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目標パターンを決めて話そう:主役を決めた場合 後編

おたまじゃくし研究所では、ハーモニーのあるコミュニケーションを実現するために、人間同士の話し合いデータを研究しています! note では、話し合いの研究成果や分析方法を公開しています。なお、話し合いの計測には、分析機能付きのWeb会議システム Hylable を使っています。

※ 普段、研究論文ばかり書いているので気を抜くと文章が堅くなりますが、頑張って柔らかくしています!
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この記事の前編はこちら
目標パターンを決めた話し合い:主役を決める 前編

前回のおさらい:朗読作戦を巡る攻防

この実験では、目標パターンを決めた話し合いを行い、その分析をしました。今回は「主役が一番多く話す」ことを目標とし、実験参加者のうち長尾研究員が主役と定めました。すると、長尾研究員は目標を達成するため本を朗読する作戦に出たので、他の研究員達で妨害を行うことにしたのでした。

今回は後半戦

発話量ヒートマップを見ていきましょう。発話は多いほど青く、少ないほど赤くなります。今回は図の四角で囲った後半戦を調べていきます。

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妨害作戦:無視して会話してしまえ!

最初に気がつくのは、発話の多い人 (=青く示されている人) が、仲山-> 角-> 井上(Joe) -> 柳楽 の順に移り変わっているということです。ここは何が起こっていたのでしょうか。

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データを聞いてみると以下のような会話が行われていました。
まず、(1) 仲山研究員が「今日は何をしてましたか?」と角研究員に質問をするところから始まります。すると、(2) 角研究員は、何事もなかったかのようにその日の仕事を話しはじめます。しかし、他のメンバーはほぼ聞き取れないため、(3) 井上研究員が「なんだかわかんねえ」とツッコミを入れます。このような制御不能な状況の中、グラフの更新頻度が少し遅れたタイミングで、(4)柳楽研究員が技術的内容について話をします。

このように、4名の研究員たちは主役の長尾研究員を無視して会話を行うことで妨害をしようと試みていました。しかし、朗読の中で会話をするのは難しく、この妨害もあえなく失敗し、長尾研究員は朗読をつづけます。


僕らは慣れる生き物である

こうして行われた1回目の妨害で疲れたのか、それ以降は発話が減ります。下図に四角で囲んだ2つの区間を比べると、第2区間の発話(青い部分)が減っていることが読み取れます。

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この第2区間で注目するのは角研究員です。他の研究員が急速に発話量を減らす中、角研究員だけは薄い青をキープしています。この区間の発話量は 0.2〜0.5程度で、通常の会話で話をしているのと変わらない量です。実際に音声を聞いてみると、単純に発話量を増やす目標の問題点について話していました。それに対して、水本が応答しています。このことから、角研究員はこの時点でほぼ耳が慣れて、長尾研究員の朗読をあまり気にすることなく会話を続けられたと推測できます。

このように、雑音(失礼!)の中でも自分の興味のあることに注意を向けられる認知プロセスは選択的注意と呼ばれ、特に人が声を聞き分けるという状況ではカクテルパーティー効果という名称で知られています。ちなみに、選択的注意はカエルにもあり、多数の個体が合唱する雑音環境の中でも距離の近い個体のみと相互作用することが知られています [1]。

参考文献
[1] M. D Greenfield and A. S. Rand, "Frogs Have Rules: Selective Attention Algorithms Regulate Chorusing in Physalaemus pustulosus (Leptodactylidae)", Ethology 106(4):331-347, 2000.


まとめ:人もカエルもカクテルパーティー!

後編では、主役となって朗読を続ける長尾研究員に対して妨害を試みる研究員の様子と、それを諦めた結果、カクテルパーティー効果によって普通に会話ができるようになった様子が見えてきました。

Hylable は参加者ごとに発話量のデータがわかるため、このように音声だけでは何もわからない状況でもその状態を分析することが可能になります。


自分たちのコミュニケーションでも定量的に分析がしたい!と思ったら、当研究所までお気軽にお問い合わせください。

使用したデータ:第1回研究ミーティング
執筆:水本武志

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