろん大抵の病院で案内はあるのだけれど、その案内は書式も大きさもまちまちで見落とすことが大いにあるし、何より僕は治療を受けるために一通り何をするべきか見通せないことにストレスを感じる。
こういった暗黙のルールにまごつかないためにかかりつけ医を作るんだなあ、などと見当違いの感想を持つ僕である。

妊婦検診は毎回検尿する

検尿のことをすっかり僕は忘れていた。
前回、病院で出産にいたるまでの説明が書かれた冊子を頂戴したのだが、その日に一読してすっかり頭から抜け落ちていた。妊婦検診の内容は最初の方のページにきちんと書かれている。
一番優先すべき事項は緊急性の高い直近のことだというのに。育児本なんて読んでいる場合ではなかった。
僕の家と病院は目と鼻の先で、明け方までゲームをして予約時間ギリギリまで寝ていた僕は起床した直後にトイレに行ってしまっていた。
慌てて備え付けの冷水を飲んだり、さらにジュースを購入したりしたのだが、一向に出る気配がない。
トイレの中でコップを構えながら、空いた手でスマホをいじる。無痛分娩を選択した妹が計画入院したのが昨日、本日か明日には生まれると家族内ラインで報告していた。
もしやすると生まれているかと思ったがそんな気配はなさそうだった。

「飽き性さん、いらっしゃいますかー?」
「あ、はーい。」
「よかったですー、具合悪いとか大丈夫ですかー?」
「あっ、はい。大丈夫です。」
「どうされましたー?」
「あっ、ええと。ちょっと難しくて。検尿が。」
「そうなんですね、おしっこ出なさそうですかー?」
「あ、そうですね…どうしたらいいですか?」
「先生の診察のあとでも大丈夫ですよー。」
「あっ、わかりました。」

ちなみに、発語冒頭に「あ」をつけるのは、相手の発言を咀嚼する時間と自分の返答を考える時間を稼いでいるわけなので、コミュ障じゃない方々はこういった人間に出会ったら優しく見守ってくれると幸いだ。

その後保健指導もあった

初めての腹部エコーはジェルが暖かかったことに驚いた(健康診断のやつは冷たかった)し、思ったより鮮明で人間だったわが子にも驚いた。
五本の指がびしっとそろっていて、画面にくっきりと映っていた。あまりに鮮明だったので大人の態度もすっかり忘れ、「すげぇ」と言ってしまうくらいだった。
それに気を良くしてくれたのか先生は熱心に脳の様子や骨の成長過程を説明してくれた。知識では目にしたことがあっても、実際の生き物を眼前に専門家から話を聞くのとでは全然違う。いつもよりエコー写真もたくさん頂戴し、非常に有意義な診察だった。
診察を終え、助産師さんから保健指導という名目の面談も受けた。前述した病院配布の冊子が必要だったようで、覚えているわけがなかった僕に助産師さんは優しく冊子を貸してくれた。
色々説明してくれたし、大人の態度を取り戻した僕も質問をしたりしたが、正直ほとんど覚えていない。助産師さん本当ごめん。なんか説明が全然面白くなくて(当たり前だが、面白くする必要がない内容だった)すぐ飽きちゃったのです。
でも彼女が自分の職務を全うしようと頑張っていることはすごく伝わったので、僕は素直に、日本の、この病院で産めるのは幸せだなと思ったのだ。

検尿も乗り越えた

面談が終わった後、なんかいけそうだったので再び検尿にチャレンジしたら上手くいった。本当によかった。
受付の人にも検尿のことで何度か確認させてしまった。受付の人本当ごめん。
色んなすったもんだがあった挙句、会計を待つ時間に妹が出産した。僕は思わず「すげぇ」と独り言ちた。隣のおばあちゃんが怪訝そうに視線を送ってきた。今日の大人の僕は調子が悪い。

「自転車は子宮に振動が来るからなるべく乗らないでほしいというのが正直なところ」と言い回しに細心の注意を払って言ってくれた先生の言葉を大いに無視して、不良妊婦は帰途につく。

実に幸せ。わが世の春。

人生こんなに幸せだったことは数えるほどしかない。
何を観ようか、読もうか、おやつは何にしようかと楽しいことばかりを考えて、僕はまた色んなことを忘れ始めていた。

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