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映画『デジモンアドベンチャー 02 THE BEGINNING』(2023)感想〜本作で改めて浮き彫りになった原作「02」の構造と本宮大輔という主人公の異質性〜

遅まきなのだが、映画『デジモンアドベンチャー 02 THE BEGINNING』(2023)を観賞していたので、感想・批評をば。

評価:D(凡作)100点満点中50点

見てきた感想を端的に述べるならば「デジモンアドベンチャーはいつ『新世紀エヴァンゲリオン』になったんだよ!?」としか言いようがない内容であった。
オリジナルキャラクターで出てたルイ君、中の人のことも含めて完全に「デジモン界に現れた碇シンジ君」でしかなく、そうでなければ何なのか?
しかも不思議なことに、02のパートナーデジモンは中の人が原作02と全く同じなのに、肝心要の本宮大輔たちの方が完全に若手の声優になっているのだ。
なぜこんなキャスティングの差配になっているのかも謎だった、こんな中途半端なことをするのだったら原作02と全く同じ声優で統一するか、パートナーデジモンも含めて完全新規の声優に刷新して欲しかった

今回私がこの映画を見るに至ったのは単純に原作02の本宮大輔とブイモンのコンビが今まで見てきた少年主人公の中でもトップクラスに好きだったからという全くの個人的嗜好に他ならない。
それ以外のキャラはぶっちゃけ余計という感じで、まあ強いて言えばその大輔の親友兼ライバルの一乗寺賢がいいくらいで、残りの4人は単なる足手まといの賑やかしでしかないのである。
デジモンシリーズで一通り見ているのはアニメだと『デジモンアドベンチャー』〜『デジモンフロンティア』の4作と漫画版『デジモンアドベンチャーVテイマー01』のみだ。
そしてその中で「作品」として高く評価しているのが『Vテイマー』とアニメの『テイマーズ』のみであり、主人公では漫画版のタイチ(notアニメ版)と02の大輔がトップクラスのお気に入りである。

本作を含めて「02」に関する評価は主人公の本宮大輔とブイモンをどう扱うか?という匙加減によって決まると思っており、本作を見る前に復習も兼ねて原作「02」を再見した。
そのため、ネットでやたらと酷評されている「tri.」シリーズや2020年に放送された初代のリメイク、また「アプリモンスターズ」「ラスエボ」なども全くの未見である。
なので純粋に本作を「デジモン02のスピンオフ」という一種の同窓会フィルムとして見に行ったので、作品としてのクオリティーなどは最初から期待していなかった。
そもそも私は原作の「02」からして微妙だと思っているし、何ならファンにはやたら名作扱いを受ける初代のアニメ版すら微妙だと思っている立場の人間だ。

そんな、「にわか以上ファン未満」な私の評価なので間違っても参考にはならないが、そんな人間が思う一作品としての本作はどう映ったのかを書いて行こう。


本作が浮き彫りにした原作「02」の構造の本質とは?

冒頭でいきなり「デジモンアドベンチャーはいつ『新世紀エヴァンゲリオン』になったんだよ!?」と書いたのだが、逆に言えばそれが原作「02」の構造の本質を浮き彫りにしてくれたともいえる。
というのも私がデジモンシリーズのアニメ版の中で唯一「02」のみを見返すのは単なる勧善懲悪ではない「悪人となってしまったテイマーとパートナーデジモンの救済」が描かれているからだ。
これは漫画版『Vテイマー01』とも通底している要素であり、本宮大輔と八神タイチに共通しているのは単なる「混沌となったデジタルワールドの救世主」のみならず「悪人の救世主」でもあるということである。
作品としてのクオリティーはお世辞にも褒められたものではないが、アニメ版「02」を奥底で嫌いになれないのは1年がかりで「本宮大輔がデジタルワールドと一乗寺賢の両方を救済する」のがテーマだからだ。

同時にそれはデジモンシリーズがどういう観点でポケモンとの差別化を図っていたのか?を受け手に知らしめる再確認にもなっており、デジモンは人間ドラマという点において「エヴァ」の残滓が強い作品なのである。
そもそも初代『デジモンアドベンチャー』(1999)自体が「ポケモン卒業生おいで」という、ポケモンに飽きた層に向けた作品だったわけなのだが、作り手が良くも悪くも子供向けに対して斜に構えたスタンスの人たちだった。
何せプロデューサーはかの『明日のナージャ』(2003)という問題作を作って爆死させた関弘美であり、他に作っているのが「ママレードボーイ」「おジャ魔女」「ハートキャッチプリキュア!」辺りである。
つまり元々少女漫画・アニメ畑の人が男児向けのものに手を出したのがアニメ版のデジモンシリーズだったわけであり、女流作家にありがちな「人間関係を必要以上にギスギスさせがち」という悪癖が見事に発揮された。

私がアニメの無印を根本的に好きになれなかったのもそこであり、やたらに家庭の問題やら人間関係のいざこざやらを盛り込む割には解決方法が雑だったりバトル物としてのパワーバランスが雑だったりしているのだ。
本作の評価を見た時に難点として「戦闘シーンが余りにも短過ぎて盛り上がらない」というのをやたらに挙げるファンがいたが、そもそもデジモンのアニメシリーズで見応えあるバトルなんかほとんどない
唯一褒められるのは劇場版の『僕らのウォーゲーム』のオメガモンくらいであり、『ドラゴンボール』をはじめとする少年ジャンプや勇者シリーズ、スーパー戦隊を見て育ってきた私からすれば、デジモンシリーズ全体の戦闘のクオリティーなんて下の下である。
確かにアーマー進化が使われなかったのは勿体無いと言えば勿体無いのだが、原作02のアーマー進化だって決して魅力的に描かれていたわけではないので本作で変に出さなかったのは逆に英断であろう。

話が逸れたので元に戻して、基本的にデジモンシリーズが好きではないというか相性が良くないと思う私ですら「02」を何だかんだ好きでいられるのは主人公・本宮大輔とブイモンコンビのヒーロー性にある。
彼らをどう扱うかによって「02」は良くもなり悪くもなるわけだが、その点で言えば本作は大輔とブイモンの扱いに関しては原作のいいところをきちんとピックアップしてくれたのではないだろうか。
ルイ君という名の碇シンジに迷わず手を差し伸べられるのは選ばれし子供の中でも間違いなく大輔だけであり、彼が主人公でなかったら02の世界はとっくに崩壊してしまっていたともいえる。
そこの最大限の長所をピックアップし描いてくれたというだけでも本作は最低限のラインには到達できていたわけだが、改めてこの映画で私が感じ取った本宮大輔という主人公がいかに異質かを感じ取った。

本宮大輔という主人公の異質性

これは原作のアニメ版「02」から一貫してそうだったのだが、本宮大輔という主人公はデジモンのアニメシリーズの中でも異色中の異色であり、正に「奇跡」の子なのだと驚かされる。
「エヴァ」的要素の強い「アンチポケモン」のスタンスで作られたデジモンシリーズの伝統というかジンクスの1つに「主人公デジモンの暗黒進化」があるのだが、Vテイマーの八神タイチと02の本宮大輔だけはそのジンクスから逃れていた
他の「セイバーズ」「クロスウォーズ」「アプリモンスターズ」は未見なのでわからないのだが、大輔は実は一度たりともパートナーであるブイモンを暗黒進化させたことがない。
これは単なる「話の都合」や「アニメ版の八神太一と同じことをさせられない」という制限ではなく、そもそも詰み寸前の02世界において本宮大輔とブイモンが暗黒進化なんてしてしまったら完全に詰んでしまうのだ。

原作の02は特に前半の大輔いじりが余りにも酷過ぎて、何故だか周囲の連中が過剰なまでに大輔をばかにして見下すという「いじり」の領域を通り越した「いじめ」にしか見えない描写が散見されていた。
しかも姉のジュンは単なるヤマトの追っかけをしているだけのミーハーなのだが、そんな中にとことんまで「いい奴」として描かれていた大輔の異質なまでのヒーロー性が後半になって輝き始める。
彼の底抜けなまでの純粋さはキメラモン戦でその片鱗を見せ始め、後半のジョグレス進化に伴ってメキメキと上昇していきベリアルヴァンデモン戦においてカンストした。
それを踏まえての本作は原作にあったいじられる三枚目の要素は残しつつもその人徳ぶりにより磨きがかかり、もはや聖人君子といって差し支えないレベルにまで昇華されている。

何せルイの両親の毒親ぶりを見て真っ当な怒りを剥き出しにしながらも、次の瞬間には冷静に思考を切り替えて「ルイを救うにはどうすればいいのか?」を本能レベルで考えて動いていた。
これを二十歳そこそこで出来てしまう彼の包容力といい判断力といい凄過ぎて、ただでさえ原作02でもチートに片足突っ込んだような彼の人格者ぶりがもはや仏・神のレベルといえるだろう。
昨今人気のYouTuberでいうならば、カジサックのようないじられキャラの奥底にHIKAKIN並の人徳を隠し持っているのが本宮大輔と彼の相棒であるブイモンなのだ。
余りにも光属性が強過ぎるというか、希望や光すらも通り越した「奇跡」の次元にいるのが彼であり、流石は選ばれし子供の中で唯一暗黒進化を経由せずしてロイヤルナイツの一体に物語前半の段階で進化させただけのことはある。

原作02でも本作でも本宮大輔とブイモンはデジタルワールドからしたら良くも悪くも「救世主」なのであり、デジタルワールドという「公」も一乗寺賢やルイ君という「私」も守れてしまう反則的な強さの持ち主だ。
まあ一番恐ろしいのはそんな大輔の人徳と一乗寺賢の切れ物ぶりを併せ持った勝率100%テイマーの漫画版八神タイチなのだが、そんな2人が奇跡的な共演を果たした神回は必見なので是非ご覧いただきたい。
とにかく、本作はそこの最も褒めるべき部分をしっかり拾ってくれた上で、いわゆるいじられ描写も決してくどくない範囲で自然にまとまっていたし、賢の葛藤も踏まえて02組の成長としてはよかったのではなかろうか。
まあ逆にいえば、大輔が余りにも人格者過ぎたが為に、原作02も本作も結局は「大輔と賢さえいればあとはほとんど要らない」ということがより裏付けされてしまうわけだが……。

他4人(特に天使(笑)コンビ)はただのノイズ

大輔とブイモンの人格者ぶりに親友兼ライバルの一乗寺賢とワームモンのヒーロー性やコンビネーションがいい感じにカンストしている一方で、他4人は私に言わせればただのノイズでしかなかった
まあそれでも無駄に先輩たちを出しゃばらせては偉そうな顔をさせていた原作に比べればだいぶマシにはなっているのだが(特に太一とヤマトはもはや癌細胞)、大輔と賢以外の4人は本当に魅力が薄い。
大輔とキャラがほぼ丸被りな上に「やる気のある無能」で実は原作の時点でのやらかしが余りにも酷かった井ノ上京は大輔と賢の仲良しぶりに嫉妬したり後ろでピーチクパーチク囀ったりしているだけのノイズである。
その京の舎弟にして真面目系クズ(は言い過ぎかもしれないが、ほとんど置物)な火田伊織は原作以上によりその空気っぷりに磨きがかかっており、本作では完全なジョグレスの合体パーツでしかない。

そしてなんといっても目障りだったのは癌細胞の太一とヤマトの下位互換にして天使(笑)の高石タケルと八神ヒカリであり、彼らはもうもはや私の中で「目に映るだけで毒」という次元にまでなっている。
いや別に本作で特に何か足を引っ張ることをしているわけではないが、かといって劇中で大輔たちの大きな助力になることをしていたわけでもないので居てもいなくても大して変わらない
そもそもこの2人はそれぞれ「希望」「光」なんてご大層な属性の紋章が与えられている割には、原作02のキャラ付けがそれとは真逆の絶望と闇みたいな奴でしかないのが私の癪に触った。
タケルはデジモンカイザー相手にパートナーではなく本人が暗黒進化していたし、ヒカリに至ってはブラコンを拗らせた上に劇中で何度も空気の読めないネガティブな言行を繰り返すメンヘラ系クソビッチである。

原作02の前半がなぜあんなにも修羅場っていたのかというと、大輔以外がほぼメンタルや人間性に難を抱えた問題児しか居ないからであり、YouTuberに例えるなら解散した禁断ボーイズの中にHIKAKINが紛れ込むようなものだ。
要するに過激派のVAZ勢の中にクリーンなUUUM勢が混ざるという「混ぜるな危険」の闇鍋状態が原作02の前半だったわけで、とんでもないブラック企業で働かされていたのが大輔とブイモンというわけである。
むしろよくもまああそこまで劣悪な環境を後半〜本作に至ってひっくり返したなと驚いたのだが、頼むからもう02は大輔と賢だけ出して他メンバーは出さないで欲しいと思うのは私だけだろうか?
海外を含む二次創作物ではやたらとそんな大輔に他の4人の誰かあるいは複数のヒロインをあてがうハーレムものまで作られているのを見るのだが、余りの気持ち悪さに「頼むから公式はそんな野暮なことするな」と思ってしまう。

そういう意味では本作は決してそのような地雷を踏むことはなかったのでひとまず安心したわけだが、それでも根本的な「大輔と賢だけいれば十分、後はただのノイズ」という根本的な欠点は改善に至らなかった。
まあそれを言ってしまえばアニメ版の初代の時点で8人とそのパートナーたちで合計16人もごちゃごちゃと出していたことから正さなければならないという話ではあるが、とにかく大輔と賢以外は邪魔である。
スーパー戦隊シリーズでさえまず5人のキャラクターの掘り下げで毎年苦労しているというのに、その集団ヒーローものの専門家ではないデジモンシリーズが戦隊シリーズ以上の人数を出して成功するわけがない。
そう考えるとアニメ版の『テイマーズ』でキャラクターを3人3デジモンに絞ったのは結果的に良かったと思うし、だからデジモンシリーズは何年経ってもポケモンに勝てるわけがないのだと納得する次第である。

進化バンクと音楽は原作のリスペクトを踏まえていて良し

さて、最後にデジモンシリーズのお約束といえば「進化バンク」があるわけだが、本作に関していえば少なくとも主人公コンビの進化バンクに関していえば文句のつけようがないクオリティーだった。
まあそもそも原作のパイルドラモンとインペリアルドラモンのバンク自体がデザインも含めて神がかりの格好良さなので最高なのは当たり前なのだが、それをここまで解像度を高めてきたことが素晴らしい。
しかも主題歌もかの「赤いターゲット」だったし、進化バンクのBGMも原作を踏襲していたのも素晴らしかった、これに関しては『ドラゴンボール超』でロストテクノロジーになってしまった要素だったのだ。
戦闘シーンは確かに尺不足もあって盛り上がりには欠けていたが、それでも進化バンクがかっこいいかどうかが担保されていればそれでまずは十分であろう。

どうにも昨今は作り手が「時代の変化に伴う技術の進化」の意味合いを履き違えていることが多く、変に目新しさを追求した結果原作の良さが掻き消えてしまっていることが少なくない。
『ドラゴンボール超』なんて正にそれであり、『ブロリー』『スーパーヒーロー』のどちらも原作に負けず劣らず高いクオリティーだったが、年々音楽は劣化してしまっている
まあそもそも『ドラゴンボールZ』の菊池俊輔や影山ヒロノブが素晴らし過ぎたというのもあるのだが、音楽が微妙だとそれだけでも大きく作品のクオリティーに影響を与えてしまう。
本作ではそういう「音楽の劣化」はなく、原作のリスペクトを踏まえた上で過剰にいじり過ぎず昔の進化バンクを現代に合わせて進化させてきたので絶妙な塩梅である。

デジモンのアニメシリーズの褒められるべき点としてはやはり音楽・劇伴のクオリティーが高いということが挙げられ、「Butterfly」「Brave Heart」をはじめとした音楽は素晴らしい。
作品のクオリティーが低くても音楽がいいとそれだけでも評価が高まるというのはあって、本作が駄作にならなかった要因の1つに進化バンクと音楽の良さが間違いなくある。
その上で大輔とブイモンの長所がしっかりと描かれていたので総合評価はD(凡作)の領域に留まったわけであり、逆にいえばそこがダメだったら完全なF(駄作)になっていただろう。

改めて本作を見直して「02」の魅力の半分以上が大輔とブイモンの圧倒的なヒーロー性にあったのだという、それ自体ごく当たり前だがとても大事な事実を再確認させてもらった。
それだけでも本作を観に行って良かったといえるだろう。

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