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目標パターンを決めて話そう:バランス良く話そうとした場合

おたまじゃくし研究所では、ハーモニーのあるコミュニケーションを実現するために、人間同士の話し合いデータを研究しています! note では、話し合いの研究成果や分析方法を公開しています。なお、話し合いの計測には、分析機能付きのWeb会議システム Hylable を使っています。

※ 普段、研究論文ばかり書いているので気を抜くと文章が堅くなりますが、頑張って柔らかくしています!
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今回は目標パターンを決めた話し合いの分析の第2弾「みんながバランス良く話す」の結果の分析をしていきます。

第1弾「主役を決めた場合」の分析記事はこちらから。

実験テーマ:みんな平等に話そうぜ!

この記事でとりあげるのは研究員全員がバランス良く話すことを意識しながら、研究員6人が約5分間話し合ったデータです。この話し合いは前回の主役を決めた話し合いを行った直後に収録したものです。

話し合い全体を通じた各研究員の総発話量を棒グラフで表してみましょう。バランスよく話すことを目標としていましたが、角研究員(黄緑色)と井上研究員(Joe:赤色)が多め、長尾研究員(青色)と仲山研究員(紫色)が少なめと、かなりばらつきのある発話量になってしまったことがわかります。

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失敗したのは、体力の限界?プロの技?

長尾研究員の発話量が少なくなってしまったのは、その直前に収録した「主役を決めた話し合い」のときに主役を演じ、5分間ずっと話し続けていたため、少し疲れが出てしまっていたのかもしれません。

ちなみに、カエルの世界でも「しばらく鳴き続けると疲れが溜まり、鳴く回数を減らす」ことが知られています[1]。

参考文献

[1] I. Aihara, D. Kominami, Y. Hirano and M. Murata, "Mathematical modelling and application of frog choruses as an autonomous distributed communication system", Royal Society Open Science 6(1), 181117, 2019-01.

また一般的に、良いファシリテーターは、たくさん話さずとも効率よくファシリテートすると言われています。研究員たちは普段からファシリテーターとして活躍されているので、コミュニケーションのプロが集まる場では、発話量が平等であることよりももっと深いところにファシリテーションのキーとなるまだ知られていないパターンがあるのかもしれませんね。


あきらめないで、細かく区切って見てみよう

これで分析を終わらせるわけにはいきません。もう少し細かく見ていきましょう。今度は各時間での各研究員の発話量の積み上げグラフを調べます。

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このグラフを見ると大きく4つのフェーズに分けられそうです。

フェーズ1:各研究員の発話量がだいたいまんべんなくある区間
フェーズ2:角研究員(黄緑色)が多めに話している区間
フェーズ3:井上研究員(Joe:赤色)が多めに話している区間
フェーズ4:各研究員の発話量が一気に上がった区間

ここからは各フェーズごとに何があったのかを振り返っていきましょう。

フェーズ1:柳楽研究員のリアクション作戦

フェーズ1での総発話量を表す棒グラフを見てみます。長尾・仲山の両研究員以外はだいたい均等に発話しています。この部分を聞き返して内容を振り返ると、この部分では話題が流動的に変化するいわゆる「フリートーク」が行われている区間でした。そのため、多くの研究員が話に参加しやすい状況であったと言えます。

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フェーズ1の最後では、こんな会話がありました。
仲山研究員:「(バランスを取るために)柳楽さんが頑張ったほうがいい」水本所長:「(柳楽は)笑い声とかのリアクションをまあまあ大きくしてる気がする」

私(柳楽:オレンジ色)は会話の主導権を握らなかった分、相槌や笑い声を多めに挟んでいくことで発話量を稼ごうと考えていました。結果的に仲山研究員の直感に反してある程度の発話量が記録されたため、この戦略も一定の効果があったと言えます。

フェーズ2:角研究員のいい話 リアクションの重要性

フェーズ2の総発話量のグラフはどうなっているでしょうか。角研究員の発話量が圧倒的に多いことがわかります。

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フェーズ2ではフェーズ1での笑い声の話を踏まえて、角研究員が「リモートでつなぐときはミュートしがちなので、リアル出社したときに聞こえていた周りの笑い声が聞こえなくなって寂しい」という内容の少し長めのトークをしていました。そのため、周りの研究員は話を聞く展開となり、結果的にグラフのような偏った結果になったと考えられます。

フェーズ3:井上研究員のいい話 コロナ禍の働き方

フェーズ3の総発話量のグラフは井上研究員の発話量が多くなっています。ここでも井上研究員が「コロナ禍における自身の出社事情・ベンチャー企業たちをサポートする役割の重要性」についての話をし、周りの研究員はその話に聞き入るという展開で、フェーズ2と同じことが発生していました。

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フェーズ4:いい話をするんじゃない!

最後にフェーズ4の総発話量のグラフを見てみます。長尾研究員が少なく、井上・角両研究員の発話量は多いものの、他の研究員もある程度発話量がある状態になりました。

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フェーズ3が終わったタイミングで仲山研究員が気づきます。「やべ!話に聞き入ってたらバランス型が崩れる!」そこを皮切りにみんなで笑いながら「いい話をしちゃだめですね!」「語っちゃだめ!」といった教訓を話しました。この笑いなどの影響で各研究員の発話量が上がったと考えられます。

バランス良く話すのは、みんなが主役になってから

この記事では「みんながバランス良く話す」ことを目標にした5分間の話し合いの分析を行いました。5分という短い時間では「話題提起のために一人がしばらく話す」こと自体がバランスを崩してしまうということがわかりました。もう少し長い時間をとって、話題提起トークが全員に一通り回るようにすれば全体としてバランスが取れた話し合いになると考えられます。

実際には、話題提起の部分は「主役を決めて話す」(前回のテーマ)ことを目指すことが効果的で、その後に議論したい場面では「バランス良く話す」ことを目標に話すのが良いでしょう。

Hylableで得られる参加者ごとの発話量の積み上げグラフを利用すれば、一つの会議の各場面の移り変わりが視覚的に分かり、各場面ごとにより詳しく分析できるようになります。


自分たちのコミュニケーションでも定量的に分析がしたい!と思ったら、当研究所までお気軽にお問い合わせください。

使用したデータ:第1回研究ミーティング
執筆:柳楽浩平


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