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小説

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2021年11月の記事一覧

ライフインホワイト 9

 綾瀬さんの捜索を始めて既に数時間経っていた。
 雨は止む様子もなく、気温も徐々に下がっているのが体感でわかるほどだった。
 正直に言って限界を感じていた。
 宛もなく捜索するには、俺は綾瀬さんのことを知らなさすぎる。
 なんとか記憶の中にある綾瀬さんとの会話を思い出して、探し回ってみたがなんの手掛かりも得られなかった。
 焦燥は募るばかりだが、それに囚われてしまえば足も動かなくなってしまう。
 

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ライフインホワイト 8

4/
 「クソ……っ!!」
 ポツポツと控えめに降り出した雨に打たれながら夜の街を駆ける。
 宛てがあるわけではない。
 思い付く場所をしらみつぶしに走り回るしかなかった。
 少しづつ衣服が湿っていく気持ちの悪い感覚もあったが、強い焦燥と着実に溜まっていく疲労がそれを意識させなかった。

 着信があった。
 清景の家で晩飯を食べ終わり心の余裕が幾分か生まれていた。
 綾瀬さんに関しては明日から一人

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ライフインホワイト 7

 自宅のアパートに戻ってきた。
 ポケットから鍵を取り出して、差し込む。
 それを回す直前に、そういえば晩御飯が何もなかったということを思い出した。
 冷蔵庫がからっぽで、買いだめしていたインスタント食品や冷凍食品を食べ尽くしてしまった。
 帰りにスーパーかコンビニにでも寄ってくるべきだった。
 面倒だが今から改めて行くしかない。
 なんとかならないだろうかと隣の部屋を見てみた。
 明かりがついて

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