「エモい」の構造を紐解く
2018年流行語になった「エモい」に関して、「あ〜今はそういう言葉が流行ってるのね」くらいにしか思っていなかったが、考えれば考えるほど、実は極めて日本的で今の時代を捉えている事がわかって驚いた。
まずそもそも「エモい」とは。
英語の「emotional」を由来とした、「感情が動かされた状態」「感情が高まって強く訴えかける心の動き」などを意味する日本のスラング(俗語)及び若者言葉である。 by wikipedia
若者が生み出した俗語だからそもそも意味は完全に固まっていないとは思うが、その他にも郷愁的、ノスタルジック、哀愁がある、寂しい、懐かしい、しみじみ、情緒がある。。。
とにかくさまざまな感情、なんとも言えない感情を一語で表現できるというなんとも便利な言葉のようだ。確かに昔から独自の言葉を発展させて感情豊かな独特の表現を生み出してきた日本人にとって、いくつもの意味を一語で表現できてしまうこの言葉は悪魔的で中毒性があり、危険かもしれない。
ただ、単に若者が適当に作り出した言葉なのか。そうではないと思った。
歴史から見る
職業柄日本人的思考や美意識、特性など考える機会が多いが、日本人は海外の文化を取り入れ吸収し、独自の解釈を重ねて独自の文化を作り上げるのが得意だ。フランス人社会人類学者で構造主義の祖とも言われるクロード・レヴィ・ストロースの著書【月の裏側】でも書かれている通り。
日本人は文化を真似するが、混ぜない。極めて独自性のある新たな文化を生み出す。
「エモい」もまさにそうであろう。
上記に書いた中で例えば寂しいなんて感情は本来のemotionalにはないはずだ。その観点でいくと、何もエモいだけが今に始まった言葉ではない。
そのヒントが江戸時代に流行った「粋(いき)」にある。
【粋(いき)】の意味
哲学者九頭周造が書いた【「いき」の構造】で解説されている。
「イキだねえ。あの旦那」のイキ。
これは外国語に翻訳不可能であるということ、そして著書の中では意気-野暮、甘味-渋み、上品-下品、地味-派手で構成される直六面体の中に存在するというなんとも言い表せない 表現であるという特性を上げている。
日本文化が急激に発展した江戸の芸術界隈ではみんなこぞって「イキだね〜」と呟いていたのが想像できる。
※ここは日本の美に関わる深い話になるのでまた機会があれば。
時代は違えど、文化的背景からエモいが生まれたのも納得できた。
時代背景から
そしてもう一つ注目すべきが若者の写真トレンドである。
https://bae.dentsutec.co.jp/articles/instagram-03/
この記事も読んで驚いた。
存在としての映え【盛り】から、意味としての映え【エモい】に写っているという。
インスタ映え=非日常、不自然、憧れ(未来)であるのに対し
エモい=日常、自然、振り返る(過去) だという。
目に見える華やかさから、目に見えない物への価値に数年で気づいてしまった。
目に見えるものしか信じない、全てを言語化する西洋に対し、目に見えないものに根源の秘密を探し、体験、口伝で自ら感じさせる東洋(日本)という社会構文化構造をまさに表現されている。
さらに、資本主義経済を掲げ突き進んできた結果全てが物質的経済的豊かさを手に入れた世界、日本の終焉の先にある、人としての豊かさ、人間であるべき意味を模索するミレニアル世代、Z世代ならではの、我々が気づき得ない潜在的な意識がすでに存在しているように思われる。
ただの流行語だと言われればそれでおしまいだが、こうやって長い文脈のなかで紐解くと、極めて日本的で時代を捉えた言葉だった。
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