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目標パターンを決めて話そう:主役を決めた場合 前篇

おたまじゃくし研究所では、ハーモニーのあるコミュニケーションを実現するために、人間同士の話し合いデータを研究しています! note では、話し合いの研究成果や分析方法を公開しています。なお、話し合いの計測には、分析機能付きのWeb会議システム Hylable を使っています。

※ 普段、研究論文ばかり書いているので気を抜くと文章が堅くなりますが、頑張って柔らかくしています!
スキやコメントなどお待ちしています!


今回は目標パターンを決めた話し合い実験の分析をしていきます。Hylable はリアルタイムで話し合いを見える化するので、「先に達成すべき目標パターンを決めておいて、それに合わせるように話す」と何が起こるのかを実験しました。


実験テーマ:長尾研究員、きみが主役だ!

本記事で分析する目標パターンは、「主役となる人が最も多く話すようにしよう」というものです。6名のメンバー(水本・井上・仲山・長尾・角・柳楽)のうち、今回は長尾研究員が主役となり、5分間の話し合いを行いました。

ちゃんと主役になれたかな?

今回も Excel で分析していきましょう。 まずは、以前の記事で説明した方法  で Excel ファイルをダウンロードします。目標パターンを目指して話し合った区間を取り出します。

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まずはこの発話量を積み上げグラフで表示してみましょう。図をみて分かる通り、長尾研究員がほぼ常に1になっています。1というのは、その周辺で途切れなく100%ずっと話していたということを表します。

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次に、メンバーごとの発話量の平均値を棒グラフで表示してみましょう。この値は、「その区間で平均すると何%ぐらい話していたのか」と解釈できます。ここからは、長尾研究員がほぼ100%話しており、他のメンバーはその半分以下の発話量であることがわかります。

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つまり、長尾研究員は目標通り多く話す主役を担ってくれた結果、目標パターンに合わせることができました。

さすがおたまじゃくし研究員たちです。


本当にそうか?

経験豊かな研究員が集まると、そんな素直な話にはなりません。
ここで違和感を持つべきは、なぜ主役が100%話していたのかということです。想像できるとおり、通常の会話をしていたのであれば、100%になることはほとんどありません。


長尾研究員
「主役ですね、主役ですからね。1分40秒からキックオフですね。」


恐怖の朗読タイム

実は、長尾研究員は手元にあった雑誌を延々と朗読することで100%の発話量を稼いでいたのです。今回の「主役の人はたくさん話す」ことを目指し、発話量を評価 (KPI)とする単純な目標パターンの設定は、実験開始の瞬間からハックされてしまいました

では、他の研究員は何をしていたのか。それは、長尾研究員の妨害をしていたのです。彼を無視して話してみたり、彼に話しかけたりするなど様々な妨害工作を行いましたが、長尾研究員は鉄の心で話し続けたのでした。

さすがおたまじゃくし研究員たちです。


おじさんたちの妨害作戦:長尾を止めろ!

さて、本記事の最初に作成したグラフをよく見ると、どうも長尾研究員の発話量が一回だけ下がったタイミングがあるようです。ここでは何が起こっていたのでしょうか。

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積み上げ以外の方法でこの発話量の時間変化を見てみましょう。最初に表示した生データを選択し、 Excel のカラースケール機能で色を付けます。

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すると、このようにデータが値に合わせて色分けされます。各列はメンバーに対応し、青は話す量が多いことを、赤は少ないことを表します。時間は上から下に流れていきます。左端の列が今回の主役の長尾研究員で、ほぼ青、つまりほぼずっと話していることがわかります。図の中で赤い四角で囲った区間が、調べたい妨害成功区間です。

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このデータを眺めて見ると、妨害成功区間の少し前に話している人がいます。これは仲山研究員です。このことから、仲山研究員の何らかの発言によって、長尾研究員の妨害に成功したのではないか?という仮説が立ちます。

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実際のデータを聞いてみましょう。
仲山研究員はこの時間に「ブツブツ文句言ってる感じの人でも主役になれるのかな。「おもんないねん」とか会議中に言ってる人とかいるじゃない」という発言をします。それを受けて長尾研究員は朗読をやめてしばらく止まり、またすぐに朗読を再開します。

つまり、仲山研究員は、長尾研究員が思わず朗読を止めるような発言をすることによって、結果的に一時的な妨害に成功したのでした。この2名は共同で チームビルディングプログラム を行うなど気心の知れた仲だからできたことなのかもしれません。


まとめ:あえなくハックされた目標と研究員の攻防

本記事では、「主役を決めて最も多く話す」というパターンを設定して話し合いを行い、そのデータを分析しました。データを読み解くことで、この単純な目標はすぐにハックされ、それを妨害する攻防が見えてきました。

後編では、他の研究員達にスポットライトを当てて、妨害工作の方法やその類似性について調べていきます。

お楽しみに!

後編はこちらから
目標パターンを決めて話そう:主役を決めた場合 後編


自分たちのコミュニケーションでも定量的に分析がしたい!と思ったら、当研究所までお気軽にお問い合わせください。

使用したデータ:第1回研究ミーティング
執筆:水本武志

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