コミュニケーションゲーム:ポカンゲームのプレイ記録 前編
ポカンゲームとは
ポカンゲームとは、自分のコミュニティでは常識だが、他の人達はポカンとする一文を出題し、その内容を推測し合うゲームです。ルールはこちら
どんな話をしていたか、のぞいてみよう
前回の記事では、ポカンゲームを行った結果、ディスカッションがどうなったのか?といったデータ分析や、ルールのどの部分がそれに効果を発揮したのか?という考察を行いました。
この記事では、より詳細に実験結果を調べていきます。
ターンごとに、
・研究員はどんなお題を出したのか?
・そのお題ではどんな話し合いがされたのか?
・そのターンでは、どんな会話パターンだったのか?
ということを詳しく振り返っていきます。
いわゆる、テーブルトークRPG のリプレイのようなものです。
全員分の記事を作ると、6000字を超える大長編になってしまったので、今回は前半の3名、長尾研究員、角研究員、水本所長の3名のお題と話し合いを紹介していきます。
長尾研究員のターン
これ、どんなときに言う?
最初のお題では、示された文章をどんなときに言うかがお題でした。
研究員達は、お題について質問をしながら少しずつ迫っていきました。
「なにか危ない状況について言っていますか?」→はい
「なにか赤いものが出てるからだめなのか?」 →はい
「スクリューということは船に関係している?」→いいえ
長尾研究員からも、少しずつヒントが出されました。
「この文は、消防関係者やレスキュー関係者に言っても伝わります」
「見えていないときは、「スクリュー、よし!」といいます」
「くるくるまわります」
その後も質問が続いたあとで、仲山研究員が正解を言い当てました。
「カラビナのくるくるまわすやつ?」
正解は、「スクリュー、赤、見えてんぞ!」は、登山などで命綱を固定するカラビナがロックされていないときに言う、でした。
長尾研究員は、野外教育や体験学習などが専門のひとつなので、登山や山での活動に必要な知識があったのです。
高所作業や登山などで命綱を使うときは、上の画像のようなカラビナを使って体と命綱を固定します。カラビナの種類の一つである「スクリューロックカラビナ」は、その名のとおりスクリューを回して固定します。
このとき、スクリューを最後まで回していないため固定が甘い場合、赤色が見えるようになっています。この理由で、赤いと危険なのでした。
会話パターン
まずは、発話時間の合計を比較します。この棒グラフを見ると、、出題者である長尾研究員が一番多く発話していることがわかります。
次に、発話量の時間変化を見てみます。これは、このターンの時間が進む中で「誰が」「いつ」「どれだけ」話したかを、重ならないように積み上げグラフで表示したものです。
150秒あたりの矢印で示した時刻が、仲山研究員(紫)が正解を言い当てた場面です。この直後は、正解が出た驚きで全員の色が見える、つまり全員が話したことがわかります。
そして、我慢から開放されたのか、長尾研究員(茶)の発話量が一気に増加します。ここでは、スクリューロックカラビナを含む様々な種類のカラビナについて教えてくれました。
動画
長尾研究員のターンが動画になりました!ここから見てみてください。
(2022年3月16日追記)
角研究員のターン
「この単語はどんな意味?」
次のお題は、よりクイズらしくなっていて
「この文章における鏡とは、どういう意味でしょう?」
というお題でした。
ここでは、長尾研究員が最初から「これ役所で聞いたことある」と、核心に迫っていきます。この時点で役所の用語だということまで絞れました。
そして、答えを絞る質問を投げかけていきます。
「ミラーの鏡と関係しています?」 → いいえ
「鏡とは書類の一部のことですか?」 →はい
「大福261号というのは、書類の名称ですね」→はい
次に、角研究員のヒントを出します
「長尾研究員の「書類の一部」がかなり正解に近いです」
「どの書類にも必ず鏡はあります」
そして、水本所長が
「表紙のことを扉とか言いますよね。 もしかして表紙?」
と、正解を言い当てました。
正解は、「鏡とは、文書の冒頭に配置して、文章のサマリー、構成、その扱いが示される部分のこと」でした。鏡は「扉」や「表紙」のようにただ最初のページという意味ではなく、こういった内容が書かれていることが必要で、「鑑」と書くこともあるそうです。
鏡は公文書を管理する手引にその書き方が指定されるなど、ほぼどんな文書にもあるものだそうです。確かによく見ますね。
ちなみに、「大福」とは「大阪市福祉局」の略だそうです。つまり、このお題は「大阪市福祉局が261番目に作成した文章の冒頭の鏡がわかりにくかった」ということを意味する一文でした。
ここから角研究員は、元公務員の経験から公文書の形式や扱い方について様々な解説をしてくれました。鏡は、どの場所のどの言葉にも意味があって、シャープのワープロ「書院」で書かれた均等割り付けはとても美しかったそうです。
後日談
角研究員はこのときに思い出した経験を facebook に書き込んだところ、100を超える人々にシェアされるバズった記事になりました。
おたま研の嬉しい副次効果でした。
会話パターン
発話時間の合計は、他のターンと同じく、出題者の角研究員が一番発言しています。
次に、発話量の変化を見ていきましょう。
この図の 270秒付近で「回答」と書かれた矢印が、答えが出たタイミングです。比較的早く答えが出たのですが、そこから角研究員の公文書に関する解説は、興味津々で他のメンバーも参加しながら会話が進みました。
次の、440秒付近で「書院」と書かれた矢印は、水本所長が「書院ってなんですか?」と発言したタイミングです。書院を販売していたシャープに当時勤めていた仲山研究員(紫)や、書院のヘビーユーザーだった角研究員(緑)がその経験を語ってくれました。
水本所長のターン
「この文は何を説明している?」
次は、水本所長のお題です。明確にクイズにはなっておらず「これは何を説明している?」が出題になりました。
研究員たちは、面くらいながらも、未知の言語に少しずつ迫っていきます。
「単語を並べ替えても読めそう」→いやーたぶん?
「優ガウスの反対は厳しいガウス?」 →いいえ。反対は「劣」
「3次は尖ってるんだよね」→はい。
「ガウスって数学者のガウス?」→はい。
「線形時不変でないって何だろう。線形の時に変わらないってこと?系はシステムのことな気がする」→おしい。切り方は 線形時-不変ではなく線形-時不変が正しく、系が線形かつ時間が経っても変化しないことを表す。
ここまで迫ってきたところで水本所長は解説をはじめました。
この文章は「混ざった音を分離する独立成分分析という方法の説明文」でした。ちなみに柳楽研究員はこの研究分野が専門です。
会話パターン
発話時間の合計は、やはり出題者の水本所長が一番多くなりました。
ただ、今回はいつもと違うパターンがあります。普段は多く発言しない柳楽研究員の発話が2番目に多く、水本所長に迫る勢いです。これは、彼が内容を知っており、半分ぐらい出題者側だったからだと考えられます。
発話量の時間変化グラフを見ると、630秒付近で水本所長(黄)の発話量が急激に増えています。これは、水本所長の解説が始まったからです。
まとめ
今回は、おたま研のメンバーで実際に行ったポカンゲームの記録の前半3名を紹介しました。初めて見た文章ばかりで、非常に頭を使って疲れましたが、世界の広がるとてもおもしろいゲームになりました。
もしお題を見ても「ポカンとしなかった!」という方は、その研究員と同じ常識を共有しています。ぜひ SNS やコメントなどで教えてください!
最後に、このゲームはやってみるのが一番楽しいので、ぜひやってみてください!
リプレイ記事後編はこちらから
執筆:おたまじゃくし研究所所長 水本武志