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氷堂出雲傑作集 ショートショートnote杯

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2021年10月の記事一覧

穴の中のパーティー(410文字)ショートショートnote杯

穴の中のパーティー(410文字)ショートショートnote杯

海に潜った。深く深く。岩場に横穴があった。まだ、酸素は十分にある。
僕は穴の中へと入っていった。
奥へ奥へ。
突然明るく広くなった。音楽が聞こえてくる。
大きな魚や小さな魚、タコやクラゲ、カニやエビ、海の中の色々な生き物がダンスを踊っている。ダンスパーティーだ。
「あら、そんなの外して。息もできるし飲食もできるのよ」
和服姿の綺麗な女性が言った。
「あなたは?」
「私は、おとひめ」
周りを見渡すと

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穴の中の貯金箱(410文字)ショートショートnote杯

穴の中の貯金箱(410文字)ショートショートnote杯

健太が小学校から帰る途中、道端の大きなイチョウの木の幹に穴があるのを見つけた。覗いてみると貯金箱が見えた。

手を伸ばし、貯金箱を取ろうとした。なんとか指先が貯金箱に触れた瞬間、健太はその箱に吸い込まれた。

「よし、貯人箱に人が入った」

その木の枝に座っていた天狗がそう言った。天狗は貯人箱を手に取ると山の方へと飛んでいった。
「神隠し」はこうやって行われていた。

山の自宅に着いた天狗は、箱か

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穴の中の鬼(410文字)ショートショートnote杯

穴の中の鬼(410文字)ショートショートnote杯

失敗した。よそ見をして歩いていたら、穴に落ちてしまった。深い穴で、登ることはできない。スマホは充電切れ。そして目の前に先客の鬼。
「出られませんね、鬼さん」
「ああ、まあ、とりあえず俺は食料が手に入ったから安心しているが」
「食料って、私ですか」
「他に何がある?」
「ですよね」
こういう状態だ。

「鬼さんが棍棒を持って手をあげているところを僕が這い上がって、先に出て、鬼さんを助けるというのはど

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違法の告白(410文字)ショートショートnote杯

違法の告白(410文字)ショートショートnote杯

少子高齢化が進む中、離婚率は上昇し、また、生涯結婚しない人も多くなった。政府は、巨大コンピュータ「縁結び」を開発した。

縁結びが、ベストな男女の組み合わせを弾き出し、選ばれた男女は、結婚する義務があった。

縁結びの相性診断は素晴らしく、離婚率はゼロになり、自由恋愛は禁止された。
そう、告白は重罪になった。

淳は、幼馴染の楓と子供の頃に結婚の約束をした。楓は、懐かしい思い出としか思っていなかっ

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誰も知らない履歴書(桃太郎の履歴書ですね。自作「朝の鬼」の続編410文字)ショートショートnote杯

誰も知らない履歴書(桃太郎の履歴書ですね。自作「朝の鬼」の続編410文字)ショートショートnote杯

鬼ヶ島から一艘の船が見えた。
「おい、見てみろよ。俺たちの要塞にたった一人で近づいてくるバカがいる。かわいそうだが捻り潰してやろう。ペットの犬と猿と雉と一緒に。門を開けろ!お前ら手を出すなよ。俺一人で十分だ」

鬼ヶ島の鬼城の門が開け放たれ、屈強な鬼が仁王立ち。

上陸した子供は刀を持ち門の前で待ち構える鬼に向かって一直線。

待ち構えていた鬼は、その姿を見て驚いた。鬼が誰から教えられるわけでもな

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朝の鬼(407文字)ショートショートnote杯

朝の鬼(407文字)ショートショートnote杯

残念なことがありました。
詳細は最後に
ーーー!!

ある朝の鬼ヶ島。
鬼たちは、生まれて3か月の赤ん坊を取り囲み、話をしていた。

「そろそろ、本当に結論を出さないと」
「そうじゃのう。この子の幸せを第一に考えないといけないからのう」

鬼たちの目の前には、ツノのない鬼の赤ん坊が寝ていた。鬼は生まれながらに頭にツノがあるのが当たり前だった。

「人間に拾ってもらって人間として育ててもらうのはどう

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逆転のおと(409文字)ショートショートnote杯

逆転のおと(409文字)ショートショートnote杯

我が家の家宝。
カスタネットのような形のもの。
これで音を鳴らすと劣勢を逆転できるという魔法のようなアイテム。

先祖が、源義経から盗んだ。

ひどいことをしやがる。その怨念で義経が死んだ西暦1189年から832年間音が出ない。

アイテムを「闇に」葬るということだろう。
これさえあれば、頼朝に勝てただろうに。

いよいよ今年2021年、音が復活する年。

俺は、マッチョでゴツい顔をした柔道選手。

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違法の冷蔵庫(409文字)ショートショートnote杯

違法の冷蔵庫(409文字)ショートショートnote杯

冷蔵庫は、どんどん改良され進化した。

そして、ついにできた。魔法の冷凍冷蔵庫。

皆、買い物に行く時間がないので大量に冷蔵庫に買い溜めしたい。なのに、いつもいっぱいで困る。
もう一台といっても置き場所がない。

魔法の冷蔵庫とは、圧縮復元機能のついた冷凍冷蔵庫だ。

冷蔵庫に物を入れたければ、冷蔵か冷凍かと名前を入力する。

冷蔵庫についているヘアドライヤーのようなものを向けると一瞬のうちに冷蔵

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助手席ののおと(391文字)ショートショートnote杯

助手席ののおと(391文字)ショートショートnote杯

助手席には、僕の未来が浮き出るのおとがある。お爺ちゃんの遺品の中にあった魔法のようなノート。

表紙に自分の名前を書き込むと、毎年元旦にその年、自分に起きる出来事が日記のように浮き出るのだ。

ただし、わずか一日だけ表示され次の日には白紙になる。

僕は車で急ぐ。彼女のアパートに。だって、書いてあったんだ。1月2日、彼女から恋人という関係はやめようのメッセージがスマホに届いたって。

もう間に合わ

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