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「キャプテン翼だけどサッカーじゃない」じゃなくて「キャプテン翼だからサッカー」なんだよ!!:キャプテン翼 RISE OF NEW CHAMPIONS

・そもそもどんなゲーム?

今回紹介する「キャプテン翼 RISE OF NEW CHAMPIONS」(以下RONC)はps4/switchで発売されたゲームです。
 世界を代表するサッカー漫画である「キャプテン翼」の、おそらく最も人気のある時期でありパブリックイメージとしてのキャプテン翼と言える「中学・ジュニアユース編」を下敷きにゲーム化したものです。
 キャプテン翼のゲーム化と言えばテクモによるコマンド選択を取り入れたゲームが名作として有名ですが、今回はバンナムによる開発で、ウイイレやFIFAと同じような視点のサッカーゲームになっています。圧倒的原作厨である自分はこのゲームのトレイラーを見て、その再現性の高さにいたく感銘し購入しました。

 プレイした感想を一言で言うと「1vs1の勝敗がよくわからないとか、ゲームプレイにイライラするところはあるものの、とにかくテンションが上がりまた原作の再現度もすばらしく楽しいゲーム」というところなのですが、どうも

・クソゲー
・バカゲー
・サッカーではないけどキャプテン翼ではある

などの評が出ています。またそもそも原作であるキャプテン翼への世評についても言いたいことがあり、この度書いてみることにしました。

・そもそもキャプテン翼の面白さとは?

 キャプテン翼って、わりと半笑いで語れることが多いと思うんですね。曰く、

・頭身がおかしい
・サッカーのルールを無視している
・ありえない必殺シュート

などなど。
 実際ここで言われていることは基本間違っていないと思います。たとえばスカイラブハリケーンなんかは仮にできたとしても明確なルール違反(サッカーは他人のジャンプを補助する行為が禁止されています。おそらくラグビーのラインアウトのように人を抱えて高さを出す行為の禁止なのでしょうが)ですし、ドリブルで吹っ飛んだりシュートがネット突き破ったりスタジアムの壁にひび入れたりするわけないですよね。
 だから今の、マキタスポーツさんがおっしゃるところの「一億総ツッコミ時代」においてネタ化されるのも、イナズマイレブンをもじって「超次元サッカー」とか言われるようにもなると思います。また、最近は必殺技に頼らないリアル路線のサッカー漫画も多く、それとの比較でもキャプテン翼のはちゃめちゃさが際立っているのだと思います。私も、そのようなリアル路線のサッカー漫画も好きですし、そういうのが流行っていることもいいと思います。高橋陽一先生の作品でも「誇り」あたりはそういう路線ですし、もしかしたら高橋先生の作品をまだ読んだことない方はこちらあたりから読むのもいいかもしれません。傑作ですし。
 ただ、そういう漫画を読んでいるときに訪れるエモーションはどちらかというと人間ドラマであったり、成長の喜びであったりすると思います。もちろんそれで全然かまわないのですが、例えばスタジアムやテレビ、あるいはスマホやPCのモニターで実際のサッカーを見ているときのあの高揚感、それはたとえば

メンバー表を見た時の期待と不安
選手入場の時の澄み切った空気と祝祭感が共存する独特の空間
キックオフ直前のドキドキ
ドリブルでディフェンダーを抜いた時
糸を引くように低く速いサイドチェンジのパスが通った時
シュートを相手ディフェンダーにブロックされた時
逆にこっちのディフェンダーがシュートブロックした時
フリーキックのボールをチームのエースが置く瞬間
そしてゴールの瞬間、今までたまったものが噴出するカタルシス

 そのようなサッカーが僕に与えてくれる感情とは、リアル志向のサッカー漫画を読んで得られるものとは違うものだなと思います。で、そのサッカーを見ているときの感覚を自分に呼び起こしてくれるのがキャプテン翼の面白さなのではないかと思っています。ドライブシュートがハーフウェイラインから相手のゴールを捉えるのと、本田圭佑選手やクリスティアーノ・ロナウド選手がものすごいフリーキックを叩き込んだ時の高まりが近いということです。
 例えば、短編集「キャプテン翼 DREAM FIELD」で翼くんたちが実際のシドニー五輪U-23代表のオーバーエイジとして共闘するという短編があるのですが、その中で僕が歴代で一番好きな日本人サッカー選手である中村俊輔選手(海外入れるとパブロ・アイマール選手かな?)がロングパスを出すシーンがあるんですけど、その姿は正直顔も、何ならパスのフォームもそこまで似ていないんですね。でも、その姿を見た瞬間「ああ、これは俊輔だ。このキャラからは間違いなく俊輔のあのパスが出ている」という確信を持たせてくれるような、サッカーが持つ「熱」がその描写に封じ込まれていると思っていて、それがキャプテン翼の魅力なのだと自分は考えています。そしてそのためにこそあの破天荒で常識を超えた描写は必要とされているのではないかと思います。

・キャプテン翼イズムをしっかりついだゲーム

 そして、「破天荒な描写だからこそ実際のサッカーで受けられるエモーションに近い感覚を得られる」というのはこの「RONC」にもしっかり受け継がれています。
 というかファールがないとか、選手がめちゃくちゃ吹っ飛んでいくとか、へたしたら原作以上にめちゃくちゃだったりもします。また、原作からの改変点として、「スピリッツゲージというスタミナがたまっていれば必殺シュートを多くのキーパーが止めることができる」という変更があります。森崎くんがタイガーショットをセーブすることが話題になったりしてますが、これによってゴールがなかなか入らないので、決まったときのカタルシスがすごくてそれこそ実際のサッカーで応援しているチームがゴールを決めた時に近い感覚を得られるなぁと思います。あとこれは本論とは関係ないんですけど、一応森崎くん黄金世代の三番手ゴールキーパーなので、本来これぐらい止められる方が正しい描写かと(笑)
 自分は同時にFIFAのキャリアモードもやっていてこれもゲームとして面白いのですが、やはり無条件でアガるのはRONCだなあと思わされます。余談ですが、RONC以外で似たような高揚感覚えたサッカーゲームは逆にものすごいチープな表現の「カルチョビット」だったりします。

・ストーリーにおける「キャプテン翼らしさ」の追求

 キャプテン翼らしさの追求は、もちろん追加ストーリーにおいても非常によく表現されています。一例として、今作のメインモードはパワプロのサクセスモードのようにオリジナル選手をデザインして全日本ジュニアユースに入って成長しながら戦うんですけど、決勝の相手が選べるんですね。それが原作のジュニアユース編の決勝準拠のドイツジュニアユース(原作当時は西ドイツジュニアユース、余談ですがドイツジュニアユースはゲームオリジナルキャラが旧東ドイツ出身の選手だったりします)、あるいは原作のジュニアユースでは参加さえしていなかったブラジルジュニアユース、アメリカジュニアユースとの試合になります。
 ブラジルジュニアユースのエースは「カルロス・バーラ」選手で、これはワールドユース編から登場する「カルロス・サンターナ」選手が改名する前の名前で、直接原作へ繋がるように設定されていますし、アメリカジュニアユースのエースである〇〇〇選手(公式サイトでまだ名前が出ていないので伏せます)は完全にオリジナル、そもそもキャプテン翼でアメリカサッカーが描かれること自体が珍しい(テクモ版であったかな)のですが、その設定(アメリカンスポーツの理論を持ち込んだ大天才)とロベルト本郷が彼を評する言葉、そして彼に足りないものを埋めるのは何なのか?そして彼の変化を見た彼を支える大人の反応は?そこまでが「うわー、キャプテン翼だぁ」って思いました。
 僕はスポーツ漫画が面白くなる条件として「相手側のドラマもしっかりと誠実に描かれている」という点があると思うのですが、それの極みともいえるのがキャプテン翼だと思っています。スポーツというは善と悪ではなく、相手にもこちらサイドと同じようなドラマと物語があるものなので、安易に相手をモブ化したり咬ませ犬化したり邪悪化するのは面白さをそぐのではないかと思っています。もしスポーツで明確な悪を描くならそれは勝負の外にある存在(協会とか、スポーツ産業とかですかね)になるべきではないかと思います。そこにかなり気を使っている(一見悪役に見えてもそこからドラマが進むごとに変わっていく展開が多い)のがキャプテン翼ではないかと思います。

・まあ色々言ったけど一言で言うと

メッシのドリブルが与えるインパクトをマンガやゲームで再現しようと思ったら抜かれた選手吹っ飛ぶぐらいの演出しないの無理じゃない!?

ってことです。そしてそれができているこのゲームはまさに「サッカーゲーム」なのではないかと思うので、よければその情熱を体感してくれればと思います。



 あ、でも、若林くんがペナルティーエリアの外からシュート決められすぎなのだけはちょっと…(笑)

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