「夜半に道連れ」お薦めレビュー:二人の女性が一人の男を埋める、隅から隅までぶっ刺さったノベルゲーム
今回紹介するのは二人の女性が出会ったその日に一人の男を埋めるノベルゲーム「夜半に道連れ(よわにみちづれ)」です!
サムネイルのオシャレさやその色合いに惹かれた方も多いのではないでしょうか。私もそんな感じ遊んだのですがとにかく隅から隅まであらゆる要素が最高すぎてぶっ刺さりました。本当にみんなにやってほしいんです!
正直辛い物語であるのですが、そこから漏れる輝きに「ときめき」と「巨大感情」を抱く作品です。
こんな人にお薦め!
作品概要
あらすじ
ゲーム内容
あさひと佐枝子という二人の女性の会話を読み続ける対話劇形式のノベルゲームです。エンディング分岐は非常にわかりやすいので迷うことはないでしょう。
紫とピンクを基調とした深夜という時間帯で進む物語を読み続けるうちに、なぜ男を埋めることになったのか、二人と男に何があったのか、そして二人はどんな境遇で、互いに対してどのような感情を抱いているのか、それがどう変化していくのかが描かれ、結末へと向かっていきます。
おすすめポイント①ぶっささりまくった最高すぎる色彩と雰囲気
今作を「絶対遊ぼう」と思ったきっかけがこのタイトル画面のサムネイルです。
タイトル画面を一目しただけでも伝わると思うのですが今作は雰囲気が最高で、それを味わうだけでも本当に楽しいです。
まず何より、この一枚絵に象徴される紫とピンクをベースとした色調と絵柄が本当に好きです。ポップでやわらかく、キラキラしていて、でも何か切なく、哀しい世界。明暗や濃淡がおぼろげで生命感が欠如していて、それゆえに美しく、深夜という時間帯が私たちを引きつける全てを体現しているかのようなデザインと、そこに浮かぶ対照的な女性二人の表情があまりにもよすぎます。
ゲームを起動するとこの一枚絵にLo-fiミュージックが調和してずっと見ていられるようなオープニングになっています。このlo-fiがゲーム全体に使われていて最高の雰囲気です。最近Lo-fiミュージックに夜の映像やアニメーションを合わせたような動画や作業用アプリが流行っていますが今作のタイトル画面を横目にしながら作業をするとかなり捗るのでぜひ皆さんもダウンロードして遊んだ後に試してほしいです。
タイトル画面と同じように統一された完璧な色彩設計で物語は繰り広げられ、見ているだけでも惚れ惚れします。そして、そこで語り合う二人の姿は、美しいけど閉塞的で、まるで世界はもうここしか残っていなくて外は全てはりぼてか書き分けであるかのようにさえ思える生命感の欠如を感じさせます。途中差し込まれる回想がフルカラーなのと対照的で、もうこの色彩設計だけで「いい………大好き……!!」となりました。登場人物の服や髪色の対照も計算されているのでしょう。
真夜中、特に真夜中に家の外に出るって、独特なよさがあると思うんですよね。
静かで、冷たくて、ちょっと怖くて、早く帰りたいけど、でも同時に帰りたくない。心が静かにさざめき不安と高揚が入り混じるような感覚もあります。何とも言えない「いい時間」だなって思います。
おやつや飲み物を買いに行ったコンビニの駐車場や近くの公園で無駄に長居しながらホットスナックを食べてしまうような「いい時間」、あるいは、車を停めて、友達と最初はたわいもない話をして、気づいたら今までしたこともなかった身の上話をしている、そんな「いい時間」。
「夜半に道連れ」は、その「いい時間」の雰囲気に溢れています。遊んでいる間も私自身が過ごしたそんな「いい時間」とその空気感がリフレインして独特の感慨を覚えていました。同時に、そこで行われている会話は「男を埋める」というエクストリームでスリリングな事態であることがコントラストを描いていて刺さります。
あと個人的に好きなのがフォントです。かなが小さく、漢字が大きいフォントなのが非常に特徴的なフォントです。文面にlo-fiミュージックのような流れと緊張感を共存させていて、柔らかくも緊迫感があるこの物語にとても合っていると感じます。
おすすめポイント②思わず続きが気になって仕方がない文章力の高さとストーリーテリング
「夜半に道連れ」はもちろん「文章」と「物語」も本当に最高です。実況で遊ばせていただきましたが何度も声が出て、悶絶し、最後には泣きそうになっていました。
まず、今作に限らずですが作者様の文章力がとにかく高いです。
今作はほぼ全ての文章があさひと佐枝子という二人の女性の会話及び内心の描写で描かれます。いわゆる「神視点」がない作品です。
対話劇にふさわしく口語的で日常的な表現がよく使われています。たとえば「はい」や「あはは」と言った感動詞、三点リーダーの使い方、また語彙を平易なものを中心にしているなどして、女性同士の会話として非常にしっくりくる自然さとカジュアルさがあります。
実況をしていて気づいたこととして、本作は本当に言葉のリズムがよいです。実際の会話に近い分抑揚をすごくつけやすく楽しかったです。黙読していてもそのリズム感を味わえるのではないでしょうか。
そのため非常に読みやすく、言葉や物語がするすると入っていくと同時に、「男を埋める」というおそらくほぼ全ての人が体験したことがない極端な状況に感情移入しやすかったです。
今作が増してすごいのは、そのように自然でカジュアルでありながら同時に「刺さる」言葉に溢れているということです。
私も文章を書く立場にあるのでわかるのですが、読みやすくするする入っていく文章は、ややもするとつるっと流れすぎて印象に残らないことになりかねません。私自身読みやすさを売りにしている分、そうならないようにするにはどうすればいいか悩むことも多いです。
しかし今作は自然で読みやすい表現でありながら、例えばさらっと二人の境遇についてかなり強烈な描写が自然な一言で入ってきたりして心を抉ります。まるで二人の肉声が聞こえてくるかのように感情がドンと乗った文章があるかと思えば、内容はものすごく深刻なのに逆に感情が入っていないかのようにフラットな言葉で語られたりしていて、そんな悲痛な事態を淡々と語る姿ことむしろ二人の人生の苦しみを物語っているように感じられました。明るいからこその闇、暗いからこその光を感じるような作品だったなと思います。
同時に、ここぞという時には修辞性の強い文学的な表現が差し込まれています。ただ、そのような場所でもあくまで女性の話し言葉としての自然さは保たれています。文体が大きく変わるとそこが切れ目になりかねないのですが、今作は切れ目にならないようすっとスムーズに表現が変わっています。全体に文章力の高さとその構成、バランスが本当にずば抜けています。私は文章とか作劇のうまさそれ自体に感動するタイプなので、あまりのうまさに感動しながら実況をしていたのを覚えています。
印象的なシーンの一つが、この物語があさひがコンビニで買ってきたものを佐枝子に渡すところから始まるところです。缶コーヒーやイチゴ牛乳、おにぎり・パン・ブリト―といかにもコンビニ的記号な食べ物と、それらの食べ物をめぐる、おそらく誰もが人生の中で何度もした何気ないやりとりが繰り広げられます。そのやりとりが二人の存在に自分たちと繋がるような実在感を与えてくれて、だからこそそのあと続く苦しい物語にスムーズに感情移入できる、改めて非常に重要で巧みな部分だったなと思います。
そして、そのように工夫が込められた文章から語られるストーリーも本当に素晴らしいです。
佐枝子とあさひの二人は会話を進める中で、互いの人生を語っていきます。
二人で埋めるその男とどう知り合ったのか
それからどんな関係になっていったのか
決定的なことが起きた瞬間、何を思っていたのか
自身はどんな欠落を抱えていたのか
互いをどう思い、その思いはどう変化しているのか
この先どうするのか
それらをそれぞれの言葉で話しそれを分け合っていきます。
特に印象的だったのは二人が互いの悲劇や判断を自嘲的に語りつつ相手のことを思いやる姿です。そのやりとりから互いの本質的な善性がすごく伝わって来て、「なんとか……なんとかこの二人は……」と心から思えてきます。
また、「女性間で発生する巨大感情の描写がある」という説明欄にある通り、話している間に互いの互いに対する思いが膨れ上がっていくのが言葉の端々や展開から伝わってきます。
今作は「死体を埋める」という行為によって二人が繋がっていくのが特徴です。強烈な経験や秘密の共有によって人と人との関係性が深く強く変化していくというのはフィクションでも現実でもよくあることです。その上で今作ではそれが前述したような、世界にまるで二人しかいないかのような閉塞した車中で、しかも最高の雰囲気で繰り広げられるのでよりその関係性の変化がエモく、切なく、哀しく感じます。その関係性や事情の中には女性ならではの苦しみや悲哀が反映されています。そこを分かり合い、分け合うからこそ生まれるシスターフッド的でも百合的でもある感情のやり取りが本当に尊く、だからこそ苦しく、グッときます。
そして、その善性と閉塞的な雰囲気から来る関係性の変化がそれぞれ違った方向に結実するのが各エンディングです。全てのエンディングが違う方向性でありながら衝撃的であるのですが、それでもその選択をする、してしまうことに「そうなっちゃうよね…」と納得してしまいます。ここはさすがに何も言えないのでぜひ見て欲しいです。あとエンディングのタイトルと一枚絵全部最高すぎます……。特にED3…!
エンディングにおける「救い」のバランスも完璧だと思っています。今作は「死体を埋める」という罪を犯した二人が主人公となっています。もちろんそこに至るまでの事情はあるのですがそれでも罪であることには変わりはありません。それを踏まえた上で、どれくらいの「救い」「赦し」を物語の中でするのかというのが「それぐらいだよね……!」って感じで非常によかったです。あまりに全面的に救うとそれはそれでなんか違う、ってなることもありますし、単純に罰するだけではカタルシスがないし二人のここまでの人生を見てしまうと、ここしかない「救い」と「突き放し」のバランスだと感じました。
またこれは個人的な物語論ですが、物語における二人の強烈な人間関係とはある種の「呪い」として二人の人生を決定的に変化させ、その「呪い」と「変化」こそがさまざまな情緒を生むと思っています。今作で描かれる巨大感情も「呪い」であり、その「呪い」がどう「変化」と「エモ」を生むのかが各エンディングごと、違う方向性ながら全部すばらしく、エンディングごとに毎度毎度感動と悶絶をしていました。
おすすめポイント③小さいシチュエーションの中で端から端まで心を揺さぶり続ける演出
今作を何度も読むたびに「なんでこんなに心をずっと揺さぶり続けられるんだろう」と感じていました。雰囲気やストーリーのよさは当然のこととして、何かそれだけでは済まない、とんでもないクソデカ感情が自分の中に生まれているのです。おそらく、それは細部にまでこだわった劇的だったりささやかだったりする演出によるもので、それらを受けているうちにどんどん感情がかき立てられるのでしょう。
読んでいておそらくだれもが惹きつけられると思うのが、会話の中で二人の表情が細やかに動くところです。以下の二枚ではあさひの眉毛の動き、佐枝子の口元と汗ぐらいで表情や感情を細やかに変化させていて、それを見ているだけでも楽しいし、二人の魅力も引き立っています。それによってこの二人に実在感を感じます。また、シーンによっては表情の変化で文章以上に物語を語っているところもあります。特に後半の表情は本当に見て欲しいです…。その表情を見られたことそれ自体に喜びを感じられるような、豊かで美しく、感情が動かす表情がいっぱい見られました。
また、車中の映像にも様々な演出があります。
皆さんにフレッシュに感動してもらいたいので記事では出さないようにしていますが二人の姿が複数の構図で描かれます。その構図、二人の距離感がすばらしくて、切り替わるたびに声が出たり息を飲んだのを覚えています。またその映像や構図が切り替わるトランジションがゆったり目なのも印象的で独特の余韻と情緒があります。また、構図が変わる際に曲が変わることもあり、その切り替わりが全て強烈に印象に残りました。曲が切り替わるとフェイズが変わって心が動くことってゲームに限らずあらゆるシーンでありますが、今作はそれが選曲、タイミング共に完璧で、ものすごく効果的でした。後半は曲が切り替わるたびに「あぁぁぁぁーーー」とか呻いていました。また、雨の音や車のドアの音など、細かい環境音も実在感と情緒を浮き上がらせてくれます。
このように細部まで本当に細やかに演出が張り巡らされています。ただ、演出はあくまで物語全体を引き立てるものですし、まずはそこを細部まで目を凝らさず、物語に集中して読まれるのがいいと思います。そうしていると自然と演出から生まれる「エモ」が沁み込んできて、心の中に巨大感情が生まれているでしょう。その上で、2周3周とする時に細かい演出を追っていくのがいいかなと思います。
あとがき
今回はレビューというより怪文書寄りになったところもあるかもしれませんが、それぐらいぶっ刺さった作品です。読み終わった後数日間は心のどこかで彼女たちのことを考えていました。このレビューを書くために何度も読みなおしましたたのですがその度に口を手で押さえながら目を潤ませていました。それぐらい強烈で心に残る作品です。皆様にもぜひこの物語に浸りきって、巨大感情を抱いていただければと思います。
おまけ
今作は実況をしています!ずっと悶絶し続けていますのでぜひみなさんもまずは自身で遊び終わってから「日向日影はどんな反応したんだろう?」と見ていただければと思います!
あと個人的な話ですけど、今作のことを考えると歌詞世界とかは全然違うんですがこの曲が浮かんできます…