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小説

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2023年3月の記事一覧

テスト4

 不意の質問に虚を衝かれながら改めて考えてみる。
 自分が頼ろうとした目の前の先輩が果たして人に何かを教えるという行為に向いているのか。
 答えは即座に出せた。
 否、である。
 月瀬水仙という人間がそんな行為に向いているわけがない。
 なにせ傍若無人が服を着て歩いているような人間なのだ、ちょっと冷静になって考えてみればすぐにわかることだった。
 そもそも水仙は先ほど水仙自身が言っていたようにテス

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テスト 3

 「部長はやっぱり全く勉強しなんですか?」
 周の頭にそんなふとした疑問が浮かんだのは問題集との睨めっこを始めて十分もしないうちだった。
 月瀬水仙という人物が宿題をしていたりするのを未だかつて周は見たことがない。
 授業にもまともに参加していないような話を噂で聞くのでどうしているのか気になった。
 (実際、授業をサボってこの部室に来ているのを周は幾度となく見ている)
 呑気にそんな質問をぶつけた

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テスト 2

 涼やかな風が部室のカーテンを穏やかに揺らした。
 カタカタとキータッチの音が響く部室には生徒が二人。
 PC画面に視線を戻し作業に戻った月瀬水仙と撃沈されたように机に突っ伏している桐間周の二人だけ。
 二人の間はかれこれ十数分程は沈黙が続いていた。
 学校生活の危機に、恥を忍んで先輩に頼ってはみたものの「面倒だから」なんて理由で拒否された周としてはどうにも納得がいかず不貞腐れるしかない。
 もち

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テスト

 「部長・・・!」
 その日、桐間周は珍しい程に真剣な顔、真剣な声で所属している部活動の部長ーー月瀬水仙に向き合っていた。
 そんな真剣な周に対し、水仙はPC画面から顔を上げ至極嫌そうな顔を返した。

 いつもと変わらない部室。
 涼やかな風が時折カーテンを揺らす。
 時は夏休みも過ぎ去り秋の始まりを感じ始めるような日々の中だった。
 月瀬水仙はいつもの部室、いつもの席でいつもの『仕事』をこなして

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