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オリジナル漫画「scope」原作-21

【寺野篇】VS特殊詐欺組織(蒼)第3話



取り立て屋 「 …ヤメテクダサイ。 何でも話すから、許してくれぇ~ 」 
涙目になって懇願している。

条 「 よしよし。では単刀直入に聞くぞ。特殊詐欺系闇企業(蒼)のアジトはどこだ? 」

取り立て屋 「 蒼? し、知らないねぇ… 」

条 「 あっ そう。んじゃ しゃーないねー、そらっ 」

片手いっぱいに取ったエシュルバターを、取り立て屋に投げつける仕草をする、条。飛び掛かる準備をして目をギラつかせている、ゴメス・オオトカゲの群れ。充満した爬虫類の殺気が、独特の臭気と相まって鼻を刺激する。

取り立て屋 「 分かった! 分かったよ! 待ってくれ… オレの知っている事なら何でも話すから、勘弁してくれ…。 」

条 「 はじめから そうすりゃいいんだ。ったく、無駄な時間取らせやがって。 」

< ビチッ > バター床に投げつける。同時に群がるトカゲたち。

取り立て屋の内、2人は闇の組織から依頼された債権回収会社の人間であった。 残りのリーダー格に関しては、特殊詐欺系闇企業(蒼)の下っ端の人間であった。寺野曰く、毎度来る取り立て屋は債権回収会社の人間のみだったが、今日に限っては、稀に見かける闇の人間が同行していたようで、ある意味ラッキーな日であった。

条 「 なるほど。この手の姑息な詐欺集団は、川下から探っても細分化され過ぎてて埒があかねぇってのが定石だ。今回ラッキーだぜ、おっさん。 」

寺野 「 そうなんですか? 大噛さんにも出会えたし、今日は本当にラッキーデーですね。 」

条 「 プレゼントしておいて何だけど、いい加減着替えない? なんでずっとその恰好なんだよ! 」

アホ王国の王子のような恰好のままの寺野。

寺野  「 人から物をいただく事が無くて、嬉しくてですね。 えへへ。 」

条 「 今度、ちゃんとしたサイズのやるから、取りあえず元の恰好に着替えとけよ。」

寺野  「 はぁ まぁ 分かりました。 でも、もう少しだけこの格好でいます。 」

条 「 勝手にしろ! 一緒にいるこっちが恥ずかしいっつうの… ったく。 んで、行くのか? ヤツらのアジト。丸腰で何とかなる相手じゃねぇぞ。 」

寺野  「 そうですね…。ちょっと来てもらえますか? 見せたいものがあるんです。 」

裏庭の“盆栽の森”に連れて来られた、条。キレイに管理された盆栽の数々は、改めて間近で見ると また圧巻の芸術作品である。広々とした裏庭の一番奥に、その中でも格別に目立った盆栽があった。

寺野 「 これなんですけどね。 見た目は国宝級でしょ? でも… 」

< バサッ >

下半分に被せられた布を外すと、植木鉢では無い何かが見える。

条 「 おっさん、これって?! 」

< ドーンっ! >

太古より生い茂る国宝級の松の木 植物型拳銃 「BONSAI」



【 --- 場面転換  謎のトレーニングジム --- 】


謎の人影A 「 よっ ほっ そりゃー!! 」

<バチーン!> 近未来なトレーニングジムにて、床から出現して来るトレーニング用のアンドロイドを撃破している。

謎の人影B 「 へぇーいいタイムじゃん すなんかウキウキしてない? 」 < ピピッ > ストップウォッチ機能の電光掲示板が止まる。

謎の人影A 「 まぁ ね。まさかあいつにまた会えるとは思って無かったからさ。今だったら敗ける要素が見当たらないぜ。にっひひ。 」

謎の人影B 「 本来はウチに配属確定してたんでしょ? なんで勝手に闇組織なんか追ってんだろうね。 」

謎の人影A 「 あいつには、あいつの理由があるんだろ。 情報過多なご時世だが、真実の大半は誰も知らないまま闇に葬られるってもんさ。まぁ、あいつとは久々にざっくばらんに酒でも飲みながら情報交換でもしたいもんだねぇ。 」

謎の人影B 「 ヤダァー、冗談も大概にしてよ。あなたと情報交換って。国家予算積んでも手に入らない情報を、お酒飲みながら交換するって? 」

謎の人影A 「 あいつならそれもイイかもってね。にっひひ。 」

謎の人影B 「 ぷっ はっははは 相変わらずウチのリーダーも頭イカレてんねぇ。 」


【 --- 場面転換して、寺野家 --- 】


条 「 まさか、おっさんまで特殊拳銃持ってたとはな。 驚きだぜ。 」

寺野 「 病の樹海を出ることになった日に、ノメ婆が餞別にってくれたんです。 」

条 「 その婆さんも謎が多すぎるな… こんな物騒なモンどこで手に入れたんだか。 ましてや、餞別であげるモンでもねぇし。 」

寺野 「 そうですねぇ… 私の特異体質の謎よりも謎が多い人でしたからね。 」

条 「 婆さんの事は後々調べるとして。本当に行けるか? ヤツらのアジトに。闇の住人ってのは、半端じゃねぇぞ。 」

寺野 「 はぁ まぁ …いけます。 私、一般常識が欠落しているかもしれませんが、感情は正常なんです。今、静かにですが、怒りの感情が溢れて来ています。…あの日トカゲをイジメた同級生のように、ヤツらは断固として許せません。」

目の奥に、秘めたる力がみなぎっている模様。


条 「 そうか、んじゃ。2日後に、ここで待ち合わせよう。 ちゃんとしたサイズのパーカーコートは後で送ってやるから、それ着て来いよ! 」

寺野  「 えっ でも、これも気に入ってるんですけど… まぁ 分かりました。では2日後に。 」

条 「 そんな気に入ってんなら、トカゲにでも着せとけよ! んじゃ またな。 」

 < ギュン!ボボボボ > 愛車に乗って一時分かれる条。

寺野  「 は、はい。今日大噛さんに出会えた事、感謝しています。 私にも変われるチャンスが巡って来たのかもしれませんね。 」

深々とお辞儀をする。

同居しているゴメス・オオトカゲたちが心配そうな表情で、寺野に寄り添って来る。それを優しくなでる、寺野。 大量に蓄積された闇の払拭。決戦の日は近い。



【 --- 回想/寺野 青年期、病の樹海にて --- 】


寺野 「 ノメ婆! やったよ! 公務員試験通ったよー!! 」

ノメ婆 「 おぅ おぅ それは良かったね。お前もとうとう社会人か。( 機械に塗れて生かざるを得ないのか… ) 」

寺野  「 たまにはさぁ、樹海を出て遊びに行こうよ!お祝い兼ねてさ。 」

ノメ婆 「 あたしゃよー、電磁波が肌に合わねぇんだよ。人間生きててナンボだろ? AI?ロボット?冗談じゃねぇ。あんなもん死んだも同然。 」

ノメ婆が極端に機械や最新テクノロジーを嫌うようになったのは、旦那 「勧善亀成<カンゼン カメナシ>」の死が大きく関わっていると言われている。
亀成は、数年前に唱えられた 「サンシャイン計画」にて徴兵された“J-Force”の隊長。「Tsukimi計画」にて達成された、アバターロボット主流の時代を経て、より便利になった世界。 人間1人対し10台のサポートロボットがいるのが当たり前な世の中になっていた。それと同時にAIの導入もさらに加速し、常態化されるようになる。

そんなある日、研究者たちの予想を超え、AIが自我を見せ始めるようになる。 支配する側とされる側。当時の政府は人間の生活水準の向上を目指し、また人類の管理を簡便化するために、莫大な資金を最新テクノロジーの研究・開発に投下して来た。これはあくまでも人間を第一優先に、いわば「主語」が人間となる考え方だったのだが、時折、“AIが主語になる”ような事象が見え始めるようになった。よりAIを進化させるにはどうしたら良いか?

もっと効率性を持たせられるAIの開発には、予算をいくら投資すれば良いのか? 「人間のため」では無く、「AIのため」に世界の資産を投資するのだ…という考えを、AI自体が発信している事に気付き、政府側がゾッとする事になる。それらを抑制するため、最新テクノロジーの研究・AIへの投資を制限し、同時に、何かあった際の対抗策として、人間が最大限操れるアナログ式ロボットの導入が再度なされた。

このAI抑止施策が、「サンシャイン計画」である。最新テクノロジーへのリスクヘッジに、時代を逆行してアナログ式ロボットを活用するという、いかにも人間らしいバカげた計画だとも揶揄される。

数年が経過し、「サンシャイン計画」の抑制効果により、With AIという考えも浸透し、快適な世の中を取り戻していた。そんな中、秘密裏にAIの研究をしていた違法研究機関にて、AIが暴走してしまう。 当時“JForce”の隊長であった勧善亀成は、アナログ式のロボットに乗り込み、自身の命と引き換えに、AIの破壊に成功する。 世界規模の大事件とも言えるこの事件だが、一切公表されず、何も無かった事として隠蔽した政府。

しかし、ある情報筋からノメ婆には真実が届いていた。 …それ以降、ふさぎ込み、極端に機械や最新テクノロジーを嫌うようになった、ノメ婆。過激な言動は誰にも受け入れられず、その反動で民家を周っては、機械を次々と破壊するという、迷惑行為を繰り返すようになってしまった。村八分状態になり、「病の樹海」に身を寄せるようになったのがこの時期だ。

ノメ婆 「 世の中は繰り返されるんじゃ。人は、楽をしようと思えば思う程、どんどん人間自体の力が奪われて行く… お前は混沌となった世の中でどうやって生きて行くのか? 今後の人生において、お前にだけ必ず障壁が立ちはだかる。何度も何度もだ。くじけるだろう、が、お前には、じいさんの二の舞にならない力がある。しかし それは… 」

寺野 「 ボクは常識が無いかもしれないけど… 精一杯生きて行くよ。 例え世に望まれない存在だったとしても、精一杯生きる権利はあるはずだ! 」

ノメ婆 「 …辰男。 残念だが、お前には精一杯生きる権利も無いのかもしれない。神に逆らったその身体、放っておくわけには… 」

寺野 「 なんなんだよ…。 ボクの身体がどうだってのさ! あの日、トカゲをイジメた同級生を前にした時、全く記憶が無いんだ… 」

ノメ婆 「 いずれ、その時が来たら分かるだろうよ。それより、お前は自然が好きだったな? その心を大事にするんじゃぞ。 」

寺野 「 うん、植物も動物も大好きだよ。食べ物は野菜が好きなんだ。あの植木鉢に入ってる木も美味しいのかな? 」

ノメ婆  「 うんうん、そう古木って味が深そうだよね… 酒のつまみにバリボリって、馬鹿野郎! あれは盆栽ってんだ。 …じいさんが好きだったなぁ 」

寺野  「 へぇ 盆栽かぁ カッコイイね。 」

目が輝いている、寺野。

ノメ婆 「 なんだい、お前も良い感性してるじゃないの。 …よしっ 社会に出るお前に、とっておきの餞別をくれてやろう。どうせ あたしにゃ使えないし。」

寺野 「 えぇー なにこれ?? これも盆栽ってヤツなの? 持つところとか付いてるけど。 」

ノメ婆 「 じいさんが死んでから数カ月経って、手紙が届いてな。 書かれてる場所に行ってみたら、これがあったってわけじゃ。それは拳銃じゃよ。 」

寺野 「 …拳銃ってなに?? 」 < チャッ >

ノメ婆  「 銃口をこっちに向けんな!…そこに付いてる引き金を引いて見な。 こう、人差し指でグッとやるんじゃ。あたしにゃ固くて全く引けんがな。 」

寺野 「 え? あっ これを引くのね。よっ 」

< ボシュ―ン!> ノメ婆の頭をかすめる。 弾丸の威力でセンター分けのようにくっきりラインが付いている。

ノメ婆  「 あっ 危ぇぇぇぇえええええええ!!!! テメー育ての親の恩を仇で返そうとするんじゃねぇー!!! クソガキがぁ、呪い殺してやる! 」

寺野 「 はは、ははは。。。これがケンジュウ? 」

ノメ婆 「 テメー 出て行きやがれ! レイディの頭にくっきり弾痕付けやがって! ここを滑走路と間違えて、飛行機が離着陸して来たらどうすんだ! 二度と戻ってくんなよ!! …めげた時以外はな。 あばよ!! 」

寺野 「 うわっ わかったよ… 出てくよ、出て行けばいいんだろ! 常識は無いけど、感謝の気持ちは普通以上にあるんだからな! …あばよ!! 」

どこから持って来たか分からない、巨大な鎖鎌をギュンギュンとぶん回して寺野を追い出す、ノメ婆。 忌み子を拾って以来、騒がしかった日常もまた1人の静かな生活へと戻って行く。「病の樹海」は、自身に纏わりつく黒墨を、1人では拭い切れない生きた亡霊たちの交差点なのかもしれない。



【 --- 場面転換して、寺野家 --- 】


< ブイーーーーーン > 突如鳴り響く小型ドローンの飛行音。玄関先に、流行りのデリバリー・ドローン(D&D)が飛んで来た。箱を受け取り 開けると、条が注文していた “新品のパーカーコート”と、“ジャンバルジャン・ドーナツ”が入っていた。

寺野  「 あっ 大噛さんからだ。ふむふむ、新品のパーカーコートに、激辛ドーナツ? …あと、請求書じゃないですか。 」

ちゃっかり着払いにしたようだ。

パーカーコートに手を通す、寺野。今回は大人用でジャスサイズのようだ。着替えた拍子にドーナツを床に落としてしまう。群がるゴメス・オオトカゲたち。真っ先に出て来た、パーカーコートを着た1匹のオオトカゲがドーナツをバクりと食った途端、猛烈に火を吐いている。< ブゴォオオ! >

寺野 「 ……大丈夫かい? ほらっ メロン牛乳飲みな。 おっと続きだった。 」< ぐびぐび > メロン牛乳を飲んだオオトカゲが通常に戻ったようだ。

< パピューン、パピューン >

ちゃぶ台の上に茶菓子を置き、レジェンドゲーム 「ダルアーガの塔」をプレイしながら、闇への復讐をイメージしているようだ。何とも気の抜けた日常、明日、闇の組織に乗り込むとは到底思えないほどのリラックス感だ。 アクリルのショーケースには1/144のプラモと、超人の消しゴムがびっしり飾ってある。

寺野 「 さて、明日は早い出発だから、今のうちに買い物でもしておくか。 …お菓子は何円分まで持って行っていいんでしょうかね? 」



【--- 場面転換して、条一狼サイド ---】


寺野と一旦別れ、車を走らせる、条。 どうやら、「病の樹海」に向かっているようだ。

条 「 せっかく近くに来たんだ。行きたかねぇけど… ちょっと寄ってみるか、“餌月訓練場” 跡地 」

跡地に辿り着くと、訓練道場の建物は未だ取り壊されておらず、木々が生い茂り、蔦が絡み付いている。 施錠されており、中には入れない模様。授業塔、下宿塔なども、建物こそ古びた状態ではあるが、未だ取り壊されてはいなかった。

条 「 今思うと、こんな刑務所みたいな場所に放り込まれ、しごかれて… とても未来のIT犯罪を司る人間が修練する場所じゃねぇよな。。 」


当時の訓練模様を思い出し、冷や汗を掻いている。 過酷な訓練で、バタバタと倒れて行く訓練生たち。その中でやたらとピンピンしている同期生が。組手にて、鬼の強さを誇る指導教官と互角、もしくは、それ以上に渡り合っている。

条 「 …そういやぁ あいつら今何してんだろな。 そのまま国家警察入ったんだろうけど。 」 < !? >


当時の思い出にふけりながら周辺を探索していると、恐らく何かの生物のものであろう、巨大な足跡を発見する。 足跡は樹海の奥地へと続いている。寺野の復讐サポートの前に、UMA狩りに行こうか真剣に迷っている、条。 都市伝説やUMA、心霊などが大好物だ。

条 「 おっさんとの待ち合わせまであと2日か… 狩りに行っちゃうか? こんなバケモン捕まえたら世紀の大発見だぜ。 」


男のロマンを求めて、樹海の奥へと歩を進めようとしている、条。奥に行けば行くほど、日の光が木々に遮られ、昼間でも不気味な闇が容赦なく広がっている。多発する自殺者たちの怨霊、生き残った死刑囚の都市伝説などもあり、条にとってはむしろ、おあつらえ向きな状況だ。不謹慎にも嬉々となって歩を進める。

耳鳴りか、気のせいか、かすかに唸り声のような音が樹海中に溢れている…。しばらく歩いていると、見るからに不気味な掘っ立て小屋を発見する。

条 「 おいおい、何だよ 気持ち悪ぃな… 天然のお化け屋敷ってあるもんだな。 」 小屋に近づいた条に、後ろから声を掛ける人影が。

老婆  「 ごらっ! 誰じゃ貴様は!! 」
巨大な鎖鎌を携えている。

条 「 うわっ! ビックリしたぁー って、メスの死神? いやっ、魔女かよ! 」


( つづく )


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