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ステーキを折りたたんで食べると最高ですよね!でも、窒息する場合があります。

今から10年ほど前に勤務していた高校の先生たちとは、昼食や夕食をよく食べに行った。特にラーメンとか肉が好きで、勝手に「ラーメン部」、「肉部」なんていう名前をつけて、わいわい楽しんでした。

「ラーメン部」と「肉部」の部員はほとんど同じ。20代~40代の男女10名くらいで構成されている。ラーメンを食べに行くときは「ラーメン部」の活動、肉を食べに行くときは「肉部」の活動といっているだけ。私は「肉部」の部長という立場だった。

その「肉部」の聖地として崇めていたのが、とあるステーキ店。3000円ちょっとで90分間、ステーキの食べ放題をやっているのだ。焼肉食べ放題は結構あるけど、当時、我々の地元ではステーキ食べ放題なんてなかった。ステーキって特別なことがある日にしか食べられない料理。それが食べ放題なわけだから、こんなにワクワクすることはない。

「肉部」にとっての聖地だから失礼は許されない。行くからにはコンディションを整える必要がある。その場のノリで「今日行こうか!」なんてことはなく、1週間くらい前には行く日を設定した。

3、4日くらい前になると、意識的に肉の摂取を控える。体に肉を欲しさせるために。当日も「いっぱい食べるぞ!」って言って、朝から食事を抜いてしまうのもダメ。適度に胃は動かしておかなくてはならない。

勤務校から聖地までは40分弱。18時くらいに仕事を切り上げて、各々向かう。聖地の駐車場で合流し、みんな揃って入店する。先着者が先に店舗に入るなんてことはしない。駐車場で無言のうちに聖地での戦いのために結束を固めるのだ。

席に着き、普通ならメニューを見るが、そんなものは一切見ない。注文は一択。水をもってきた聖地の管理人にすぐさま「全員、食べ放題で」と伝える。

注文が終わると、いよいよ戦いがはじまるとい緊張感につつまれる。

最初にサラダとスープが届く。まずはそれを食して胃の動きの最終確認をする。

サラダとスープを食べ終わってほどなく、ステーキとライスが届く。ステーキは1枚300グラムくらい。どこの部位かはわからないが、このステーキ店は、高級な肉まで扱っているステーキ店なので、そんなに悪い肉は使ってなさそう。付け合わせは、ニンジンのグラッセ、ポテト、インゲン。いたってオーソドックスだ。

システムとしては、食べ終わりそうになった段階でお替りを頼むことができる。その際、付け合わせについては、自由に選ぶことができる。「ニンジンとインゲン」「インゲンのみ」などで、「付け合わせなし」も可能。ライスもお替り自由である。

ステーキが届くと、部員全員が一斉に戦いはじめる。といはいうものの、「肉部」全員が大食いというわけではないので、普通のディナーのように行儀よく食べる部員もいる。普通に考えたらステーキ300グラムって1枚食べれば十分な量だったりもする。ただ、せっかくの食べ放題なので、みんな1回はステーキのお替りをしようとはする。

私はいつもライスは最初に出てきたものだけ。とにかく肉を食べたいし、そのために3日前から肉の摂取を控えているので、ご飯なんか食べてお腹いっぱいにしてはもったいない。ステーキお替りの際の付け合わせも基本的には何もつけない。とにかく純粋に肉を食うのだ。

先に書いたように、私にとってステーキは、特別な日にしか食べられない料理。だから、ステーキを食べるときは、一口サイズに小さくカットしてよく味わう。1枚のステーキがだんだん小さくなってくると、何とも言えない寂しさを覚えた。

でも、今回は違う。食べ終わっても次の肉が来るのだ。食べ放題は、時間をかけて食べていたら、お腹いっぱいになってしまう。スピードが勝負だ。なので、1枚の肉をだいたい4口で食べる。

ステーキを4等分し、切った肉の真ん中にナイフを当て、端からフォークを使って二つ折りにする。そして、二つ折りにした肉の上からフォークを刺して口にほおばる。

「あー、なんて幸せなんだろう・・・口の中が肉で満たされている。」

そんなことを感じながら、肉を噛みしめる。二つ折りにすると、ちょうど折れ目になっている部分がいい厚みになって、噛み応えもあり「肉を食ってるんだー!!」という気持ちを高めてくれる

この感動をみんなに伝えたい。その衝動を止めることができず、

「ステーキって、折りたたんで食べるといいですよね!特にこの部分(折りたたんだ肉の折り目を指しながら)の噛み応えが何とも言えず最高!」

と他の部員に語ったことがある。

「え・・・?ごめん、ちょっと何言ってるか分からない」

サンドウィッチマン顔負けの反応をされてしまった。まあ、いい。こういう食べ放題では、自分なりの食べ方を見つければ、それでいいんだよ。賛同を得られなくても、私は肉を折りたたんで食べることにステーキの神髄を見たのだから。

しかし一度、その折りたたみのせいで死にそうになったこともある。いつもの調子で食べていたのだが、予想外に大きい塊を口に入れてしまった。

「大きすぎて、噛めない・・・」

どんなに口を動かそうとして満足に噛むことができなかった。で、吐き出すわけにもいかなし、その塊を強引に飲み込もうとした。が・・・・、

「やべ、飲み込めない・・・」

のどに肉が詰まってしまった。どんなに飲みこもうとしても肉が下に降りていかない。のどが痛いし、満足に呼吸も出来なくなってくるし、一人でパニックになった。

肉の折りたたみの魅力をドヤ顔で語った手前、肉がのどに詰まったなんて、恥ずかしくて言えない。周りの部員に助けを求めることも出来ず、ばれないように一人でもがき苦しんでいた。

「県立高校教諭、ステーキをのどに詰まらせ窒息死」

そんなことでニュースになるのはごめんだ。水を使って渾身の力で飲みこむ。火事場の馬鹿力というやつであろうか、肉が下に降り、何とか危機的状況を脱することができた。時間がたった今でも、食道を肉の塊が落ちていく感覚をリアルに思い出すことができる。食道を押し広げながら肉が胃に向かっていく感覚。

この聖地には、1か月~2か月に1回くらいのペースで行った。大人数でいつも行くものだから、だんだん聖地の管理人にも顔を覚えられてきたのだろうか。回数を重ねるごとに、最初に出てくるステーキのサイズが大きくなってくる。先に300グラムくらいと書いたが、どうみても400グラム以上はあるよねっていうステーキが運ばれてくるようになる。

聖地の管理人も、大人数でお替りを頼まれたのでは大変だから、その回数を減らすように最初から大きめの肉を出しておけということなのだろうか。

おい、ちょっと待ってくれ、ステーキ食べ放題は、お替りを何回出来るかということにも醍醐味があるんだよ。だからといって「肉が大きいんですけど」なんて文句は言えない。本来であれば、肉が大きいのは嬉しいことなのだから。何よりも「肉部」の鉄則として、聖地に限らずお店のルールには絶対に従わなくてはならない。

1枚が300グラム位のときには最高で7枚食べた。400グラムくらいのときには5枚しか食べられなかった。量として変わらないのだが、お替りの回数が2回も減ってしまった。

それからしばらくして、残念なことに、そのステーキ店は食べ放題をやめてしまった。「もしかして我々のせいか?」なんて、今考えると驕り高ぶったことが「肉部」の間ではささやかれたが、ホームページには「仕入れ値が高くなったため」って書いてあった。

こうして「肉部」は聖地を失った。

今でも車でその聖地だった場所(現在も営業してる)の前を通るたびに、折りたたむことにステーキの神髄を見つけことを懐かしく感じ、何より窒息死しなくてよかったって思う。

現在、毎日ステーキ食べ放題をやっている店が地元には見当たらない。まあ、あったとしても、あれから年齢を重ねてるし、以前のようには食べられないだろう。

聖地を失ってから、ステーキを折りたたんでいない。

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