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オリジナル漫画「scope」原作-1

第1話「 境界線 」


F暦29××年。

発展した文明により、社会の8割はAIが担い、街行く車は自動運転にて空を飛ぶ。人間とロボットとの共存が当たり前となった、近未来な世界。ネット回線は地球全体を完全網羅し、人体に取り込む事も可能で、0.2秒で全世界の誰とでも大容量のコミュニケーションを取る事が出来る。今やインターネットは、老若男女問わず、社会の全てを起動させる、ライフライン・ソリューションとなった。
社会を形成する光が眩しければ眩しい程、その裏には必ず深い“闇”がその影を落とす。

近未来から完全に取り残されたような、昭和臭漂う、屋上付きの2階建ておんぼろアパート/質素なベッドの上で眠る青年が、酷くうなされている。


【 --- 夢の中 --- 】

目の前に背を向け立っている、金髪ツインテールの少女。 周りを見る限り、見慣れた部屋のようだが、漆黒の闇に包まれていて、断定する事が難しい。
何故か…この謎の少女にだけスポットライトが当たっていて、周りの暗さとのコントラストにより、ひと際光って見える。 薄暗い部屋の隅っこには、どことなく無機質な人間らしき”モノ”が横たわっており、ゆっくり絡み付くような気持ちの悪い空気と、最上級の生々しさを纏った、鉛のような不快臭が部屋中に充満している。

条一狼 「 おっ おい ダイアナなのか? そこで何してる?? 」

声を掛けられ、背を向け立っている少女が不敵にニヤッと笑う。

少女  「 ジョー …… 」

刹那、振り返ると同時に右手に握っていた薔薇のムチのような拳銃が、条一狼身辺にらせん状に巻き付くように旋回し、“内側”に向けて大量の銃弾が撃ち込まれる。予想など不可能な咄嗟の出来事、且つ極限の事態に、周回遅れで理解が追い付かない、狂パニック状態の条一狼。

ド・ダ・ダ・ダ・ダ・ダ・ダ・!!!!!!!!!

…激しい銃撃に反して、撃たれている自分は、まるでスローモーションのようにゆっくりと感じている。

発砲される際のわずかな火花に照らされた横顔を見て、この無機質に横たわっている人間らしき“モノ”が、自身の父親であるという事が分かった。

条一狼 「 !? うわぁ! うぁぁぁああああああ 」

“苦痛”と“パニック”を重ね着した状態からの、内外からの容赦ない攻撃により、心身ともに甚大なダメージを負ってしまう、少年時代の条一狼。

< ガバッ! >

…おんぼろアパートで悪夢にうなされていた青年、大噛条一狼(オオガミ ジョウイチロウ)が目を覚ます。

とっさに、枕元に置いてある、見た事の無いフォルムをした“拳銃のような武器”を、誰もいない未知なる敵に向けて構える。手にくっきりと浮き上がる血管。力いっぱいトリガーを握りしめると、強烈な蒸気が拳銃から噴出して来た。

< ブシュュュユユユユゥゥゥゴォォオー!! >

条一狼 「 はぁ はぁ… またこれかよ。チッ 」

< 握っていたトリガーから力を緩めると、蒸気がゆっくりと引いて行った。フシュ― … >

目を見開き、呼吸を荒げる、条一狼。 スポーツをした後の爽やかな汗では無く、べっとりとまとわりつく魔界のハチミツのような嫌ぁな汗を大量に掻いている。

ベッドの脇で胡坐<アグラ>をかき、冷静を取り戻すまで しばし目をつぶり、瞑想を試みる、条一狼。 頻繁に脳裏にて上映される、これ以上の無い悪夢は、日々 条一狼の精神を蝕んで行く。

必死に瞑想を試みるも… 忘れたくても決して忘れる事の出来ない、幼少期のドス黒いトラウマが鮮明に蘇り、望まぬリピートを繰り返す。


――幼馴染のダイアナは、幼稚園の時に隣のアパートに引っ越して来た、外国籍の小柄な少女だった。ブロンドヘアに青い瞳。時より魅せる小悪魔のような笑顔は、まるで外国製の人形のようだった。条一狼を見かけるなり、いつも片言の日本語で明るくズケズケと話しかけて来る。

自身のストロングポイントを熟知しているかどうかは分からないが、人懐っこさを最大限生かした、抜群のコミュ力である。

毎日こんな感じで来られたら… ねぇ?

表向きは照れ隠しで必死に鬱陶しさを捻り出してはいるが、内面はエライこっちゃで、もはや「好意を寄せる」の一択しか無くなっていた。
予想するに、初日からこの状態になっていたのだろう。
まぁ、園児だろうがおっさんだろうが、♂なんて所詮そんなもんだ。

そんな異性の魅力を無垢に醸し出す彼女は、特に人見知りで内気な性格の条一狼にとって、心を許せる稀有な存在になっていた。



何事もなく、楽しい日々が続いた。

…はずだった。


数年が経ったある日、“それ”は突然起こった。

予期不能な“闇”というモノは、誰しもの手が簡単に届く 超至近距離の死角=Out of Scopeに存在する。



【 --- 回想 --- 】

何ら、いつもと変わらない休日だった。 連休中ではあったが、二人暮らしの父親と男二人でどこへ行くわけでも無く、自宅にて暇を持て余す、条一狼少年(小6)
ゆっくりと時間が過ぎ、日が落ち始めたぐらいの逢魔が時。シューティングのアプリゲームをしながらベッドでウトウトしていると…


< ビーーーーーーッ!! ビーーーーーーッ! !>


急に呼び鈴が鳴った。かなり時代錯誤な古いタイプのやかましい音。 「チッ うっせーな」 玄関ドアを開けると、そこにはダイアナが立っていた。見慣れた光景だった。

ダイアナ 「 ジョー!! オミヤゲ カッテキタぞー♪アリガタク オモイタマえ イッショウゲボクじゃw 」


どうやらダイアナは、家族で動物園に遊びに行って来た帰りに、土産物を持って わざわざ大噛家に寄ってくれたようだった。

ダイアナ 「 ホイっ これ 」

抱きかかえるように持たれた2つの紙袋のうち、横長でちょっと大きめの方の紙袋を手渡すダイアナ。

条一狼 「 デ、デケーなっ! 」

象の鼻、もしくはアリクイの口部分を無理矢理引きちぎったヤツなんか? 条一狼はワクワクしながら紙袋を開けると… 中身は、何故か二足歩行で立っているような狼のぬいぐるみだった。

さ・さんきゅう。。 < 想像と違ったプレゼントに、苦笑いしている >


…ん?そもろも、動物園って狼とかいるんだっけ?

…ま、いっか。

条一狼 「 んで、そっちのは何なんだ? 花束か?」

ダイアナ 「 アっ こっちのは、オジさんにプレゼント♥ いつもお世話にナッテルカラネ。」

条一狼 「 ふぅん。 まぁいいや、遊ぼうぜ!」

ダイアナ 「 おう! 」

しばらく部屋で遊んでいると、すっかり夜も更け、夕食の時間になった。< キッチンにて、得意の揚げ物をしている父親 >

条一狼 「 おっ もうこんな時間か? せっかくだからメシ食ってけよ!知ってっか? エビフライってのは、しっぽが美味ぇんだぜぇ。」

ダイアナ 「 イイノカー? うれしー! …てか、身じゃなくて、しっぽカヨ! キャハハハ 」 


たわいも無い話で、自然と笑顔になる2人。側から見ている父親も微笑ましい表情で何だか嬉しそうだ。

…楽しい夕飯を済ませ、リビングにてしばし談笑に浸っている大噛親子とダイアナ。

「 ダイアナちゃん、探してる本があるんだって? 2階の書斎に行ってみるかい? 」 と、父:豹尾<ヒョウビ>

「 ウン、オジさん、イキたい 」 と、ダイアナ。
< ニコニコしながら、後ろ手に花束を持っている。 >

「 オレちょっとトイレ行って来るわ、先行っててー 」 と、その場を離れる、条一狼。


ものの数十秒経ったぐらいだろうか?

条一狼がトイレから出て来ると… 一転 家中に真っ暗な“闇”が広がっていた。これが長年住んでいる自宅なのか?と疑うほどの深い闇。まるで、受験に50年連続で失敗し続け、いよいよ明日で還暦を迎えてしまうジジイの心境ぐらい暗い、漆黒の闇。


条一狼 「 ん? なんだ? 停電か!? うぉーい みんなー! 」

…圧倒的な暗闇と同時に、張り詰める空気。 今この家には、暗さと静けさ以外、何も無い。無論、エビのしっぽもバリボリ食ってしまったので、当然無い。

暗闇の中、壁伝いに2階の父親の書斎を目指し、ゆっくり ゆっくり階段を上る条一狼。 その後ろ姿は、獲物をロックオンして、ジリジリと距離を詰める獣のよう。
徐々に暗さに目も慣れて来た。 書斎の前まで来るとドアの隙間から二人の会話がかすかに漏れて来る。

ダイアナ 「 マッテ、その前に… プレゼント… アゲルヨ。 」<後ろ手に花束を持っている>

父(豹尾) 「 ん? 何か言った?? …おっ 何かくれるの? 」

ダイアナ 「 いままで、アリガトね♥

…ブラック パンサー 」

<ガバっと花束を上空に投げ、鞭のような薔薇のツルを取り出す、ダイアナ。>

父(豹尾) 「 ダイアナちゃ… おまっ まさか!? 」

< 慌ててタンスの上の花瓶を落とす > ガシャーン!!

条一狼 「 !? 何事だぁー!! おい! 」

異常に勘が鋭い条一狼だが、今までに感じた事が無いほどの嫌な予感を察知し、酷く険しい表情で部屋になだれ込んで来た。

ダイアナ 「 …闇の調査記録、あるんだろ? こそこそしやがって。 チッ 」

刹那、薔薇のムチのような拳銃か何かが、父の周りにらせん状に巻き付くように旋回し、内側に向けて大量の銃弾が撃ち込まれる。


ド・ダ・ダ・ダ・ダ・ダ・ダ・ダ・ダッッッ!!!!


< 撒き付いた薔薇の拳銃の中心にいる豹尾に向け、四方八方から撃ち込まれる弾丸。 間髪入れずに続く容赦の無い連射撃により、逃げ場の無い身体は、銃声に合わせて激しく左右に揺れている >

ダイアナ 「 … 死のダンス 」
< まるで、機械のような冷徹な眼差しをしている >


クライマックスで、幽霊が顔を披露するかのように、ゆ~っくりとこちらに振り向き、今まで見せた事が無いような、不敵な笑みを浮かべるダイアナ。背筋が冬眠準備を始めてしまうようなゾクゾクする笑顔は、いつもの小悪魔的な可愛さは皆無だ。

ダイアナ 「 …ジョー? ツギ、ナニシテアソブ? キーッ キッキー 」 
< 両の目を剥き出し、瞬きを一切しない表情で問いかけて来る >

条一狼 「 !? 」
< 突然の混乱と恐怖で、声も出ない >


< ビーーーーーッ! ビーーーーーーッ! >



 “?”で構成された不穏の空気を切り裂くように、突如、ガサツな呼び鈴が鳴り響いた。

ダイアナ母 「 アニー そろそろ帰っといでー 」

夜分に長居は迷惑だからと、気を遣った母親がダイアナを迎えに来たようだ。

ダイアナ 「 ハーイ チョイ マッテ、ママ♪ 」

まるで何事も無かったかのようなリアクション。“違和感が無いという違和感”だらけな 立ち振る舞い。父親の本棚の裏から何かの書類を持ち去るダイアナ。…その後ろ姿、フォルムこそ一緒だが、今までの知っているダイアナではなく別の何かに見えた。


 ---  それらを失うのは、一瞬の出来事だった。

 ---  失ったモノは、ビーチで日焼けする南米大陸の背中のように分厚く、そして とてつもなく大きかった。 

 ---  条にとっての数少ない宝物だった。


「家族」と「友達」と「恋人」と「信頼」を同時に失った条一狼は、正直今何が起こっているか全く理解することが出来ず、パニックにより 全ての思考を自ら強制終了させていた。数分の間 見開きっぱなしの目は、サハラ砂漠のように乾いていて、やがて内側から溢れ出る涙流に乗って、眼球がグルングルンと回り出す。まるでコインランドリーだ。…と、次の瞬間、今度は瞼がクソほど重くなる。。

な・ん・な・ん・だ・よ …??

人類未到達の真っ暗な深海に沈むがごとく、精神が無音の暗闇へと堕ちて行く。。 ゆっくりと、ゆっくりと。 とうに常人が正気で居られる限界を大きく超えていた。


< Boo!!!! >


条一狼 「 ぶはっ!! はぁ はぁ はぁ …うげぇ 」
 

< バウンドする程の特大な放屁で、目覚める条一狼 >

気付くと、そこは警察病院のベッドの上だった。…どれぐらいここにいるんだろ? ボーっとする頭がまともに回転するまでのアイドリングに、数時間を要した。

…しばらくすると、見舞いを兼ねて事情聴取に来た刑事から、事件の顛末を聞かされる。父親が何者かに殺害された事、倒れていた条を警察が保護した事。そして、隣家のダイアナ家もろとも、原因不明の火災により、自宅が全焼したという事を。<出火原因は、プレゼントされた狼のぬいぐるみ/目が赤く光って炎上の描写>

全てを受け入れ理解するのは難しかったが、条一狼の家跡に巨大な槍が突き刺さっていた異様な光景は、あまりにも常軌を逸しており、逆に気にもならなかった。条一狼自身はと言うと、過度なショックが重なり、小学生ながら毛髪が1本残らず真っ白な姿になっていた。


刑事 「 あっ あと これ。 親御さんの形見か何からしいんだけど。」

と渡された懐中時計。文字盤を開け、ふと裏面を見ると謎のURLが刻印されていた。


謎のURLにアクセスしてみると、今まで父親が極秘のまま調査をしていた、インターネットの深部に存在する“闇の世界”に関する情報が記録されていた。父親が殺害された理由や、インビジブル(Out of Scope)の存在、そして今置かれている自分の状況を把握した、白髪姿の条一狼少年。

混乱しつつも、父の指示通りにやって来た。駅の961番のロッカーを開くと… 中には、プラモデルの箱のようなモノがあり、開けると異形の拳銃が入っていた。優しくカッコ良かった、条にとって憧れの存在だった父、豹尾。 豹尾との楽しかった日々の思い出を回顧し、人生初めてボロボロと涙する条。


他愛の無い当たり前の日常は、時に予期せぬ悪魔のほほ笑みによって自身の懐に無意識にを招き入れ、その生活や人生をも一変させてしまう。

条一狼 「 …クッ 何でこんな事が? 」

悲しみの向こう側へ…  条一狼少年は、怒りと共に父の形見の拳銃を握りしめ、仇となる闇の組織への復讐を誓うのであった。


【 --- 回想終わり、現代へ --- 】


< 約20年後、おんぼろアパート >


条一狼 「 …チッ いつまでリピートされんだよ、この夢は。。 」
< 条一狼の記憶に悪夢が直接張り付いていて、いつまでも離れず、望まぬ再生を繰り返す >

金属製の近未来のタバコを一服しながら、握力を鍛える特殊な器具を握っている< ギュッギュッギュッ > (*特殊拳銃は、トリガーを引くために強い握力が必要 )

条一狼 「 見えない恐怖に打ち勝つためには、見える所まで引っ張り出しゃぁいいんだ。 」


パートナーの情報屋から送られて来た位置情報を確認する条。 キリっとした表情に切り替え、父の形見の拳銃を携帯して、部屋を出た。


< カツ カツ カツ >


おんぼろアパートの外階段を下ると、ビールケースに馴染みの情報屋が腰を掛けている。

情報屋 「 おい ジョー、今回こそ何か手がかりを掴めるといいな。 」 < ニヤッと笑う。 >

条一狼 「 あぁ そうだな。 …そうなって貰わねぇと困る。 」

情報屋 「 また何も掴めなかったとして、いつまでこんな危険な事続ける気だよ? 」

条一狼 「 ……… “遂げるまで”だ。境界線を引いた時に、はじめて概念ってもんが生まれるんだ。悲しみや憂鬱、そして絶望… 境界線を引いて、その線を跨ぐか跨がないか。もう こりごりなんだよ、オレはあの事件があってから、境界線を引く事を止めたんだ…

唯一 “復讐”という概念の境界線を引く事以外はな。 」


屋上を見上げて車のキーボタンと押すと、厳ついスポーツカーのような真っ黒な愛車が勢い良く落ちて来る。  < ギュン!ボボボボボ  >


改めてダイアナのおぞましい笑顔を頭に思い浮かべ… 次への一歩を踏み出す。


事件から月日が経過し、苦悩の日々を懐へと仕舞い込んだ”大人”へと成長を遂げた大噛条一狼は、改めて自身の信念を元に復讐を誓う。白髪だった毛髪も、毛先を残し黒に戻っていた。

( つづく )

〖 オリジナル漫画「scope」原作 〗

*創作大賞2022 エントリー作品(全57話)

【 プロローグ 】
第2話(2) 第3話(3) 第4話(4)
【以臓篇】VS人身売買企業(赫)
第1話(5) 第2話(6) 第3話(7)
第4話(8) 第5話(9) 第6話(10)
第7話(11)
【吹星姉妹篇】VS違法ドラッグ組織(橙)
第1話(12) 第2話(13) 第3話(14)
第4話(15) 第5話(16) 第6話(17)
第7話(18)
【寺野篇】VS特殊詐欺組織(蒼)
第1話(19) 第2話(20) 第3話(21)
第4話(22)
【趙篇】VS遺伝子操作組織(緑)
第1話(23) 第2話(24) 第3話(25)
第4話(26) 第5話(27) 第6話(28)
第7話(29) 第8話(30)
【飛山篇】VS臓器売買組織(黄)
第1話(31) 第2話(32) 第3話(33)
第4話(34) 第5話(35) 第6話(36)
第7話(37) 第8話(38)
【入来篇】VS殺人代行組織(藍)
第1話(39) 第2話(40) 第3話(41)
第4話(42) 第5話(43) 第6話(44)
第7話(45) 第8話(46) 第9話(47)
【暗堂篇】VS武器密輸組織(紫)
第1話(48) 第2話(49) 第3話(50)
第4話(51) 第5話(52) 第6話(53)
第7話(54) 第8話(55) 第9話(56)
【 エピローグ 】
最終話(57)